懐かしいお客さんの話です。
遅くに、久しぶりに、近くまで来たからと、ふらりと立ち寄ってくれたお客さんがいました。
そのお客さんが、事情あって高田馬場をを離れて、あれからもう、20年近い歳月が流れていました。
もちろん、その後も、昨夜のように、近くまで来たからと、突然、ふらりと立ち寄ってくれるのでした。
それが、GLASSONIONと、このお客さんとの、20年でした。
半年ぶりのこともあれば、3年ぶりのこともありました。
月に数回続けて来てくれた後、次に来たのが6年後。
そんなこともありました。
そして、これから20年後。
僕も、このお客さんも、三途の川の渡場か、向こう岸で、再開しているのかもしれません。
…
ジャックですね。
ソーダをちょっとね。
はい。
どれくらいぶりかな…。
そうですね、数年ぶりですかね。
互いに、ニコッと笑って、それだけです。
それは、挨拶みたいな会話であって、他意はありません。
お久しぶりでした、お元気でしたか…。
そんな意味合いのものです。
飲み屋を、長年やっていると、お客さんとの、意味不明なやりとりは、他にも、お客さんごとに、たくさんあります。
隠語ともちょっと違う気もしますが、それを考えても意味のないことです。
会話であって、会話ではないのです。
…
僕より、ちょっと年上だったと思います。
今回もまた、名前を思い出せずにいました。
俺ね、こないだまでは、自分の年令から、人生が気になってたけど、今は、人生の残りの時間から、人生を考えるようになったよと、照れ笑いするがため、のような話題を、切り出す人なのでした。
そして、今も変わらず、照れ笑いの、妙に似合う人柄でした。
お客さんも、九州でしたよね。
そうだ、マスターも九州だよね。
はい。
たまには、帰ってる?
父は施設にいるもので、トンボ帰りですけど、たまに…。
お客さん、北九州でしたよね。
俺の名前、憶えてないだろう。
いい年齢のおじさんから、悪戯っぽい目で問われると、どんな表情で返せば良いのか、わからなくて、赤面しそうになりました。
実は、すみません。
どのタイミングで、それを切り出そうかと、困ってたところです。
教えない。
二度も悪戯っぽい目をされると、さすがに、赤面してしまいました。
…
茜霧島って、知ってますか。
それって、焼酎のこと。
そうです、黒霧島の姉妹品みたいな、新しい焼酎らしいです。
博多に主張したお客さんが、教えてくれたんです。
黒霧島を上品にしたような味わいで、女性に人気があるそうですよ。
でも、福岡ですからね。
東京じゃわかりませんが。
…
じや、また来るよ。
はい、楽しみにしております。
次、来る時までに、俺の名前思い出しといてね。
了解しました。