理研の万能細胞、海外から賛辞 「また日本人が成果」
30日付の英科学誌ネイチャーに掲載された新たな万能細胞「STAP細胞」開発の成果は海外の主要なメディアが取り上げ、称賛する研究者の声を紹介した。
STAP細胞は、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の小保方晴子研究ユニットリーダー(30)らが作製。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのクリス・メイソン教授は「また日本人が万能細胞の作製法を書き換えた。山中伸弥氏は4つの遺伝子で人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作ったが、STAP細胞は一時的に酸性溶液に浸して培養するだけ。どれだけ簡単になるんだ」と驚きのコメントをネイチャーに寄せた。
米ピッツバーグ大の研究者は米NBCテレビの取材に「成果は衝撃的で、強力な可能性を秘めている」と評価し、今後の応用に期待を寄せた。
ロンドン大キングズ・カレッジの研究者はBBC放送などの英メディアに「本当に革命的。幹細胞生物学の新時代の幕開けだ。理研チームが年内に人のSTAP細胞を作っても驚かない」とたたえた。
一方、米カリフォルニア大ロサンゼルス校の研究者はAP通信に「人間でも同じことが起こると示されないうちは、どう応用できるか分からない。医学的に役立つかはまだ何とも言えない」とコメントし、慎重な見方を示した。
女性リーダ、日本の誇り
様々な臓器や組織の細胞に成長する新たな万能細胞「STAP細胞」の開発成果のニュースから一夜明けた30日、国内外の関係者からは称賛と驚きの声が上がった。
「色々な専門家に恐れず質問し、突破口を開いていく姿勢が快挙につながったのではないか」。開発した理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダー(30)の大学時代の指導教員だった常田聡早稲田大教授(先進理工学部)らが30日午前、東京都内で記者会見し、こう喜んだ。
常田教授によると、小保方さんは2002年、早稲田大に入学。試験時の実験の手際が非常によく、試験官に「大学院博士課程ではどんな研究ができるのですか」と質問する姿が印象に残っているという。
05年から常田教授の研究室に所属。先輩や同級生からは「オボちゃん」などと呼ばれていたという。明るい性格で、学部時代はラクロス部でレギュラーとして活躍。おしゃれにも気を使い、若者に人気のブランドを身につけた。一方で、「研究成果は実験量に比例する」と休日も研究室にこもったといい、「非常に積極的で努力家の学生だった」と振り返った。
下村博文文部科学相は30日、「画期的で、30歳の女性がリーダーで研究をしたというのは日本にとって誇りだと思う。今回のような研究に対しても支援を加速度的にしていくことを考えたい」と述べた。加藤勝信官房副長官も30日午前の記者会見で、「将来の革新的な再生医療につながるものと大変期待する」と述べた。
中国の北京市第1中級人民法院(地裁)は、市民運動家の許志永氏に対し公共秩序騒乱の罪で懲役4年の実刑判決を言い渡した。
許氏は教育の機会均等や政府高官の資産公開などを求める「新公民運動」の中心人物。中国憲法の枠内での改革を訴え、一党独裁の打破は主張していない。
いわば穏健な改革を唱えてきたのだが、それでも共産党政権は厳しい実刑を科した。許氏のほかにも新公民運動の関係者は昨年から次々と当局に拘束されてきた。
異論を認めない共産党政権の非民主的な体質が改めて露呈したといえる。同時に、習近平国家主席ひきいる現指導部の本質が浮き彫りになった印象も強い。
許氏の公判の直前、国際的な報道機関のICIJ(本部ワシントン)は習主席や温家宝前首相の親族らが英領バージン諸島などのタックスヘイブン(租税回避地)で資産を運用してきたと伝えた。
高官の資産公開を訴える新公民運動への弾圧は、習主席らが自らの暗部を隠すためでは、との疑いを禁じ得ない。習主席の旗振りで進む腐敗撲滅キャンペーンや司法改革も、つまるところ政敵を排除し自らの権力基盤を強めるための政治的布石にみえてくる。
許氏の公判に先立ち、共産党政権はウイグル族の研究者、イリハム・トフティ中央民族大学准教授を拘束した。数日後に当局は、ウイグル独立派と連携して「国家分裂活動に従事した」との容疑を明らかにした。
