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石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学名誉教授
1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。
同大学大学院博士課程修了。
東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。
理学博士。
力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。
日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。
著書は『石井直方の筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』『石井直方の筋肉の科学 ハンディ版』(以上、ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
この記事は、ベースボール・マガジン社の『石井直方の筋肉まるわかり大事典』(石井直方著、A5判/432ページ、本体2,500円+税)からの転載です。
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筋肉こそ生命活動の原動力。筋肉が活動的になれば、代謝が活性化し、健康で元気な体になります。
世の中にはいろいろな「筋肉の常識」がありますが、すべて正しいとは限りません。
本連載では、筋肉博士・石井直方先生が、筋肉の正しい知識をやさしく解説していきます。
今回は筋トレと「免疫」の関係について詳しく見ていきましょう。
筋トレで免疫力が高まるという直接的な研究報告はありません。
ただ、第130回で紹介したアメリカの実験では、免疫力に関してもおもしろい結果が出ています。
高齢者200人に成長ホルモンを3ヵ月間投与した結果、対疾病抵抗力(感染症などに対する抵抗力)、そして風邪などにかかった時の回復力が70%増しになったそうです。
このことからも、筋肉を使って体をよく動かすことが、最終的に免疫力を高める結果に結びつくだろうと考えられています。
だったらガンガン筋トレをすればいいと思うのは早合点。
オーバートレーニングの人は、対疾病抵抗力が下がることもあるのです。
〇運動しすぎるとコルチゾールの分泌が増え、免疫力を落とすことに
トップアスリートを対象に、運動量によっていくつかのグループに分け、1週間・1ヵ月間のトレーニング量と上気道炎(風邪によるのどの痛みや発熱)のかかりやすさについて調査したデータがあります。
それによると、トレーニング不足の人は風邪を引きやすい。
また、トレーニングをやりすぎの人も風邪を引きやすい。
グラフにすると、ちょうどU字型になると報告されています。
オーバートレーニングで免疫が下がる原因の一つは、コルチゾール(副腎皮質ホルモンの一種)の分泌です。
運動をやりすぎる状態が長時間続くと、コルチゾールの分泌が高くなります。コルチゾールは免疫力を落とす作用があるので、病気にかかりやすい状況をつくってしまうわけです。
また、オーバートレーニングは、血液中にある白血球の活性にも影響を及ぼします。
研究報告によると、オーバートレーニングの人は白血球の細胞の活性が下がります。
白血球には「ナチュラルキラー細胞」と言って、がん細胞やウイルス性感染細胞を見つけて殺す細胞も存在しています。
この細胞が少なくなってしまうと、深刻な病気を引き起こすことにもなります。
ですから、くれぐれも筋トレのやりすぎは禁物です。ほどほどを心がけるのが良いでしょう。
(構成:本島燈家)