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 今年の7月1日は、いつもより1秒長い1日になる。午前9時直前に、3年ぶりに「うるう秒」が挿入されるからだ。平日の実施は日本では18年ぶり。情報通信技術が広がるなか、わずか1秒の違いがトラブルを招きかねない。企業などが対応を迫られる一方、国際社会では存廃も議論になっている。

 地球の1日の長さは一定でない。潮流による海水と海底の摩擦、エルニーニョ現象などの影響、地球内部のマントルの動きなど様々な影響が合わさり、不規則に変化している。このばらつきを調整するために導入されたのが「うるう秒」だ。

 かつて使われた世界時(UT1)は、地球の自転をもとに天文学的に決めていた。1周にかかる時間を24時間とし、1秒の長さを割り出す。このため、1秒の長さも変化する。

 これに対し、いま使われている協定世界時(UTC)は原子時計で決めている。1秒の長さは不変で、誤差も数十万年で1秒と厳格だ。このため、次第に両者のずれが生じていく。

 うるう秒は、ずれが0・9秒未満にとどまるように不定期に実施される。基本的には1月1日か7月1日の午前9時(日本時間)直前で、前回は2012年7月1日だった。

 「原子時計が開発されたことで、1日の長さがずれていくことが分かってしまった。正確な1秒で時刻を計測し、世界時にも合わせるにはうるう対応が必要だった」と、情報通信研究機構(NICT)時空標準研究室の岩間司さんはいう。

 原子時計で時刻を刻み始めたのは1958年。しばらくは1秒の長さを変えて補正していたが、国際単位として1秒の長さが決まったのを受け、72年からUTCでも1秒を不変とし、うるう秒を入れるようになった。

 原子時計をもとにこの60年ほどをみると、地球の自転は遅くなっており、累積で36秒のずれが生じたことになる。

ミクシィや航空会社で障害

 コンピューターがうるう秒を適切に処理できないと、様々な問題が起きる可能性がある。

 前回の12年は、インターネット交流サイトミクシィ」でシステム障害が発生。サービス全体の動きが悪くなり、会員のログインができなくなるなどの影響が出た。海外の航空会社では400便以上に遅れが出た。

 今回の対応は様々だ。日本取引所グループでは、午前9時の2時間前から株式売買システムの時間を段階的にずらし、うるう秒自体を発生させない対応をとる。同グループ広報・IR部は「取引開始は午前9時から。業務に影響はない」と話す。

 NICTのインターネット上での時刻情報サービスでは、うるう秒の挿入を提供先に知らせる情報を前日から配信する。

 業務自体を停止する業者もある。電子データ改ざん防止のため、時刻証明の発行業者を認定する日本データ通信協会によると、全認定業者が前後でサービスを停止する予定だ。「誤った時刻が発行されていないことを確認するため」とする。

 ただ、7月1日は四半期の開始日。NICTによると「時刻証明がないと業務が始められず困る」との声もあるという。

 電波時計は、新たな時刻情報を受信するまで1秒ずれる。位置測定に時刻情報を使うGPS(全地球測位システム)は、独自の時刻を使い、うるう秒は関係ない設計となっている。

■国連でも議論、日本は廃止派

 うるう秒廃止の声も近年、高まっている。1秒刻みで額が変化する株取引など、社会への影響が大きくなっているためだ。

 本格的な議論が始まったのは2000年。国連の専門機関で議題に上がり、話し合いがスタートした。一時は「うるう時」に変更して回数を減らす案が示された。だが、「根本的な解決にならない」という意見があり、12年、廃止案が提出され、議論になった。

 廃止しても、ずれが体感できるほど大きくなるには相当な時間がかかる。米国や日本は賛成したが、世界の標準時を定める基準だったグリニッジ天文台がある英国や中国などが反対。「この問題を完全には理解していない国もある」などの意見もあり、結論は先送りされた。

 存続させるかどうかは、今年11月の国際会議で最終決定される見込みだ。中国は廃止賛成の立場に変え、米国や仏、豪州、韓国、日本も積極的な姿勢。英国やロシアなどは反対を主張しているという。

 廃止が決まると、うるう秒がなくなるのは最速で22年。1秒長い1日を楽しめる機会は、あとわずかかもしれない。(山崎啓介)

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 1秒は、原子時計を使い「セシウム原子が出す電磁波が91億9263万1770回振動する間隔」と定められている。世界で単位について話し合う国際度量衡総会で1967年に決まった。

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 うるう秒は、「60秒の挿入」と「59秒を飛ばす」の2パターンで調整する。世界時(UT1)を出す天文観測の専門家らによる「国際地球回転・基準系事業」が、ずれを計算し半年前までに決める。今回は26回目で、日本では1日午前8時59分59秒の後に「59分60秒」が入る。