<キーサミットの眺望>
ルートバーン(15):ルートバーントレッキング第1日目(4)
(湘南カラビナ隊)
2005年1月25日(金)~2月5日(日)
第4日目:2005年1月31日(月) (つづき)
14 キーサミット山頂
<キーサミットへ登る>
■キーサミットへの分岐点
12時36分,キーサミット(Key Summit)への分岐点に到着する.海抜845メートルである.辺りは,まだ鬱蒼とした森林に被われている.ここからキーサミットまで往復する.
分岐点の案内板の付近に10個ほどのリュックサックが置いてある.もう,先発隊がキーサミットへ向かっているらしい.
私たちも荷物を置いて,キーサミットへ行くことにする.
そうこうしている内に,私たちの仲間も,先発していた私とフクロウさんに追いつく.彼らも,焦れったくなって,東京組と大阪組を追い抜いて,自分たちのペースで歩いてきたという.
私たちは,山登りでは素人とはいえ,毎月,数回の登山を絶え間なく続けている.だから,一般の人たちに比較すると,体力に随分と差があることが分かる.
12時42分,私たち8人は,キーサミットへ向けて,ほぼ,一緒に歩き始める.行く手に,かなり急な登り坂が見えている.
<穂高連峰のような山並みが連続する>
<キーサミットへの分岐>
■急なトラバース道
登り始めると,すぐにかなり急なトラバース道になる.そして,背の低い灌木地帯に入りこむ.
向かって左から右へ傾斜する山肌をつづら折りの道が続く.地図で確かめると,この山肌はリビングストーン(Livingstone)山脈に連なる稜線上にあることが分かる.
私が先頭,次いでフクロウさんがドンドン登る.大分遅れて私たちの仲間が登ってくる.東京組と大阪組の姿はない.ほんの数分ほど登った頃,先発隊と思われる外国人が偉い勢いで下山してくる.登り優先なのは分かっているが,思わず山側によけて,例の
「ハァ~イ・・・」
で,やり過ごす.
ドンドン登る.右に大きくカーブすると,一段と見晴らしが良くなる.振り返ると,100メートルほど遅れて,額に鉢巻きをしたバーダーさんが登ってくるのが見下ろせる.そこから,さらに数10メートル遅れて,他のメンバーが賑やかに登ってくる.あのノシイカさんの声だろうか.存在感のある話し声がかすかに聞こえてくる.
すぐに平原のような所に登り詰める.
<眺望を楽しむ>
■キーサミットに到着
12時58分,キーサミットに到着する.標高919メートルである.
若い外人が,私に親しそうに話しかける.一瞬誰かなと思ったら,ガイドのチャドさんだった.彼は私の顔を見て,
「おお,お前は山欠菌か・・?」
と英語で聞く.
短時間の間に,良く私の名前を覚えたものだと感心するが,すぐに胸元に名札を付けていることに気が付く.
「うん,そうだよ・・・・すごい見晴らしだね.こんなに綺麗なところだとは予想していなかったよ」
私はブロークン英語でオベンチャラとも本音ともつかぬ感想をいう.
「OK!・・ここから,先へちょっと行くと道が枝分かれする.右側の道を辿ると,また,登ってきた道にぶつかるから,そのまま降りてくれ.左側の道には絶対に入らないで・・」
ニヤリとしながら,チャドさんは少々訛って巻き舌の分かりづらい英語で私に注意する.
<キーサミット>
■素晴らしい眺望
山頂からの眺めは,本当に素晴らしい.南半球なので,太陽の位置を見ても,とっさに自分がどちらの方向を向いているのかよく分からない.
雲一つない青空から紫外線タップリの太陽が痛いほどジリジリと照りつける.でも,乾燥しているせいか,不思議と蒸し暑さはない.あかね色に日焼けした顔に大きな黒めがねを掛けたチャドさんが,私に,
「あっちを見てご覧.俺たちは,これから,あの山の峠を越えて,左の方にトラバースしていくんだよ.そして,あそこに見える山の中腹にあるロッジに泊まるよ」
チャドさんの指す方向には,槍ヶ岳を連ねたような急峻な山並みが見える.雪渓か氷河か分からないが,山頂から山腹に掛けて白い斑が至る所に襞のように流れ落ちている.
チャドさんとお喋りをしている内に,私たちの仲間も山頂に到着する.
私は,30分ぐらいは,ここに留まってスケッチをしたかったが,あまり遅くなるのもまずいので,スケッチは諦める.その代わりに,何枚もの写真を撮る.
<キーサミットの眺望>
15.マウントリトルとアーラン滝
<ハウンデン小屋で昼食>
■素敵な湿原
13時16分,私たち8名は,キーサミットから周回道路に沿って帰途につく.キーサミットの頂上はなだらかな平原になっている.ところどころに湿原が広がっている.湿原には小さな池がいくつかある.周辺の山々が池に逆さになって映っている.そよ風が吹くと,水面に小さな波紋が広がって,逆さに映った山並みが小さく揺れる.あまりに美しいので,ほんの30秒ほどで,池を中心にしたスケッチをする.
周回道路は数分で終わる.そして,先ほど登ってきたキーサミットへの登山道と合流する.そのまま道を下る.すぐに森林地帯に入る.そして,13時32分,元の登山道に戻る.ここで,ほんのひととき立ち休憩をして,13時34分,再び歩き始める.
