ふくらく通信

東北人が記す、東北の良さや震災の事、日々のなんだりかんだり。
他所で見る東北の足跡や繋がり、町の今昔や輝きを発信。

かつての歌津

2017-09-15 16:42:39 | 東北被災地の歩み:南三陸・石巻

津波に消えた町の思い出。

町は、また作られていき、新たな暮らしと共に、以前の記憶も大切になるだろう。

かつて、そこにあって輝いていたことも、書き残しておきたい。

2008年3月の歌津の思い出。


   (以下、2008324日発信記事:再編集・再掲載)

 

すっかり日が暮れて、灯りなしでは、真っ暗な道であった。
本吉町から、そろそろ仙台に帰ろうと、国道45号線を通って石巻方面に向かった「ふくらく通信取材隊」(自分と連れ合い)である。


夜道で退屈しないよう、運転する隊員1号(連れ合い)に声を掛けていた、当の隊長(自分)のほうが、
「飽きた、飽きた」などと、騒ぎだす。
すると、静かな国道の右端に、手書きの案内板が見えた。

『歌津 伊里前商店街 こちら』との文字が、夜道に浮かんでいるではないか。
「商店街だってよ。行ってみようか。」と隊員1号が言い、
「7時だけど、お店やってるかな」と、ちょっと迷ったものの、やはり寄ってみることにした。


看板の方へと、わき道に入ると、直ぐにまた道が二又に分かれている。

「これ、右じゃないよな、こっちか」と、二又の道の左側を進むと、何だか暗い上り坂。
「トワイライトゾーンだったりして」


暗い山道に入り込んだような、静かな夜道で、

「商店街、ほんとにあるのか!?」まさか、狐に化かされたわけではあるまいが、一瞬不安になった。


曲がりくねった、ゆるい坂道を上っていく。すると、曲がって上ったその先で、正面に灯りが見えた。

「あ、着いたか?」さらに進むと、
「あっ、お店だ!」
あったあった、歌津の商店街だ。

正面に見えた、そのお店は、看板に「自家製うに味噌」とある。
これに惹かれて、お店に飛び込み、うに味噌を買った。 

乾物や海産物加工品のお店、「及新さん」のうに味噌。



さらに道を進むと、またしても、お菓子屋さんを発見。

「朝日堂」と店頭にある。
店内には、和菓子もケーキもあった。

ショートケーキは、都市部と違って、大きくて素朴で安いのがとても素敵だ。



練りきりの和菓子や、焼き菓子も色々あり、ばら売りの焼き菓子を見ると、「魚竜饅頭」というのがあった。
「魚竜饅頭って、面白いですね」と声を掛けたら、
「うん、普通の饅頭なんだけどね。」とまあ、飾らない答えが返ってきて、笑ってしまう。

この辺は、飾らない素直な人々の町らしく、なんとも、あったかい雰囲気だ。

「田束山(たつがねさん)ってこの辺ですもんね」と、同名の菓子を指して言うと、
「うん、それねコーヒー味」と教えてくれ、四季の実は、中にごろっと実が入っているとか、カボチャパイも美味しいとか教わったので、それらを買った。

帰り際は、一つオマケに「くるみどうなつ」を下さって、あったかい笑顔で
「おやすみなさい」と声を掛けてくれたのだった。



ここは昔の宿場町らしく、お茶屋さんや雑貨屋さんに旅館など、木造の建物も、夜道に灯る看板も、道に沿って立ち並ぶ様に風情があった。
「昼は、また違った表情なんだろうなぁ」と思いながら、お別れだ。

道は海沿いになり、湾の灯りでうっすらと見える、黒い夜の海を眺めつつ進む。
「今度は、昼間のうちに来たいな」と言いながら、飾らない港町の、あったかい雰囲気を味わってきた一日であった。

    


朝日堂さんの「四季の実」は、割ると本当にごろんと丸ごと入っていた。四角のは、「田束山」で、コーヒーの香りが広がる。


また、及新さんのうに味噌は、まろやかで香りよく、うにの旨みが活きた絶妙の味付けだ。このうに味噌を、長いもを輪切りにした上に乗せてみたら、それもまた旨かった。ぜひ、また食べたい。