おいらは生まれてすぐ、沢山の兄弟や仲間たちと大きなかごでいつの間にか生活していたんだ。ちょっとギュウギュウ詰めで皆が走り回り、少しうるさかったけどヌクヌクと温かなここは、お母さんの温かさがこんな感じかなって思えば、居心地が良かった。
ある日、走り回るおいらを「この子が一番元気だ」って言いながら温かい掌で包み込むようにすくいあげたのがよしのおねえちゃんだった。(後で名前分かったんだけど)仲間から引き離され小さなプラスチックのケースに移されたおいらはそのままお引っ越し。ここんちの子供に成るんだと思ったけど不安の方が大きかった。
2~3日は怖かったから寝床に引きこもっていたけど、乾いた果物やお水をくれるみんなの手が優しかったので手と声で家族の事を覚えて行ったんだ。よしのおねえちゃん、あきの、ノーリー、おかあさん、おとうさん。おいらがハムスターだから名前はハムにしようよってあっさり決まってハ、ム、の2つの音が聞こえるとすぐにケースの真ん中で待ちの格好はみんなに気に入られご褒美をたくさんもらったりしてね。
しばらくすると、「一匹じゃ可哀そうだと」おねえちゃんが言ったので、おいらより一回り小さいジャンガリアンの「スター」がやって来た。けど、すぐに脱走し、本に挟まれあっけなく死んでしまった。みんな泣くかなと思ったけど「ゲーッ、タッピーラー、笑える」とあきの、本当に平たくなりミイラ化したスターの足を掴んでポィって捨てちゃった。(後でおとうさんが一階の庭に埋めた)一人ぼっちになったけど、おいら達、生まれて100日過ぎると他の仲間と生活する事はほぼ無理。だから気楽で良かった。回転道を走りまわったり脱走本能でゲージの上にぶら下がったり(おとうさんは「ハムの懸垂」と言って大笑い)気ままに生活していたんだ。
おとうさんは酔っぱらって帰って来ると必ずおいらに「ハムよお前は良いな~」と言っては「よし、お前が生きている間に結婚・広々とした場所で走らせる・温泉入浴の3つを経験させてあげるからねっ」と勝手に決意表明してはおいらの頭をなでる。おとうさんが言う3つの事あまり有難くないんだけどね~。しばらくは平穏な生活が続き、かごも最初のケースの5倍ぐらいに大きくなったし、暑い夏の日にはクーラーを入れてもらったり幸せだった。
ある日移動用のケースに入れられ着いた所はおばあちゃんの家。ここの芝生の庭で走りなさいとポイッて置かれた。でも、空が広がり本能的に危険を感じたおいらは腰を落として目立たないようににじりながら安産地帯を探す。おとうさんは「わはは~こいつは自衛隊か?匍匐前進しておるぞ~」と大笑い。「鳥が怖いんだね。次回は室内で走らせてあげるよっ!!」て、もういいのに。
次回は親戚の子供一同夏休みのお泊まり会。30畳の部屋を借り、雑魚寝した時おとうさんがおいらを隠して連れてきて子供たち寝静まる部屋でリリース。全力で走った。部屋を5周しておとうさんに捕まり終了。楽しかったね~。一生分走った。おとうさんありがとう。
ここの子供に成って3年ぐらい過ぎた頃、おとうさん酔っぱらって帰って来ると「ハムよおまえに結婚はさせられなかったけど、これから温泉入浴させてあげるねっ」と言って洗面台で何か作業を始める。嫌な予感がしたんだけど水の音とか聞きながら待っていたら「準備OK温泉じゃ~」とおいらを連れ出した。洗面台にお湯を張りバスクリンで黄緑色の即席温泉湯けむりの郷が・・・・・・「それっ」て投げ込まれ、せめて足の立つ深さであればいいものをくそおやじおいら基準で水深2メートルは溺れてしまうがな~。必死で泳ぎ脱出を図るも洗面ボールの淵はつるつるでとっかかり無し。しばしコマネズミのごとくのおいら。「わははっ、ごめんね。深すぎた」と笑うおやじに救出されたのは1分後。死ぬかと思ったけど生まれて初めてのドライヤーの温かい風でおとうさんを許す気になった。
家族のみんなありがとう。3年くらいで死んでしまうおいらたちたけど、4年以上も生きて幸せでした。おいらが死んだ朝、冷たく硬くなったおいらをおとうさんが指で触り「とうとう死んでしまったね」とおかあさんに言い「しばらくそのままにしておこう」と夜までそっとしておいてくれて、しばらくかごの中のおいらの住みかで寝かせてくれてありがとう。酔っぱらって帰って来たおとうさんが「ハム埋めてくるね」って布切れで包んだおいらを一階の庭の「スター」の隣に埋めながら「ハム、ありがとう、たくさん幸せを貰ったよ」って泣きながら埋めてくれた。
よしのねえちゃん、おいらを選んでくれてありがとう。
あきの、ノーリーたくさん遊んでくれてありがとう。
おかあさん、おとうさん さようなら。
またいつか家族になって一緒に暮らしたいね。
また会えるといいね。
ハムの像 作 よしの