数年前すばらしく潜在能力の高い子が腕白ゼミ(三年生のクラス)に入団してくれました。
しかし、数ヶ月間指導して、将来の学習の進め方・学力の伸長までを考えると、彼には致命的なウィークポイントがあることがわかりました。
新しい単元や初めて習うことはすぐお手上げになるのです。ヒントを与え、考えるよう誘導しても「自ら考えようとしません」。教えてもらうのを待っているのです。典型的な指示待ち・他者依存型に育っています。「分からん!」「これ。どうすんの?」と小さい声を繰り返すばかりで、問題を読み、問題に入っていくことができません。
入団面接の時の話で、お父さんは「超一流」の私立一貫校を卒業した医者だと、看護師だったというお母さんが誇らしげに話してくれました。
教育環境や学習に対する理解はそれなりに整っているだろうと予想しました。指導方針もきちんと説明し、理解してもらえただろうと期待していました。
ところが入団後、すぐ首をかしげるようなできごとがありました。
予定の体験学習に彼が参加しません。当時、団では「君は名ドライバー」という体験学習をおこなっていました。自動車教習所を経営している知人に協力を頼み指導員をつけてもらって、実際に子どもたちに自動車の運転をさせるという取り組みです。電話をして欠席理由を聞くと、電話口のお父さんの返事は「運転を覚えて勝手にひとりで運転したら困るから・・・」。
びっくりしました。発想がまったく逆です。子どもたちはそんなことをしたらいけない、危ないということを覚えて帰るのです。釣り竿や竹とんぼづくりで使う肥後守もそうですが、使ってみて、使い方や威力・怖さが分かったら、子どもたちは手出しはしません。無闇に手を出してはいけない、遊び半分では危険だということを覚えるのです。
「君は名ドライバー」は十年以上続けていた取り組みで、毎年、子どもたちはその気になれば、家にある車をひとりで運転できる知識を身につけて帰りました。
参加した子の中には「やんちゃ坊主」も何人もいました。しかし、帰ってから一人で運転をしたり、いたずらをした子はただの一人もいません。
教習所のおじさんに教えてもらう交通ルール・車のスピード・ハンドルを通して自動車の「威力」がきちんとわかれば、隠れて自分で車を運転することなんかしません。
禁止したお父さんは、きっと外遊びや男の子らしい体験をあまりしないで育ってきた人なんだろう、と想像できました。小さいころ、自らもすぐ、「危険だからやめなさい」などと止められて育ってきたのでしょう。「危なくないように、失敗をしないように」と、いつも見守られ「危ないこと」をしないように育てられてきた人なのでしょう。
実際にたくさんの子どもたちを相手にして教える経験でもない限り、子育ての基準は個人の経験に頼るしかありません。その場合、客観的な判断の前に気持ちが入りすぎ、なかなかベストの判断とはなりにくいのが一般的です。近年までは、そこで、社会的経験が豊富であるお父さんの基準が大きな柱になっていました。ところが、最近のお父さんの多くは、「石橋をたたいてたたいて、結局渡らせずに、自分が舟で送る」ような始末になっているような気がします。
よく『頭を切り換えて』といいますが、ぼくたちは生活と仕事を、それぞれ別の頭を用意してやっているわけではありません。発想のパターンや行動の指針がそれぞれ影響し合う関係になってしまうことを免れることはできません。子どもも、遊びにしろ、体験学習にしろ、勉強にしろ、それぞれ別の頭を使ってやるわけではありません。
必要以上に過保護にされ、ひとりで新しいことや経験のないことに立ち向かうことを知らない子は、難題に当たったとき勇気を出して解決に向かう気概を、いつどこで身につけることができるのでしょうか。やがて彼が関わることになるどんな問題に対しても、その発想や姿勢は共通してくるはずです。
学習にも影響が出ないというはずはありません。何事にも積極的にチャレンジしていくという姿勢が身につかなければ、いつか大きな壁にぶつかる時期が来るでしょう。
低学年の間は問題のシンプルさや本来の素質で乗り切れても、学年が進んでいくほど勉強はできなくなるでしょう。
結果が予想できたので、できるだけひとりで自分で前へ進むことができるようにと考えての指導を続けていると、ある日、お母さんが来られました。
「教えてくれない」と言っているというクレームです。
彼以外にも以前同じようなことはあったので、またかと思いつつ、指導の方法と意味をもう一度詳しく説明しました。
しかしこうした子どもの保護者はたいてい同じで、結局退団ということになりました。
(2)につづく
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