イリハム氏はウイグル族の人権擁護を訴える言論活動で知られ、昨年10月に北京・天安門前で起きた突入・炎上事件の際には「分裂主義者のテロ」と決めつけた当局の発表に疑念を呈した。許氏と同じくイリハム氏も言論活動が罪に問われた印象が強い。
習政権は力で異論を抑え込む反動的な姿勢を改めるべきだ。中国社会の安定は世界経済にとっても大切で、日本をはじめ国際社会としても習政権に姿勢転換を促していく必要があろう。
論文一時は却下…かっぽう着の「リケジョ」快挙
生物学の常識を覆す発見を世界に先駆けて公表したのは、30歳の日本人女性が率いる国際研究チームだった。 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の小保方(おぼかた)晴子さんが研究を着想してから6年。意表を突く簡単な手法で様々な組織に変化できる「STAP細胞」を作ったとの論文は当初、一流科学誌から「信じられない」と掲載を拒否されたが、日本のベテラン研究陣の後押しが成功に導いた。 小保方さんは早稲田大理工学部を2006年に卒業後、高校時代から憧れていた再生医学の研究を開始。この年、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を作製したと発表した山中伸弥・京都大教授の講演を聞き、研究に打ち込む決意を強めた。刺激で細胞を変化させるという今回の成果につながるアイデアが浮かんだのは08年に留学していた米ハーバード大でのことだった。 実験で極細のガラス管にマウスの細胞を通すと、予想より多い幹細胞ができた。「狭い場所を通る刺激がきっかけになったのではないか」と発想を転換して研究を続けた。 しかし、米国の専門家にも共同研究を持ちかけても、実績のない若手は相手にされない。救いの手を差し伸べたのは10年、センターで研究中の若山照彦・現山梨大教授(46)だった。世界初のクローンマウスを作った若山さんは、突然訪ねてきた小保方さんの協力依頼に「最初は信じられなかったが、僕が証明できれば米国に勝てると思った」と応じた。 毒素を使ったり、細胞に栄養を与えず飢餓状態にしたり……。11年にセンター客員研究員になった小保方さんは実験を続け、その年の冬、若山さんと、STAP細胞からできた細胞を持つマウスを誕生させた。 権威ある科学誌ネイチャーに論文を投稿したが、掲載は却下され、審査した研究者からは「細胞生物学の歴史を愚弄している」という趣旨のメールも届いた。肩を落とす小保方さんを、幹細胞研究の第一人者である笹井芳樹・副センター長(51)らが支援。データを解析し直し昨年3月、論文を再投稿。掲載が決まった。 研究室のスタッフ5人は全員女性。研究室の壁はピンクや黄色で、好きなムーミンのキャラクターシールも貼っている。仕事着は白衣ではなく、大学院時代に祖母からもらったかっぽう着。「これを着ると家族に応援してもらっているように感じる」という。 理系の女子学生や女性研究者を指す「リケジョ」が注目される中で飛び出した成果。日本分子生物学会理事長の大隅典子・東北大教授(53)は「発生生物学は多くの女性研究者が活躍してきた分野。若手が見つけた小さな芽を、周囲のサポートで結実させた点もすばらしい」と喜んだ。 これから世界で激しい競争が予想される。「プレッシャーを感じるが、10年後、100年後の人類社会への貢献を意識して、一歩一歩進みたい」と決意を話した。 |
新型万能細胞
「誰も信じてくれなかった」…強い信念で常識打ち破る
難病やけがの治療に役立てる再生医療や創薬の世界に、新しい光が差した。理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)のチームがマウスでの作製に成功した新しい万能細胞「STAP細胞」。開発の中心に立った研究ユニットリーダー、小保方(おぼかた)晴子さん(30)を支えたのは、外部の理解を得られないときにも貫いた「必ず人の役に立つ技術だ」という信念だった。学位を取得して2年目の若き女性研究者が、医科学の世界に大きな成果をもたらした。
「誰も信じてくれなかったことが何よりも大変だった」。小保方さんは、STAP細胞の開発成功までの道のりをこう振り返った。
弱酸性の溶液に浸すだけのごく簡単な手法で万能細胞が作れるという研究成果は、極めて常識破りで革新的な報告だった。それ故に、昨年春、世界的に権威ある英科学誌ネイチャーに投稿した際は、「過去何百年の生物細胞学の歴史を愚弄している」と酷評され、掲載を却下された。
