カマラ・ハリスの活気、喜び、楽観主義、ハリウッド流の笑顔もこれまでだ。
米国は取引を拒んだ。
4年前、勝利を収めたジョー・バイデンはドナルド・トランプのことを「異常な瞬間」として片づけた。
トランプが米国の選挙人団に加えて一般投票でも勝利する公算が大きいことから、歴史は間違いなく今、この称号をバイデンに与えるだろう。
何しろ、
トランプは米国史上最も知名度が高く、
綿密に捜査された大統領指名候補の一人だ。
彼を1度選ぶことは偶然だったかもしれない。
2度選ぶとしたら、目をしっかり開いて選んだことになる。
トランプは正当な次期大統領だ。
■米国がトランプを選んだ理由
問題は、それがなぜかだ。
物語の大きな柱は、
①十分な数の米国人がトランプの売り込んだものを求めたということだ。
➁ 不法移民の大量強制送還、
➂グローバル化の終焉、
④アイデンティティー(社会意識に目覚めた「ウォーク(woke)さ」として知られるもの)に対するリベラル派エリートの自虐的なアプローチに中指を立てる侮辱といったものだ。
これらすべてのものが、トランプの人格について有権者が抱くどんな疑念をも上回る重みを持った。 辱といったものだ。
米国が重罪で有罪判決を受けた犯罪者、
それも前回の選挙の結果を覆そうとしたことでも起訴され、
独裁者をあからさまに崇拝している人物を大統領に選んだことには、
2通りの解釈ができる。
①有権者はトランプがもたらすリスクを真剣に受け止めていないか、
➁または国をどんな状況に陥らせるかをはっきり知りつつ、それでも現状より望ましいと考えているか、
どちらかだ。
いずれにせよ、トランプの再選は民主党にとって存亡にかかわる大惨事だ。
米国の同盟国にとっての歴史的なゲームチェンジャーでもある。
■民主党は存亡の危機、責任のなすり合いに
民主党内では、すぐに激しい責任のなすり合いが生じる。
敗因の分析は間違いなく、目に見えて老いたバイデンが党の指名候補の座を降りるのをあまりに長く待ちすぎたという事実に焦点を当てるはずだ。
もしバイデンが6か月早く身を引いていれば、民主党はハリスよりも勝算がある候補者を見つける時間があった。
本当の予備選挙があったとしても結果は変わらなかったかもしれない。
公正を期するために言えば、ハリスは円滑な選挙キャンペーンを展開し、
唯一の討論会でトランプを打ち負かし、民主党を団結させた。
だが、経済の話になるたびに、よくても凡庸なことしか言えなかった。
経済はハリスが必死になって避けるトピックだった。
説得力のある経済的ナラティブを欠くことは、米国のどんな選挙においても大きな欠点となる。
競争の激しい予備選は、これを見つけられただろう。
あまりにすんなりと王冠を受け継いだことから、
ハリスは欠点を正す時間も動機もほとんどなかった。
それでも、自分がバークリー(カリフォルニア州)の急進主義者ではないことを証明するために「シスター・ソウルジャー・モーメント」を演出することはできたはずだ。
ビル・クリントンは1992年、
シスター・ソウルジャーという黒人作家の過激な発言を批判することによって自分が古風なリベラルではないことを世間に示し、それが彼を大統領に選べる人物にすることに役立った。
ハリスは16週間の短い選挙戦の間、かなり極端な進歩的な大義とのつながりを慎重に避けた。
だが、例えば開かれた国境や警察の予算削減といったものに以前示した支持を、説得力を持って否定することはなかった。
■20年選挙での勝利を拡大解釈したツケ
バイデンについて言えば、2020年の勝利を拡大解釈したことを責めることもできるだろう。
あれはトランプが新型コロナウイルスのパンデミックへの対応を誤ったことの結果であって、米国の民主主義の健全性に対する懸念の結果ではなかった。
バイデンはパンデミックを終わらせ、米国の政治に正常さを取り戻すことを約束することによって勝利を収めた。
しかし、党の指名獲得と大統領就任の間のどこかで、自分が大変革を断行する許可を得たと考えるようになった。
1.9兆ドルに上る過大な景気刺激策は、供給サイドの混乱のためにすでに高進していたインフレに油をそそいだ。
確かに、トランプは
――今ではステロイドを打った形で呈するように――
米国の憲政秩序に重大な脅威を突き付けた。
それにもかかわらず、
バイデンは司法長官にトランプの責任を追及することを急がないメリック・ガーランドを選んだ。
歴史家は将来、この人選について首をかしげるだろう。
2016年の選挙でのヒラリー・クリントンの敗北と同様、
ハリスの敗北にも多くの人の指紋が残される。
だが、今回は外国の悪役を責めるのがはるかに難しい。
ロシアのウラジーミル・プーチンは間違いなく、
特にウクライナでトランプ再選の大きな利点を見いだすだろう。
だが、明らかな助けもなくトランプを大統領の座に返り咲かせたのは米国人だ。
いずれにせよ、
次に何が起きるかを理解することと比べると、
民主党の責任のなすり合いなどは二の次だ。
トランプは復讐を誓った。
これは本気だ。
■後戻りできない決定的な結果
共和党が3つの争いを制覇する可能性は十二分にある。
①大統領の座、
➁今や確実になった上院、
➂そしてまだ確定していない下院だ。
共和党が連邦議会を完全に掌握すれば、
トランプの大統領権限に対するチェック機能がほとんどなくなる。
米国の最高裁判所は7月に大統領としてのトランプの行動にはほぼ全面的な免責が認められると判断し、すでに司法の白紙小切手に相当するものを書いた。
米国は決定的な曲がり角を曲がった。
自分の敵を追及すると誓った時に、
トランプが言ったことは本気ではなかったと考えるのは愚かだ。
トランプが米国の50対50の分裂によって少しでも制約されると感じると考えるのも妄想だ。
トランプは想像を絶するような破壊的な形で米国を刷新する負託を手に入れた。
米国の2024年選挙の地殻変動的な結果から後戻りする術はない。
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