誰でもできる、必ず役に立つ学力飛躍の秘訣
・・・次の日の授業予定箇所を必ず読んでおく
勉強を「手軽」に済ませることはできません。しかしこの稿の最後に、一昨年の渓流教室でのエピソードから、実行さえすれば、誰でも学力を飛躍的に上げられる方法を一つ紹介します。やろうと思えば、すぐできる簡単な方法です。
一昨年は渓流教室に、K君をはじめとする京大進学OB三人と阪大進学OB一人が集ってくれました。参加していたひとりのお母さんが先に紹介したK君に勉強法をたずねました。
その返答です。
「ぼくは六年間欠かさなかったことがあります。それは、次の日に学習する予定の教科書の該当箇所を必ず読んでおくことでした」
嬉しくなりました。Kくんは、その勉強方法の出処をすっかりわすれていましたが、ぼくが、中学受験を終えた諸君に、毎年「とっておきの最低限の勉強法」として奨励している方法です。もちろん当時K君にも進言しました。
しかし、「律儀に日々くり返すこと」ができた子はあまりいません。K君のすごいところは、それをまじめに六年間続けたところです。「学体力」です。平凡は律儀に積み重ねることで非凡へと転化します。
この方法は単純ですが、次のような大きな利点があります。
新しく習うところの「先取り」ですから内容に「新鮮さ」があります。読み進めるうちに新たな発見や疑問点が眼につきます。集中するわけです。
さらに「学習」を毎日意識するようになります。真面目な子は疑問点が気になり調べようとするでしょうし、そうでなくても、次の日の授業や先生の講義に対する集中力が変わってきます。それによって考える機会が増え、記憶の定着率も飛躍的に増します。この習慣を中・高六年の間毎日くり返せば、その効果は絶大です。
友人の公立高校の教師に聞かされることですが、塾や予備校に通っている子は授業中寝てしまっている子がたくさんいるそうです。先生が指導力を問われていることはもちろんですが、友人の学校は奈良県下でトップの公立校で、先生の質もそれなりです。授業を聞かないで寝ていれば、いくらよい学校に通っていても、有名予備校に通っていても、まったく意味がありません。
きちんとした授業をする学校に進学すれば、難関大学への残りの「プラスアルファ」を自らで補填することは十分可能です。自学できます。団の子たちが塾や予備校に通わなくても難関国立大学へ進学できる大きな理由の一つは、課外学習や立体授業を通じた日ごろの指導で授業に対する集中力が鍛えられ、整っているからです。これも「学体力」の大きな基盤です。
「学体力」をたとえると・・・大量生産の料理包丁と手づくりのナイフ
団の指導方法について考えてみることがあります。
今の多くの受験学習指導を、たとえば調理師の修業や料理教室にたとえてみると、三枚おろしにした魚やきれいに仕分けられた肉を用意し、料理にあった安物の包丁を購入させ、「マニュアルどおり」に料理をつくらせている、そんなようすが浮かんできます。
それぞれの科目や問題に応じて、出刃包丁・刺身包丁・菜切り包丁・ペティナイフ・・・いろいろ揃えてもらって、買った当時はそれなりによく切れ(教えてもらった問題はわかった気になり)、一応見かけよく料理を仕上げることができる(有名校に合格できる)が、すぐに切れやみ、研ぎ方も知らないので(考える力や習慣がついていないので、学習したことが無駄になり)、一生懸命研いでも満足に刃を立てることもできないので使い捨て(学ぶ面白さや学体力が身についていないので、学んだことが有効活用できない)。
いろんな包丁を料理に合わせて使うことしか教えられていないので、一本でも忘れてしまえば肝心の料理を最後まで仕上げられない(学習しても応用力がない)。それでは職人になることもできないし、当人も「包丁を揃える」のに忙しくて、「腕利きの職人」になれることなど考えたこともない(詰め込み授業を消化するのに忙しく、夢をもつひまがなく、能力を生かせる術がわからない)。
研ぎ方を教えてくれる「お店」で買えば再利用も可能だが、研ぎ方も教えなければ、他にもっといい包丁があることも教えない。長い人生なのに、現物はすぐに使い物にならず、そのままゴミ箱行きです。
そんなイメージを抱くのはぼくだけでしょうか?
子どもたちに(特に、こういう例はOB教室で)よく話します。
・・・いろんな包丁を君たちに用意してあげることはできない。でも、見かけが悪くても、「ゴツゴツ」だって、何でもよく切れる、人生を切り開くことができる、いつまでも使えるナイフを砂鉄から鍛えることを教えてあげられるつもりだ。出刃包丁を忘れたので魚がさばけない、刺身包丁がないので薄造りはできない、なんてことになったら困るから・・・。
丈夫でよく切れるナイフがあれば猪だって捌ける。川原で砂鉄を取ってきて、鞴を使い、鉄を鍛錬し、自分のナイフを鍛えられるようになることがたいせつなんだ。研ぎ方や手入れの仕方も覚えておけば一生困らないだろう? 河原へ行けば砥石になる石だって探せるんだ、君たちは。もうわかるだろ?
「学体力」は、大量生産の研げない包丁・使い捨てのナイフではなくて、手づくりのナイフです。K君が鍛えたナイフです。
ぼくたちの一生は難題や難問の連続です。「学体力」のついた子どもたちは鍛え上げた切れ味の確かなナイフを振るって、料理してくれるでしょう。切れ味が鈍れば上手に研ぎ、そしてすり減れば、質の良い砂鉄を集め、新たによく切れるナイフを作りあげてくれるでしょう・・・K君のように。ぼくはそれを信じて子どもたちを指導しています。
(この稿おわり)