満月と黒猫日記

わたくし黒猫ブランカのデカダン酔いしれた暮らしぶりのレポートです。白い壁に「墜天使」って書いたり書かなかったり。

『ペルディード・ストリート・ステーション』

2009-09-16 01:57:07 | 

皆様ごきげんよう。連休までのカウントダウンを実行中の黒猫でございます。


今日は本の感想を。

『ペルディード・ストリート・ステーション』(チャイナ・ミエヴィル著、日暮雅道訳、早川書房)

バス=ラグと呼ばれる異世界。
巨大都市国家、ニュー・クロブゾンで暮らすアイザックは、大学での教授職を辞した科学者。ちょっとした頼まれ仕事をしたり、自分の興味のある題材を研究しながら暮らしていた。
ある日、アイザックの仕事場に翼を切り落とされたガルーダ(翼を持つ異種族)が訪れる。ヤガレクと名乗るそのガルーダは、アイザックに「お前の力でもう一度おれを飛べるようにしてほしい」と依頼する。飛翔種族であるガルーダにとって、翼を奪われるのは死ぬのと同じくらい辛いことであるはずだ。人間とほとんど交わらずに暮らすガルーダがここまでやってきただけで、その決意のほどが窺える。

何をしでかしたら翼を切り落とされるほどの大罪になるのかわからないまま、アイザックはヤガレクの依頼を受け、飛行のメカニズムを調べるために裏のルートを使って飛行能力のある生き物を片っ端から集め始める。
その中の一匹、虹色に光る風変わりな幼虫は、アイザックが何を与えても食べようとしなかったが、ひょんなことから強力な幻覚剤であるドリームシットを食べることが判明する。ドリームシットを与え続けた幼虫はみるみるうちに大きくなり、やがて繭になる。

アイザックの留守中に孵化して巨大な蛾となった幼虫は、居合わせたアイザックの友人に襲いかかり、その精神を喰らって廃人同然にしてしまう。この蛾は知性体の精神を糧とする生き物だったのだ。
アイザックは半ば必然的に、周囲の力ある者たちもやがて否応なく、蛾を殺すべく動き出すが、蛾は兄弟(姉妹?)である他の四匹と合流し・・・?

というようなお話。


いやあ、読み応えありました。
本文だけで651ページ。うひょう。

科学者のアイザックが翼を失ったガルーダをもう一度飛べるようにすることがメインのテーマなのかと思いきや、全然違いました。これが脇。
上のあらすじではぼかしましたが、孵化した謎の虫との闘いが全体のメインテーマになります。詳細は省きますが、この虫はバス=ラグの知性種全体の天敵のような存在で、放っておくと住民が精神を食われまくって廃人が続出してしまいます。だから、どうあっても駆除しないといけないのです。しかしアイザックたちは途中で色々違法なことをしているせいもあり、民兵に追われたりもしていて、逃げつつ虫を追います。そこにバス=ラグの知性種が滅ぶのを回避したい自律思考を持つ機械の集合意識やら、人類には理解できない多次元を生きる大蜘蛛やら、地獄の大使やらが出てきてもうえらいことに。キャラクター構成が多彩すぎる。

この手のSFではありがちですが、とりあえず最初はまず用語がわかりません。巻末に用語辞典ついてると嬉しかったんですが。そんな甘いことはないか・・・。読んでいくうちにだいたい見当をつけて受け入れていかないと先に進めないんだよね、実際。

登場する知性種の主なものだけでも人間、ケプリ、ヴォジャノーイ、カクタシーなど多彩で、まあ読んでるうちになんとなくわかってくるんですが、それでも結構きつい。このあたりを乗り切れば、物語の持つ勢いで最後までぐいぐい行けると思います。

アイザックはアウトロー的な階層に属していますが、それでも異種であるケプリの女性・リンを恋人に持っていることがすごく異様なことのようです。やりたい放題に生きる一部の人々にとっても、異種間の恋愛は理解されないようで、そのへんの苦悩も物語に厚みを添えて興味深いです。

しかしなんといっても興味深いのは、物語中盤以降、否応なしに虫を追う羽目になった4人の人物がそれなりに結束していくこと。もともと友人関係だったアイザックとダーカンはともかく、便利屋のレミュエルとガルーダのヤガレクの変化はなかなかです。とくにヤガレク。すごいよ。

そんなこんなで、まあとにかく色々あるんですが、最終的にはこうなるんでしょという読者の予想は鮮やかに裏切られます。(少なくともわたしは裏切られました)
世の中そんなに甘くはないんだよ、ということなんでしょうか。ううーん、あれでいい・・・のかなぁ。最後のアイザックの行動はわたしはどうかと思いました。


この世界をテーマにした関連作が既に何冊か本国では出ているようなので、それもそのうち翻訳されるといいな。
疲れるけど読み応えありました。SF初心者じゃない方は多分面白く読めるかと思います。


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