「最初のメンタリングでは、メンバーが落ち着きすぎてて驚いた(笑) 理路整然としているが、一方で理屈っぽいところがあったので、逆に私がかき乱す側になることで、核ができたと思う」
メンターの佐藤氏
<
CEO佐藤の紹介
1989年
東京理科大学工学部機械工学科ロボット研究室で初めてニューラルネットに触れる。福田敏男先生(2018年より初のアジア人IEEEプレジデントに就任)に師事。
人工知能を用いた自動演奏の実現を目指して株式会社ローランド入社。その後、ソフトウエア会社勤務を経て、同僚2人とソフトウエア会社を起業。20年弱にわたり、主にJava叫こよる多種多様なシステム構築・経営に従事。
2011年
人工知能技術開発に特化したAlベンチャーに創業メンバーとして参加。主に製造業におけるAl活用案件に携わる。
2017年
「一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)」の理事、同協会の「産業活用促進委員会」の委員長を務め、DLの産業活用促進のための活動を行う。
2018年5月末
起業したAlベンチャーを退職。同年6月、新たにconnectome.design株式会社を設立して代表取締役社長に就任。
直近ではJDLA理事以外にも、内閣府「未来技術x地方創生検討会」検討委員や、環境省「令和元年度2050年を見据えた地域の特性を活かした地域循環共生圏のあり方に関する検討委託業務」アドバイザ、2019年度JST未来社会創造事業・研究開発運営会議委員に就任。
>
がこのように述べるように、iha_labのメンバーは日経ホールの壇上でも落ち着きを見せていた。
iha_lab こそが、先述の起業済みチームだ。
DCON本選に先立つ2022年3月、メンバーの道上竣介さんを代表取締役とするwavelogy(東京・文京区)を起業。
その作品とプレゼンテーションには、自ずと注目が集まった。
ha_labの作品「OtodeMiru」はディープラーニングを活用した森の音景解析システム。
佐世保高専のある長崎県では、近年鹿やイノシシ、アライグマなどの害獣、スズメバチなどの害虫により農作物の被害や生態系の破壊が深刻化している。
駆除にあたり課題になっているのが、出現地や営巣場所の特定だ。「OtodeMiru」はディープラーニングを組み込んだセンシングデバイスにより、オンサイトでの生物音および環境音などを解析。
LPWA(低消費電力・長距離の無線通信技術)による解析結果を収集するシステムだ。
音の分類は31クラスで、その内の4クラス分のデータを作成し、高い精度を実現した。
「OtodeMiru」はレンタルビジネスで展開し、アウトプットはWebアプリ上で行う。
害獣や害虫駆除業者や行政、環境調査を行う団体などをターゲットに、3年後の黒字化を目指す。
森林の害虫・害獣駆除だけを見れば、ビジネス規模は小さい。
しかし、音景解析には拡張性があり、さまざまなところで利用できる技術だ。将来的にはは活用領域を広め、地域に根付いた諸問題の解決に役立てられるという。
iha_labは実際に佐世保で害獣・害虫駆除を行う現場にもヒアリングを行い、優れたプレゼンテーションを行ったが、審査員からは厳しい質問・意見が続いた。
既に起業しているチームであり、作品への目線は特にコスト面、収益化の面は特にシビアに向けられた。
結局、企業評価の意思表示をしたのはただ一人。
WiL 共同創業者/ジェネラル・パートナーの松本真尚氏
<
1999年にPIMを設立、CEOとして2000年のYahoo! JAPANとの合併を指揮。
その後、Yahoo!社長室で戦略投資やYahoo! BBの立ち上げを指揮し、Yahoo! Shopping事業部長に就任。
SoftBankのVodafone買収後は、Yahoo!のモバイル事業部の初代事業部長とSoftBankモバイルのプロダクト・コンシューマ統括本部長を兼務。
2008年にはRD統括本部長としてYahoo!のサービスのフロントエンドの開発を行う。
2011年からは、Yahoo!のCIO (Chief Incubation Officer)として同社の新規事業を指揮。
他の事業会社との連携やJVを多数仕掛ける。
2013年にWiLを創業。
森ビルの黄金のトライアングル
スタートアップの揺りかごに
2018年3月10日 6:30
「あなたに提供できる時間は23分だ」――。マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツに会った時のこと。
ビル・ゲイツは部屋に入ってくるなりこう言い放った。
雑談は一切なし。
ベンチャーキャピタル(VC)、WiL(東京・港)で現在、ジェネラルパートナーを務める松本真尚(47)は「なるほどこれが世界標準か」と悟った。
ヤフーにいた2000年代のことだ。
現在、森ビルの愛宕グリーンヒルズ(東京・港)の40階でスタートアップ企業の発掘と育成を手掛ける松本。
夢は「ビル・ゲイツのような世界的な経営者と渡り合えるスータートアップ企業のトップを日本で育てること」。
その夢をかなえるのに森ビルが今、急速に比重を移しつつある虎ノ門は「最高のロケーション」だという。
松本に言わせれば官庁街である霞が関、大企業が集積する大手町、そしてスタートアップ企業がどんどん生まれる六本木の3極、
「黄金のトライアングル」のちょうど中間地帯にあるのが虎ノ門。
