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王 青(おう・せい) 日中福祉プランニング代表。
中国上海市出身。
語学学習を経て大阪市立大学経済学部卒業。
アジア太平洋トレードセンター(ATC)
入社。
大阪市、朝日新聞、ATCの3社で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館 ATCエイジレスセンター」に所属し、 広く“福祉”に関わる。
2002年からフリー。
「(日本初のオンライン)日中介護ビジネス交流プラットフォーム」を主宰、開催中。
日中福祉プランニング
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2022年12月に、ロックダウンなど厳しい行動制限を伴う「ゼロコロナ」政策を突然解除した中国。
それから約2カ月弱、「累計感染者数9億人」「1週間で6000人以上が死亡」など感染が急激に広がったことを示す数字やニュースが世界中で報じられている。
実際のところ、中国の医療と葬儀の最前線はどうだったのか。
上海の葬儀場や、大学付属病院に勤める友人たちに話を聞いた。
(日中福祉プランニング代表 王 青)
〇突然のゼロコロナ政策解除から2カ月弱、中国で何が起こっていたのか
昨年12月、これまで約3年間厳格に実施されてきた中国のゼロコロナ政策が解除された。
突然の政策転換で、感染者が爆発的に増え、医療機関は崩壊寸前だった。
病院にあふれかえった患者の様子や、寒風の中、葬儀場にできた長蛇の列などを撮影した動画が広まり、世の中に衝撃を与えた。
12~1月にかけて、中国の医療や葬儀の現場ではどのようなことが起こっていたのか。
今年の春節連休(1月22~28日)、筆者は日頃仕事で交流のある上海の医療業界や葬儀業界の関係者とオンラインで新年会を行った。
そこで、第一線でコロナと戦う彼らが話していた、コロナ政策転換後約2カ月弱の間の体験談をご紹介したい。
〇従業員が倒れて「減員厳重」、しかし「39℃以下なら勤務せよ」
話を聞かせてくれたのは、葬儀場に勤務の男性・呉輝さん(仮名、40代)と李海辰さん(仮名、40代)、大学付属病院で看護師として勤める女性・段玲さん(仮名、30代)、そして彼らの職場の友人数人である。
「ここにいる全員、(コロナに)感染したよ、ハハハ……」
オンライン新年会はそんな全員の笑い声から始まった。
「今でこそ笑えるが、その時は死も覚悟した。
うちの病院の職員の9割が感染した。
病棟がいっぱいになったのはいうまでもなく、病院の入り口や廊下まで発熱患者であふれていた。
簡易ベッドや点滴用の椅子で埋め尽くされ、病院中、足の踏み場もない状態。これだけ患者がどんどん増えている一方で、スタッフは厳しい減員となった」(段さん)
「減員厳重」――。これはゼロコロナ政策が緩和されて以来、中国でよく使われていた言葉である。つまり、爆発的に拡大した感染で従業員がバタバタと倒れ、働き手が極めて足りなくなった状況を指す。
このような状況下、国家衛生健康委員会(衛生と健康を担当する政府機関)は、「いかなる理由であれ、陽性患者の受け入れを拒否してはいけない。減員による診察の停止や欠勤は断固として禁止する」という通知を出した。そして医療従事者に「熱が39℃以下であれば、勤務を続けよ」と命じた。
そのため、「せき込む人や熱で真っ赤な顔をしている人、点滴の管をつったままの人など、極限状況で同僚たちは働き続けた。
突然失神して地べたに倒れた人もいた。
今思えば、まるで地獄だった」と段さんは振り返る。
〇39℃の救急車運転手が38.5℃の医者と看護師を乗せて38℃の患者を迎えに行く
中国のSNSでも、この話はブラックジョークの形で拡散されていた。
「熱が39℃の救急車のドライバーが、38.5℃の医者と看護師を乗せて、38℃の患者を迎えに行っている」というのだ。
そして、多くのネットユーザーは、「これは決してジョークではない。現実に起こっている話だ」と同意するのだった。
「この3年間、まともな休日はなかった。
最長だと4カ月間1日も休めない時もあった。
そして、ずっと防護服のままだった。
病院内だけでなく、1年の半分以上はあちこちのPCR検査に出張した。
そこでももちろん終日防護服。できるだけトイレへ行かないように、食事や水を極力控えめにしていた。ダイエットにはちょうどいいかもしれないね」と段さんは苦笑しながら話す。
〇年末年始を挟んだ2カ月弱、新型コロナで亡くなった人は約8万人?
1月28日に中国疾病予防センターは、1月20~26日の1週間で、新型コロナに感染し、国内の医療機関で死亡したのは6364人と発表した。
感染対策が大幅に緩和された12月8日から1月26日までの2カ月弱の死者数は合わせて約8万人となったが、これには自宅で死亡した人は含まれておらず、実際にはもっと多いという指摘もあり、国内外のメディアやSNSではさまざまな臆測が飛び交っている。
この数字について、葬儀場の職員として働いている呉さんと李さんに尋ねてみた。
「日本を含めて海外の多くのメディアは、中国では高齢者を中心にものすごい数の人が亡くなったと報道していた。
それは本当? あと、葬儀場に長蛇の列ができている様子も報じられていたけど、あれはなぜ?」
呉さんの答えは、「自分の肌感覚では、例年同時期に比べると、2割ぐらい増えたと思う」というもの。
「もともと12月下旬から春節までは、高齢者の死亡が一番多い時期。
しかし、今回はオミクロン株の感染により、高齢者の死亡者数が例年を上回っていたのは事実だ」(呉さん)
ちなみに、呉さんと李さんが勤める葬儀場は、年間3万近くの遺体を扱っている巨大な葬儀施設である。
職員は300人以上おり、告別式用のホールは20以上、一番大きいホールは1000人以上が入る規模だ。
〇葬儀場の前に長蛇の列ができていた理由は?
