あれは自動車? それともバイク? 個性的なデザインの自動車開発で知られる光岡自動車(富山市)とバッテリー商社のユアサM&B(大阪市)が、電気三輪自動車の販売を始めた。車検、車庫証明もいらない手軽さが特徴。小口配達向けに開発されたが、観光用にも使われ始めている。

 訪日外国人も目立つ有馬温泉神戸市北区)の細い坂道を、見慣れない車が走る。気づいた観光客が振り返る。1台だけではない。ボンネットの色も赤、青、黄色……。有馬のあちこちで見かけるようになった。

 電気三輪車「Like(ライク)―T3」で、宿泊客向けのレンタカーだ。2人乗りで、荷物を100キロまで積める。料金は平日1時間1千円、週末や休前日が同1200円。普通自動車免許で乗れ、ヘルメットはいらない。

 老舗旅館「御所坊」の金井啓修さん(60)がインターネットで見つけ、仲間の旅館経営者に購入を呼びかけた。「温泉街はどこも細い坂道が多い。小回りが利くので便利。個性的なデザインで、話題性も十分」と期待する。今はまだ5台だが、他にも購入する経営者がいるという。

 開発を考えたのは、光岡自動車の創業者、光岡進会長(76)。「個性的な車を作ってきたが、大手メーカーも手掛けないような量産車を一度つくりたかった。ネット通販の時代、小口配送が急増する」と話す。

 ログイン前の続き配達や工務店の作業用などの利用を見込み、これまでに約40台が出荷された。住友大阪セメントは鉱山で使い、岐阜県関市のゴルフ場はプレーヤーへの連絡に生かしている。京都市で工務店を営む松田順一さん(61)は「細い路地にも荷物を持って入れる。工期が短くなり、お客さんにも喜ばれている」と話す。

 運転手と並んで同乗者が座れるように設計されており、サイドカーと同じ側車付き軽二輪車(トライク)の型式になる。最高時速は50キロ。100ボルトの家庭用電源から6時間でフル充電でき、最大50~60キロを走れるという。

 これまでにない構造のため、バッテリーを供給してくれる会社が見つからなかった。光岡会長が、友人に紹介されたユアサM&Bの松田憲二社長(74)に直談判し、開発にこぎ着けた。

 販売や修理の態勢も整いつつある。既に首都圏や関西圏の自動車やバイクの整備工場と販売・修理サービスの代理店契約を結んだ。いずれは全国で1千店の販売網をめざす。レンタカーの用途は想定外だったが、今後は観光地や温泉地などにも売り込む予定だ。

 便利で個性的なデザインだが、課題は価格。経済産業省の補助金(最大30万円)を使うと1台100万円前後で買えるが、松田社長は「まずは100万円の壁を克服したい」と話す。(編集委員・多賀谷克彦

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 〈光岡自動車〉 個性的なデザインの改造車で知られ、輸入車や中古車の販売も手がける。1994年に車台(シャシー)を自社開発した車を発売し、ホンダ以来三十数年ぶりに自社ブランドをもつメーカーとなった。79年に設立され、売上高は175億円。