大地震に備える:3 時系列でみる災害食 好きな物、食べながら蓄えて
2016年2月28日05時00分
大地震をきっかけに物流が完全に滞ったら? 前回の「水の備蓄」(21日掲載)に続き、今回は食がテーマ。生き延びるためには、どんな備えをしておけばいいのか、日本災害食学会顧問の奥田和子さんに聞きました。
防災本などに載ったチェックリストに従って準備している人もいるだろう。しかし、奥田さんは「非常時の食は、不安やストレスにさらされた心を励ますもの。好物や食べ慣れたものを自分でしっかり考えて、手元に蓄えるのが基本です」と話す。
また、災害発生からの時間経過で、食事を取り巻く環境や人間の欲求は変わる。大きく三つの時期に分けてふさわしい備えをすることが大切と指摘する。
最初は、地震発生の直後。電気・ガス・水道が止まり、周りは人命救助が先決の大混乱かもしれない。状況によっては、自宅から避難して生活することを強いられる。
「食べ物に手間をかける時間はない。包装を開けてすぐ食べられるものを非常持ち出し袋に入れて準備して」と奥田さん。
選ぶ基準は三つ。(1)レトルトのおかゆやビスケットなど「腹の足しになるもの」(2)ミネラルウォーターや缶ジュースなど水分を補給する「飲み物」(3)缶詰のフルーツやチョコレートなど、ストレスがたまる環境で過ごす自分を慰めてくれるような「心の足しになるもの」だ。
「持ち出し袋にカップ麺という話も聞いたことがありますが、おそらくお湯を調達できる状況ではないので、ミスマッチです」。家族一人ひとりの事情に応じた準備が必要な世帯もあるだろう。介護食や離乳食、アレルギー対応食など中身を吟味しておきたい。
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次の段階は、混乱が尾を引きつつも、やや落ち着きを取り戻す時期だ。ライフラインの一部が復旧し、自分の家で生活する「在宅避難」が可能になる。「水道の復旧がまだなら食器は洗えません。簡単に食べられる缶詰やレトルト食品を最低1週間分、自宅に備蓄しましょう」
阪神大震災や東日本大震災では野菜不足により、便秘や口内炎などの症状を訴える避難者が多かった。奥田さんは「試しに主食、肉魚、野菜、デザートに分けて、朝・昼・夜の献立をレトルト食品や缶詰などで考えてみましょう」と助言する。
備蓄する食料は災害時専用にするのではなく、日常から多めに買って、食べては買い足す「ローリングストック」がいい。災害時は食欲が落ちる。普段から口にする好みの食品なら、抵抗なく受け入れられる。
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物流は回復し始めたものの、ライフラインの復旧が遅れた場合、自宅での料理は依然難しい。「共助」の出番だ。「炊き出しでご飯と野菜たっぷりの汁物を作り、元気を取り戻しましょう」。自治会などで大釜といった調理器具やガスボンベなどの熱源を準備しておくことを考えたい。「普段からコミュニケーションをとり、訓練をしておくことが大事です」
(水戸部六美、山田理恵)
<アルファ化米をジュースで> 水分を加えるだけで、やわらかいご飯になるアルファ化米。災害時に救援物資として送られてくることもあるが、水や湯がない場合、どうするか。
奥田さんは「機転を利かせて、野菜ジュースやフルーツジュース、お茶など、手近な飲み物を加えてみて」とアドバイスする。特に野菜ジュースを加えたアルファ化米は、ケチャップライスのような味になるうえ、災害時に不足しがちな野菜の栄養素を補える。
<災害時、冷蔵庫も活用して> 被災直後に在宅避難する場合は、冷蔵庫の中の食べ物も役立つ。「震災を生き延びる100の知恵」などの著書がある防災ガイドのあんどうりすさんは「必要以上に災害用の食品を買い足すのではなく、普段食べている、どの食品が災害食の代わりになるか考えてみて」と話す。例えば、自然解凍で食べられる弁当用の冷凍食品や、切り干し大根など長く保存が可能な乾物だ。
停電しても、冷蔵庫の室内はしばらく冷えているのでクーラーボックスになる。また、ジップ付きのポリ袋に水を入れ、冷凍庫に保管しておくこともお勧めだ。飲み水、夏場の暑さ対策、ケガの手当てにも使える。