3つの要素がバランスよく混じり合うことで化学反応が起き、スタートアップ企業が生まれやすい素地があると説明する。
その虎ノ門で将来森ビルのテナントとなるようなスタートアップ企業の育成を目指す松本。森ビルの社長、辻慎吾はその手腕に全幅の信頼を寄せるが、松本の言葉が辻に響くのは、松本自身、18歳でスタートアップ企業を立ち上げ、成功させた実績を持つからだ。筋金入りのスタートアップ起業家なのだ。
松本は兵庫県芦屋育ち。地元の高校を卒業、そのまま甲南大学に進学した。
ここまでは普通の青年。
しかし入学式後、2回ほど通うと急に大学がつまらなくなってきた。
そんな時、2歳年下の16歳の妹が宝塚音楽学校(兵庫県宝塚市)に入りたいと言い出した。
宝塚音楽学校を受験するにはお金がかかる。
著名な先生にレッスンを受けるには1時間数万円という世界。
ざっと計算してみると受験させるまでに2000万円が必要になることがわかった。
ところが、すでにこの時、両親は事故と病気で他界した後。
妹を受験させるなら松本がそのお金を工面するしかなかった。
「よし、それなら僕がそのお金を用意しよう」。松本は決意した。
とはいえ2000万円は大金だ。つくるのは簡単ではない。医者になるか、弁護士になるか、それとも……。松本は社長になる道を選んだ。
大学は3回通ったところでスッパリとやめ、会社を設立した。
必要な利益を決め、いくら売上高があればその利益を確保することができるのかを計算した。
そして始めたのは貿易ビジネスだった。
当時、日本に入ってきていないぜいたく品はまだまだあった。
金無垢(むく)のロレックスやベルギーのアントワープの宝石などを売り、
妹の受験に必要なだけのお金をつくった。
その後、松本はIT(情報技術)業界に転身する。
「車は1台あれば十分。人はそれ以上は買わない。
しかし、情報はあるだけ売れる。
必要な情報なら人はいくらでも買ってくれる」。
1999年、4社のベンチャー企業を集めた携帯電話向けネットサービス会社、ピー・アイ・エムを立ち上げ、その翌年の2000年にはヤフーと合併した。
ヤフー時代はスタートアップ企業の経営を学ぶ良い経験だった。
ソフトバンク社長、孫正義の下ではボーダフォンの買収に携わりM&A(合併・買収)の醍醐味を知った。孫流の経営を学んだことは今でも財産だ。
「その財産を次世代を担うスタートアップ企業に引き継いでもらいたい」
昨年のクリスマス休暇で松本はフランス南東部のトロワバレーにある「クーシュベル」を訪れた。
「ヨーロッパのあこがれのスノーリゾート」としてクーシュベルを紹介する新聞記事を見て「一度、行ってみよう」と家族で出かけた。
驚いたのはその豪華さ。
アルプスの小さな村に5つ星ホテルが20軒。
自家用の飛行機でやってくる人のためにスキー場内に空港もあった。
そこで度肝を抜く光景を目にする。
ゲレンデの途中にある高級ダウンの定番ブランド「モンクレール」ショップを「こんな高級店、宣伝目的で出店しているだけで実際には誰も買う人はいないだろう」と眺めていると50歳代くらいのスキーをしていた夫婦がふらっと立ち寄り、1着数十万円もするダウンを買っていったのだ。
「ちょっと寒いな」というようにその場でさっと羽織り、ゲレンデを滑りおりていく2人の姿を見送りながら「世界は広い」と感じた。
そして思い出した。
森ビルの中興の祖、森稔が成田空港と複合商業施設、アークヒルズ(東京・港)をヘリコプターで結ぶ直行便を就航させたことを。
09年のことだ。
森稔は松本がクーシュベルで見た世界を知っていた。
世界にはゲレンデを1度、下りるためだけに数十万円のダウンを買うVIPがいることを知っていたのだ。
だから成田空港から都心までヘリコプターを飛ばす判断をしたのだ。
お金ではない、「時間を節約できるなら、お金はいくらでも出す」というビジネスマンと渡り合える都市環境を整えようとしたのだった。
松本は虎ノ門ヒルズのために自分に何ができ、期待されているのか分かったような気がした。=敬称略
(企業報道部 前野雅弥)
>
だ。
松本氏は「ベンチャー投資は逆張も重要」としながらも、作品に用いる技術やビジネスモデルを高く評価。
「テーマとする課題はとても大きい。
コストを削減する要素もあり、想定しているスケールであればビジネスとしても十分に可能性がある」と判断し、iha_labの企業評価を単独で行うことを決めた。
そして後の結果発表で、iha_labは会場にどよめきを起こすことになる。
最終審査の結果で、どよめきが起きたのは3位が発表された時だった。
「第3位、佐世保高専 Iha_lab。企業評価額 10億円 投資額3億円!」
第3位の時点で起業評価額は前年優勝チームの6億円を遥かに上回る10億円。しかし、Iha_labの起業評価額が驚きをもって迎えられたのは、企業評価の意思表示を示した審査員が松本氏1名のみであったためだ。
松本氏は審査結果について以下のように講評した。
「今年はスタートアップ元年と捉えている。
世界に戦えることをテーマに評価をしなければならない。
最初の出だしが大事なのではと思い、こういった評価額を査定した。技術的には非常に面白い」
DCONの難しさは、技術とともに事業性を迎える必要があるが、この松本氏の評価は、DCONにおける最も面白い点を示しているといえる。
実社会に則したスタートアップへの投資を考慮して評価されるからこそ、1人の審査員に熱烈に支持されれば、大きな企業評価と投資額を獲得することができるのだ。