<中国がブリンケン米国務長官の訪中前のこのタイミングであえてリスクを冒したのは、アメリカのインド太平洋戦略に憤りを募らせていたからではないか、と米海軍の元大将は言う>
中国がアメリカ本土上空で偵察用気球とみられるものを飛ばした狙いは、アメリカのインド太平洋戦略に対する不快感を表明することだったのかもしれない――米海軍の元大将であるジェームズ・スタブリディスが、このような見方を示した。
問題の気球は、2月1日にモンタナ州ビリングスの上空を飛行しているのを発見され、アメリカの国家安全保障に対する不安の声が高まった。
気球は国際法上、航空機に位置づけられており、許可なくアメリカの領空に侵入するのは国際法違反であり、アメリカの領空侵犯にあたるためだ。
気球はその後、数日間にわたってアメリカ上空を飛行し、4日に大西洋上に出たところで撃墜された。
この事件は、既に中台統一やロシアのウクライナ侵攻をめぐって対立しているアメリカと中国の緊張を、さらに高めることになった。
アントニー・ブリンケン米国務長官は、気球が発見されたことで米中間の緊張緩和を目的としていた中国訪問の予定を延期。
一方の中国は、気球は気象観測などの科学研究を目的とした民間のものが、米領空に迷い込んだだけだと主張。撃墜を非難した。
こうしたなか、スタブリディスは6日にNBCニュースに出演し、中国がアメリカとの緊張激化のリスクを冒してまで気球を飛ばした理由を説明。「幾つかの問題について、アメリカに不満を抱いているのだという直接的なメッセージだったと思う」と述べた。
スタブリディスが指摘した「中国の不満」とは、以下の3つだ。
1)フィリピンの米軍基地拡大
スタブリディスがまず指摘したのは、今回の気球が、アメリカとフィリピンの間で交わされた新たな協定に対する不満のメッセージである可能性だ。
米・フィリピンは先週、東アジア地域において中国への抑止力を高めるために、米軍がフィリピン国内で使用できる基地を増やすことで合意した。
中国はこれについて、「地域の緊張を高め、地域の平和と安定を損なうもの」だと反発。
「フィリピンが利用されてトラブルに引きずり込まれることがないよう、慎重な姿勢を保つことを願っている」と声明で述べた。
スタブリディスは、中国が特に腹立たしく思っているのは、アメリカが台湾に近いルソン島の北部にある基地へのアクセス権を手にしたことだろうと指摘した。
2)グアムの新基地
スタブリディスはまた、アメリカが米領グアムに新たな基地を建設していることが、米中の新たな火種となる可能性があると指摘した。米CNNによれば、米海兵隊の基地が新たに開設されるのは70年ぶりで、この「キャンプ・ブラズ」には最大5000人の海兵隊員が配備されることになる可能性がある。
専門家は、この新基地(気球発見のわずか数日前に開所)は中国からの脅威を抑止する狙いで建設されたものだと指摘している。
3)マッカーシーの訪台計画
スタブリディスが指摘した中国の3つ目の不満は、ケビン・マッカーシー米下院議長が台湾訪問を検討していることだ。
米政治専門メディアの「パンチボウル・ニュース」は2月に入ってから、マッカーシー訪台の可能性を受けて米国防総省が準備を始めていると報じており、中国がこれに反発を表明している。
中国は台湾を自国の領土の一部と見なしているが、台湾は独立国家を自認している。
アメリカは台湾を正式には独立国家として認めていないが、中国が台湾を武力攻撃すれば、台湾を支持すると表明している。
中国外務省の毛寧報道官は先週の会見で、次のように述べた。
「中国は、中国の一部である台湾と中国と外交関係がある国々とのいかなる形の公式な交流にも反対する。
アメリカの議員らが一つの中国の原則と米中間の3つの共同コミュニケを順守し、米中関係および台湾海峡の平和と安定に悪影響を及ぼす行動を控えることを願う」
■気球を撃ち落とす米軍機 -10分ーyou tube
■気球が中国から飛んできたコース-3分- you tube