だが、信念を貫いて膨大なデータを集め、今回は掲載にこぎつけた。「何度もやめようと思ったけれど、あと1日だけ頑張ろうと続けてきた」
昭和58年、千葉県松戸市生まれ。高校時代にたまたま手に取った科学雑誌の記事で「社会に貢献できる」と再生医療に強い興味を持ち、研究者の道を選んだ。
早稲田大大学院を平成20年に修了後、米ハーバード大医学部に留学。担当教官との議論から始めた実験で、動物細胞を外部刺激で初期化できるのではないかという感触を初めて得た
中国の脅威・北朝鮮の核には一切触れず 重視は「体裁だけ」と批判も
1時間強の演説のうち、外交・安全保障政策に割かれた時間はわずかで、その大半が中東、アフガニスタン問題で占められた。
そうした中でオバマ氏は、アジア太平洋地域に言及し「重点的な取り組みを続け、同盟国を支援し、より大きな安全と繁栄の未来を形成する」という表現で事実上、アジア重視戦略を確認した。「フィリピンのように自然災害によって荒廃した国に(支援の)手を差し伸べる」とも指摘した。
しかし、東シナ海上空に防空識別圏を設定するなど覇権拡大と実効支配の動きを強め続ける中国の「脅威」には、口を閉ざした。
中国が「新型大国関係」の秋波を送った、昨年6月の米中首脳会談で両国関係の潮目は変わっている。一般教書演説で「脅威」に言及しなかったのも、「新型大国関係」に配慮したためとの見方もある。
アジア重視戦略を推進したゲーツ元国防長官とクリントン前国務長官が政権を去り、アジア重視戦略に対するオバマ氏の関心が薄れた、との指摘もあるが、日本や東南アジア諸国の一部にすれば、「不満」と「失望」を禁じ得ない。
生物学の常識覆す 理研の万能細胞
理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーらは、簡単な刺激で様々な臓器や組織に育つ万能細胞を哺乳類でも作れる可能性を示した。生物学の常識を覆し、けがや病気で失った機能を取り戻す再生医療の研究にも大きな影響を与えそうだ。ただ医療応用を進めるには人間の細胞でも成功することが条件で、今後の研究をまつ必要がある。
「信じられない。大きな刺激を受けた」。京都大学の山中伸弥教授の下でiPS細胞を作製した高橋和利講師は今回の成果をこう解説する。
植物には再生能力がある。木の枝を切って水につけると断面から根が出てくる。切断という刺激によって万能細胞が表面にできあがり、根の細胞に成長するためだ。トカゲも尾が切れると再生するが、これも同様の仕組みがあると考えられる。
一方、哺乳類では、血液や脳などの組織や臓器に育った細胞は万能細胞にならないとされていた。この常識を覆したのが山中教授だ。4種類の遺伝子を入れることでiPS細胞を作ることに成功した。
研究者は万能細胞に注目し、再生医療への応用を目指してきた。これまでに胚性幹細胞(ES細胞)やiPS細胞が登場したが、倫理面や作製効率などで課題を抱える。小保方リーダーらが開発したSTAP(スタップ)細胞は再生医療に役立つ「第3の万能細胞」になる可能性を秘める。
哺乳類では、植物のように簡単には万能細胞はできないと考えられてきた。小保方リーダーは「簡単な刺激で万能細胞になるか試したかった」と話す。様々な条件を試す中で、マウスの血液細胞(リンパ球)を弱い酸性の液体に浸せばよいことを見つけた。早稲田大学で化学工学を専攻。30歳と若く、生物学の常識にとらわれない発想がSTAP細胞を生み出した。
細胞を細い管に通したり、毒素をかけたりすることでも作製に成功。複雑な操作なしでも作製できる可能性を示した。
共同研究者の山梨大学の若山照彦教授や理研発生・再生科学総合研究センターの笹井芳樹副センター長らも初めて成果を聞いたときは「信じられなかった」という。海外研究者からは「何百年という細胞生物学の歴史を愚弄している」と批判された。今回の成果をまとめるのに5年かかった。
ただ、解決しなければならない課題も多い。再生医療へ応用するにはまず、人間の皮膚などの細胞からも作れるか確かめる必要がある。マウスで成功したからといって、人間でも同じ仕組みで皮膚などの細胞が万能細胞になるかは分からないからだ。高齢者の細胞だと作れない可能性もある。
また、刺激を受けているとき細胞内では何が起きているのか。刺激が強すぎると細胞は死んでしまうが、なぜ適度な刺激のときだけ万能細胞になるのか。こうした謎の解明も欠かせない。