まわる交差点、私の街にも? ラウンドアバウト 大事故減期待、信号機は不要
2014年8月4日05時00分 デジタル朝日
海外でよく見かける信号機のない円形の交差点「ラウンドアバウト(Roundabout=略称・RAB)」が日本でも広がるかもしれない。9月施行の改正道路交通法で新たに「環状交差点」と名付け、標識と通行ルールを定めた。欧米で交通事故の減少や渋滞の緩和に成果を上げるなか、国が設置を後押しした形だが、課題も少なくない。
■改正道交法、後押し
環状道を中心に5本の枝道が伸びる。枝道には信号機がなく、ドライバーが環状道に入るタイミングをはかる。長野県飯田市が昨年2月、全国で初めて信号機を撤去して設けたRAB方式の交差点だ。
市が国際交通安全学会と一緒に、RAB方式の導入に向けた社会実験を始めたのは2010年。東日本大震災のような災害時も停電の影響を受けず、信号機器の維持管理費もいらない。昨年2月、約4700万円かけて市中心部での本格導入に踏み切った。
従来の交差点と違って出合い頭の事故が起きにくく、重大事故も減らせる。県警によると、導入後の約18カ月間、この交差点であった交通事故は4件(7月末現在)。いずれも物損事故だ。飯田署の宮沢和人交通課長は「RABは交差点に近づく車に減速を促す効果がある」と説明する。
RABは各地で注目され始めている。長野県軽井沢町は12年11月~今年1月、静岡県焼津市は今年1~2月、滋賀県守山市は今年1~3月、国土交通省と共同で社会実験した。焼津市道路課の見原慶彦課長は「停電の影響を受けないため、南海トラフ地震が起きてもスムーズな交通が保てるはずだ」と期待する。
日本への導入を呼びかけてきた名古屋大大学院の中村英樹教授(52)によると、RABは1960年代に英国で生まれた。米国は90年代以降、約2千カ所で整備。連邦高速道路局が10年にまとめた報告によると、55カ所のRABの導入前後の交通事故件数は年1122件から726件に減った。人身事故に限れば296件から72件の大幅減だった。同様の効果はオランダやドイツ、デンマークでも報告されているという。
RABが万能なわけではない。交通量が多い交差点では枝道が渋滞しやすく、環状道整備に土地の確保が必要なことがある。国交省は改正道交法施行までに、どのような交差点に適し、設計でどういったことに注意すべきかについて自治体向けにまとめる予定だ。
中村教授は「交通量がさほど多くない郊外の生活道路や市街地の裏道、高速道路の出口で効果を発揮する」とみる。社会実験をした自治体のほか、長野県安曇野、須坂2市と静岡県小山町がRABの普及を考える全国サミットに参加しており、今後、こうした市町村を中心にRABが広がっていきそうだという。(八木拓郎、山田雄一)
■走らされる感覚 浸透へ工夫必要 記者が体験
長野県飯田市で実験中だったRABを車で初めて走ったとき、環状道で不思議な感覚にとらわれた。自ら走っているのではなく、道路に走らされている感じなのだ。環状道を走る車が枝道から進入する車に優先するルールだ、と頭ではわかっているが、落ち着かない。枝道から車がひょいっと進入して来るのではないか、と不安を感じる。交差点全体を視野に入れて運転できるようになったのは、しばらく通行を繰り返した後のこと。「習うより慣れよ」だ。道路の構造上、環状道ではおのずと低速になる。枝道から環状道に入るとき、環状道の車をゆったりした気分でやり過ごす自分に気づく。直線的な通常の交差点と違い、丸い形がそんな感覚を醸し出すのかもしれない。
ただ、RABには課題もある。
きょろきょろ見回しながら、進入のタイミングを計っている県外ナンバーを見かけることもある。まごつくのは無理もない。新しいことへの順応性が鈍る高齢ドライバーであれば、なおさらだ。RABに対する理解を広めていくこと、現場に差しかかる前に予告標識を丁寧に掲示することなど、工夫をこらすべき点は少なくない。(山田雄一)
【長所】
・出合い頭の事故が起きにくい構造のうえ、環状道ではスピードを出せないので、重大事故が減る
・信号機がないため、停電に強く、機器の維持管理費もいらない
・信号待ちの時間がなくなる
【短所】
・環状道をつくるのに土地が新たに必要になることがある
・交通量の多い交差点では逆に渋滞を生む
・なじみが薄く、通行ルールが知られていない