尖閣沖の中国海警船、令和6年は過去最多の年間355日確認 データで見る活動の実態
令和6年に尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の領海外側にある接続水域で、中国海警局の船の航行が確認された日数が、過去最多の355日を記録した。昨年7月23日には、尖閣諸島を国有化した平成24年9月以降で最長となる215日連続を記録するなど、海警船の〝常駐化〟が進行。さらに、尖閣沖に現れる海警局の船団が全て76ミリ機関砲を搭載するなど、緊張が高まっている。これに対し海上保安庁は、海警船を上回る数の船舶を尖閣周辺に送り込み、警備を固めている。
軍の傘下で高まる規律
尖閣諸島周辺の接続水域で近年、海警船が連続で確認された日数を比較すると、上位10傑のうち9件は令和に記録されたものだ。唯一の例外は、平成31年4月12日から64日間の記録だが、令和への改元を挟んでいる。
海警船の接続水域への入域を時系列で見ると、令和元年から頻度が増していることが分かる。その前年に、中国は海警局を中央軍事委員会の傘下に組み入れた。
令和5年12月22日から昨年7月23日にかけては、過去最長の215日連続を記録した。この頃には、海警船が大型化し、操船技術も向上。軍の指揮下で規律も高まり、荒天でも退避することなく接続水域にとどまるケースが増えた。大しけでもなければ、尖閣周辺を離れなくなっているという。
海保を上回る機関砲を搭載
尖閣周辺に現れる海警船は、昨年6月7日の交代を機に、全て機関砲搭載船になった。
従来は4隻の船団のうち1隻が機関砲を搭載していたが、6月以降は中国海軍のコルベット艦を転用した「海警1107」や「海警1109」を投入するなどして、4隻全てに機関砲を搭載。現場の海域ではいっそう緊張が高まっている。
ただ6月の交替当初は、船舶の大きさが従来の3000トン~4000トンクラスに替えて、1000トンクラスの機関砲搭載船が投入されたため、船団は以前より小型化していた。海警船は、船名に示される4桁の船番号のうち、左から2番目の数字が排水トン数に対応しているとされる。この数字を基準に船団の規模を算定すると、これまでの平均3000トン前後から2000トン前後へと小さくなっていた。
しかし、昨年12月6日の交代では、中国海軍のフリゲート艦をベースにした「818型艦」を新たに投入。船名「海警2303」「海警2305」とされるこれらの船舶により、船団は大型化すると同時に、4隻がすべて76ミリ砲を統一するようになった。海保の最大の機関砲は40ミリで、海警船の方が重装備といえる。
元海上保安庁長官の奥島高弘氏(海上保安協会理事長)は、「76ミリという機関砲の大きさよりも、全船が機関砲を備えるようになった点の方が重要だ。中国は、船に放水銃も電光掲示板も無かった状態から、着実に装備を充実させ、隻数を増やしている。尖閣を取るための準備をしてきており、確認日数の増加も驚かない」と話す。
ただ、接続水域に現れる日数は増えたが、領海に侵入する日数は増えていない。過去最高は平成25年の年間54日、延べ188隻だが、ここ数年は年間40日前後だ。海保の巡視船が徹底的にガードしていることもあり、海警船の領海侵入は日本漁船を追跡する場合を除けば、かすめる程度にとどまっていることが多いという。
海警船2隻に多数の海保巡視船
海保と海警局の間には、明確な非対称性が存在する。海警局の船舶は昨年3月以降、自らの位置情報を発信する船舶自動識別装置(AIS)を作動させながら航行しているのに対し、海保は警備体制を秘匿するため、原則としてAISを作動させていない。
このため、船舶の航行状況を確認できる「MarineTrafic」などのウェブサイトでは、尖閣周辺で海警船のみ航行しているかのような状態だ。
ただオープンデータを詳しく分析すると、海保による海上警備の様子も時折、記録されている。
例えば、石垣市が昨年4月に尖閣諸島を調査した際、AIS情報では、同市がチャーターした調査船を2隻の海警船が追いかけている状況が記録されている。しかし欧州宇宙機関(ESA)の衛星画像には、海保の巡視船とみられる5隻の船舶も写っていた。実際には、周辺に海保の巡視船は10隻以上が配備されていたという。
尖閣周辺では、海保は航空機の位置情報も秘匿している。航空機の航跡を確認できる「フライトレコーダー24」などのウェブサイトでも、ほとんどの場合、海保機の動きは離着陸の前後を除いて知ることができない。
海警船が帰るまで離れない
しかし、ごくまれに、海保機が尖閣諸島を警備している様子が、ADS-B(放送型自動従属監視)のデータで記録されている。
フライトレコーダー24の昨年1月7日のデータでは、海保の保有機と同型の中型ジェット「ファルコン2000」が、魚釣島上空の領空を飛行する様子を確認できる。同機は、16時ごろに下地空港(宮古島市)周辺に現れ、石垣島の北を通って魚釣島の周辺を飛行し、19時半ごろに那覇空港内にある海保の那覇航空基地の前で停止した。尖閣諸島をパトロールする海保機の飛行ルートとみられる。
海保はオープンデータに痕跡を残すことがめったにないが、いかなる時でも海上に出て尖閣諸島を守っている。その点が、可能な範囲で尖閣沖に居座る海警船との大きな相違だ。
昨年8月16日、魚釣島に上陸したメキシコ人を確保したのは海保だった。9月26日には、かつて海警船だった中国の調査船から海保に救助要請が入り、海上自衛隊が負傷した中国人船員を救助した。
海保は「海上保安レポート2024」において、「広大な海域で、昼夜を分かたず、巡視船・航空機により領海警備を実施」としている。奥島氏は「(確認日数が最多となった)海警局よりも、海保はさらに長い間警備している。海保の巡視船は、台風が来ても海警船が帰るまでは尖閣諸島から離れないし、台風が去れば海警船よりも早く海域に戻る。その海保の後ろには、海上自衛隊も控えている」と過酷な警備活動の一端を明かす。
中国は尖閣周辺を〝領土・領海〟と主張し、海警船を連日送り込んでいる。これに対抗し、海保もまた尖閣沖の海上に常駐していることを忘れてはならない。(データアナリスト 西山諒)
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