上海市では、人が亡くなると、親族から葬儀会社に連絡して、自宅や病院から遺体を引き取ってもらい、告別式までの間は葬儀場に安置される。
親族は葬儀場と、告別式の詳細や火葬の日程について打ち合わせし、後日、告別式と火葬を行うというのが一般的な流れである。
葬儀場で告別式が終わったら、遺体は火葬場に送られる。
親族が火葬場に同行するかしないかは選択できるが、大概は同行しない。
そのため、日本のように火葬後に親族による収骨という過程はない。
お骨はその後葬儀場に戻り、親族が葬儀場でお骨を引き取り、納棺する。
「もともと一年でもっとも忙しい時期な上に、(昨年末から今年の春節にかけては)職員の3分の2が陽性になった。
管理職から事務方、食堂の担当まですべての職員を現場に総動員し、みんな帰宅できず職場に泊まり込んでいた。
それでも人手がまったく足りず、業務がたまりにたまって、まるで戦場のようだった。
遺体を引き取りにいく人手が足りなくなったため、多くの遺体が病院の霊安室やご家庭に長く安置されていた。
ネットで拡散されていた、病院の霊安室に遺体が重ねて安置されている写真はそのためだ。
通常なら遺体の引き取りは電話一本で済むが、電話の対応もできなくなったので、手続きは葬儀場で行わなければならない。
そのため、市民たちが夜中の1時から並び始めた。列が長い時には、200メートル以上先まで続いていたよ」(李さん)
「国のウィズコロナへの政策転換は賛成だが、緩和するタイミングをもうちょっと考えてほしかった。
今回は葬儀場の職員が不在のため、告別式もできなくなった。
親族がご遺体とまともなお別れができないままで、遺体が火葬された」(呉さん)
〇「6歳の息子が、会えないまま火葬される」
路地裏で秘密裏に遺体と面会させてあげることも……
「コロナ禍の3年間は、多くの家庭がこのような境遇だった。
昨年4月から2カ月間のロックダウンの期間中も、たくさんの凄惨な状況を見てきた。
その時は、病院で亡くなった人は火葬場に直送されていたので、入院中はもちろん、亡くなってからも親族との対面が許されなかった。
ある時、6歳の男の子が病院で亡くなったことがあった。
両親も祖父母も、入院中ずっと会えずにいた。
せめて火葬される前に一目会いたいと相談されて、遺体を火葬場に送る途中、事前に家族と約束したある路地裏でこっそりと会わせたのだ」(李さん)
ロックダウン中はこうしたケースが珍しくなかったため「あまりに気の毒で、ロックダウンの間に、親族が遺体と対面したいという要望があれば、規定があるとしても、我々はできるだけ対応していた」と李さんは話す。
〇第一線の医療関係者に一時奨励金を支給しかしそれよりも……
彼らの体験談を聞いて、筆者は改めて心から尊敬の意を抱いた。
この3年間、新型コロナウイルスと国の政策に翻弄されつつも、呉さんや李さん、段さんのように善良な人たちの献身的な支えがあったからこそ、中国の人々は救われていたのだ。
1月初旬、上海市政府は、コロナ感染治療にあたる第一線の医療関係者らに6000元(約12万円)を一時奨励金として支給した。
これは、市民から絶大な支持を得た。
「6000元は少ない。もっと差し上げるべきだ!」「医療従事者は我々の救いの神だ」などの声がSNSにあふれたのだ。
そしてマスコミも、大きな災害の後、いつも第一線で大きな犠牲を払うこれらの人々に賛辞を惜しまない。
「最美医生、最美睡姿」(もっとも美しい女医、もっとも美しい寝顔。あまりの疲れでつい寝てしまったという意味)など称賛の言葉が飛びかっていた。
その話をすると、新年会に出た人たちは皆、「そんなに感謝されなくて結構だ。
私たちの仕事にケチをつけたり、差別したりしないで、理解してくれるだけで十分満足」と口をそろえていた。
なぜなら中国では、葬儀や介護などの職種に対しての偏見が強く残っている。さらには病院を破壊したり、医師や看護師を襲って大けがを負わせたりといった事件まで起こっているからだ(参考記事:中国医療の過酷な現実、エリート中間層でも一寸先は医療費破産)。
https://diamond.jp/articles/-/163648
中国における新型コロナウイルスの感染者数や死者数は12月末~1月上旬にピークとなり、春節を迎えるころにはかなり低いレベルに落ち着いた。
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新年会で話を聞かせてくれた友人だけでなく、中国中の医療従事者や葬儀場で働く人たちがゆっくり体を休めていることを願うばかりだ。