東京都江東区で2月28日に起きた強盗殺人事件をきっかけに、「アポ電」(アポイントメント電話)への注意意識が高まっている。これまでは特殊詐欺特有の手口だったアポ電が、強盗事件で使われていた可能性があるためだ。アポ電対策に有効とされる自動通話録音機を貸し出している自治体の窓口には、住民からの問い合わせが殺到している。【五十嵐朋子、佐久間一輝】

 「不審な電話がかかってきた」「親が1人暮らしをしているので心配」。江東区役所には今、そんな問い合わせが相次いでいる。担当者は「みなさん、この間の事件のことを心配しているようです」と話す。

 事件ではマンションで1人暮らしをしていた加藤邦子さん(80)が両手足を縛られた状態で亡くなっているのが見つかった。加藤さん宅には2月中旬、現金の有無を尋ねる不審な電話がかかってきていたことが判明している。東京都渋谷区でアポ電後に強盗に押し入られる事件が2件発生していることから、警視庁捜査1課は今回の事件でもアポ電が使われたとみている。

 江東区はこれまで特殊詐欺対策として、自動通話録音機の貸し出しを行ってきた。録音機は会話を記録するだけでなく、「防犯のため通話が録音されます」というメッセージが流れることから、詐欺犯の撃退に有効とされている。同様の事業は多くの自治体で導入されている。

 区の担当者によると、これまではそれほど多くなかったが、2月28日の事件以降、貸し出しを申し込む電話が1日数十件も寄せられるようになった。昨年末までに区内の住民に約1600台を貸し出していたが、在庫も既になくなったという。

 警視庁犯罪抑止対策本部によると、アポ電とみられる不審電話の認知件数は昨年が3万4658件。2017年の2万5911件、16年の1万5010件に比べ急増している。

 手口はさまざまだ。国税庁職員を名乗り、「年金について調査しています」と切り出したり、警察官を名乗って「預金が多額だと危険なので口座を分けたほうがいい」と促したりするなど、資産状況を探り出す電話もある。消防署員を名乗る者が「災害発生時の救助の優先順位を決めるため、名簿を作成しています」と言って家族構成を聞きだそうとするケースもあった。これまではアポ電の後に現金を要求する電話がかかってくるのがパターンだったが、今回の事件では強盗事件につながったとみられる。

 録音機能のある電話を持っていない場合はどうすればいいのか。警視庁は「家族を名乗る電話には、いったん切ってもともと知っていた番号にかけ直すことを心がけてほしい。また、常に留守番電話で対応する方法もある」と話す。アポ電をかける犯人は留守電だとすぐに電話を切る傾向にあるからだ。同庁は「もし電話を取ってしまっても、現金の有無や資産状況に関する話は絶対にしないでほしい」と呼びかけている。

<アポ電を撃退するためのポイント>

・自動通話録音機を使い、相手の声を録音する

・自動通話録音機がない場合は、常に留守電にしておく

・家族など親族を名乗る電話はいったん切る。その後に親族に電話をして、電話が本当に親族だったかどうかを確認する

・電話を取ってしまった場合でも、お金の話は絶対にしない