ここからは緩やかな下り坂になる.どこからともなく川が流れる音が聞こえてくる.近くにホリフォード川(Hollyford R.)の支流,パスクリーク川(Pass Creek)が近くに流れている筈である.
キーサミットへの分岐から,標高で100メートルほども下っただろうか,下りきったところから少し高い丘の上にハウデン小屋(Howden Hut)が建っている.切り妻の屋根がT字形に組み合わされた小さな小屋である.
<ハウンデン小屋に到着>
■ハウンデン小屋に到着
13時45分,私たちはハウデン小屋に到着する.小屋は沢山のトレッカーで賑わっている.小屋の中に入った私たちは,運良く窓際の席に陣取ることができた.まずはレモンジュース,オレンジジュース,コーヒーなどを味わう.そして,昼食.サンドイッチである.パンがとても美味しい.オレンジ一個,パンケーキ,チョコレートなど.ただ,随分と量が多い.
14時20分,ハウデン小屋を出発する.
<アーランド滝と素晴らしい展望>
■アーランド滝
15時37分,私たちはアーランド滝(Earland Fall)へ到着する.落差83メートルの巨大な滝である.周辺に冷気が激しく流れてくる.水しぶきがたちまちの内に私たちをびしょ濡れにする.ついでに私のデジカメを動作不良にする.轟々と鈍い地響きを唸らせながら,大量の水が絶え間なく落下してくる.もの凄い迫力である.
<アーランド滝近くで冷たい水を飲む>
<アーランド滝>
■見晴らしの良いトラバース道
カナダ人,オーストラリア人を中心とするグループが先に滝を後にする.ほとんどの方々が,ストックをカチカチと岩肌に当てながら,おっかなびっくり岩場の傾斜を下っていく.濡れているとはいえ,そんなに危険なところではないので,少し山歩きをしている連中には,別にどうという場所ではない.
15時42分,外人部隊よりも少し遅れて,私たちも滝壺を出発する.間もなく,素晴らしい見晴らしのトラバース道に出る.ほぼ水平な山道が,左手に大きな弧を描きながら続く.眩しくてのんびりしたムードの道である.
15時50分頃,いよいよ素晴らしいパノラマが目の前に展開する.デジカメが動作不良なので,控えの35ミリカメラを出して,辺りの風景を撮りまくる.振り返ると,先ほど一休みしたアーランド滝の全景が,まるで巨大な氷柱のように見える.進行方向右手には,広大な山稜が連なっている.一番左手には,威風堂々のマウントクリスチーナ山(Mt.Christina)が,氷河を抱きながら聳えている.そして,氷河が切り開いたU字谷を挟んで,マウントリトル(Mt.Little)が続く.
何という神々しさ,荒々しさなのだろう.美しい自然を目の当たりにして,身震いするほどの感銘を受ける.
<トラバース道からの眺望>
※中央がマウントリトル,右がマウントノーネーム
■日々爺=ディジー
私たちはポリフォード谷で2番目の大きなスロープの中を歩いている.この辺りから,これから訪れるダーラン山脈辺りの植生は,在来種のニュージーランドフラックス(New Zealand Flax)や,コプロスマ(Coprosma)が沢山繁茂している.
ニュージーランドフラックスは,細長くて固い2メートル程の長さを持つ葉が数10本,まるで剣山のように生えていて,トゲトゲとした外観を持っている.リマーカブルズをトレッキングしたときの案内役,デビッドさんが,
「これはとても大切な植物です.この葉っぱを編んで服や篭,マット,網などを作っていました」
と説明していたのを思い出す.
コプロスマには,赤い小さな実がなり,マオリ人の食料になったという.この実からコーヒーのような味の飲料が作れるそうである(Ryall, R., 2002, p.30 & p.44).
路傍には,白い可憐な花が沢山咲いている.ラージマウンテンデイジー(Lage Moutain Daisy)は花の直径が10センチメートルほどもあるだろうか,ところどころに咲いている.
またエバーラスティングデイジー(Everlasting Daisy)は,花の直径が15ミリメートル程,ビッシリと密集して咲いている(Ryall, R., 2002, p.58).物覚えが下手な私は,「ディジー」という名称がなかなか覚えられない.そこで,ディジーを「日々爺(日々=ディ,爺=じじい)」と意訳して覚えることにした.
私の近くを歩いている消防隊長に,何回も,
「日々爺って何という名前の花でしたか」
と質問して,あきれられる.
花音痴の私は,帰国後,ディジーは「雛菊」のことだと分かった.
「何だ,雛菊か」
とがっかりしたような安心したような気分になった.ただ,オーストラリアのディジーは,日本の雛菊に比較すると,ずいぶんと大きな花を咲かせているように思える.
<ディジーの群生>
<美しい花が咲き乱れるトラバース道>
[参考文献]
Ryall,R.,2002,『ニュージーランド南アルプスの植物』Ryall Enterprise ISBN 0-473-04919
(つづく)
「ルートバーン」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/aa1afd5a305347864d530859025aafbe
「ルートバーン」の次回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/56ea5acd331e522714c3a09eaab373d7
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