従来の医療費控除は、1月1日から1年間に、生計を一にする家族の医療費の自己負担分が、合計10万円を超えた場合、確定申告すれば、所得税が一部還付されたり、翌年の住民税が減額されたりする制度です。

 しかし、大きな病気やけがで医療機関を受診しないと超えません。

 セルフメディケーション税制は、医療用から一般向けに転用された市販薬「スイッチOTC医薬品」の購入金額が、合計12000円を超えると、超えた分が控除の対象になる制度です。つまり、あまり医療機関を受診しない人や、市販薬で治す人たちにとってみれば、ハードルが下がったことになります。ただし、セルフメディケーション税制を利用できる条件は、確定申告をする人が、メタボ健診と言われている特定健康診査やがん検診、定期健康診断、健康診査、予防接種のいずれかをその年に受けていることです。

 AさんとBさん、Cさんの3つの架空の家族を例にして、比べてみました。

 

■努力が報われる?

 

【Aさん一家のケース】

 サラリーマンで高校生の子ども2人がいるAさん一家(グラフ参照)は、日頃から健康に注意しており、あまり医療機関を受診しません。かぜや頭痛ぐらいなら、ドラッグストアで市販薬を購入して済ませます。子ども医療費助成があったときは、ちょっとしたことで受診していましたが、今は高校生で対象外となり、窓口負担の3割の支払いも馬鹿になりません。

 それでも市販薬と医療機関や調剤薬局に支払っていた医療費の自己負担分の領収書の金額を電卓で計算しても、10万円は超えないので、医療費控除のために確定申告することなんて考えたことがありませんでした。

 

セルフメディケーション税制が導入されると・・・

 従来の医療費控除制度は、セーフティーネットという要素が強いですが、セルフメディケーション税制は、健康を維持するために努力し、軽い病気では受診せずに市販薬を服用する人たちへのインセンティブ的要素があります。簡単に言うと、医療給付費の抑制に協力した人にメリットがあるようにした制度です。

 Aさん一家のように、従来は医療費控除を考えたことがない家族でも、領収書を1年間ためておけば、12000円を超えた分の18000円がセルフメディケーション税制の対象になります。(課税所得金額によって税率は違います)

 

 

【Bさん一家のケース】

 サラリーマンで高校生の子ども2人がいるBさん一家(グラフ参照)は、妻ががんのため外来通院で治療を続けています。夫と子ども2人は、アレルギー疾患を抱えています。市販薬で済ませていますが、金額はかさみます。例えば、ある年は、医療機関や調剤薬局へ支払った医療費の自己負担の合計金額は、1年間で10万円でした。市販薬で済ませた薬の領収書を計算すると5万円ありました。合計で15万円になります。今までは従来の医療費控除の仕組みを使って確定申告していましたが、これからはこういう場合、どちらの方法を使って確定申告すれば、お得なのでしょうか。

 

セルフメディケーション税制が導入されると・・・

 Bさん一家のような場合、全体の金額が10万円を超えているため、従来の医療費控除では、5万円が対象になります。また、セルフメディケーション税制の対象額は、12000円を超えた38000円分です。どちらの制度を使っても確定申告ができますが、この場合、患者や家族にとってお得なのは、従来の医療費控除制度になります。

 

 

【Cさん一家のケース】

 サラリーマンで高校生2人の子どもがいるCさん一家ですが、子どもが骨折をしたり、頭痛持ちだったりしてしょっちゅう通院して治療を受けたり、薬を処方してもらったりしています。夫と妻も、頭痛持ちで市販薬を利用することが多いです。Cさん一家の1年間の医療費の自己負担分を計算してもらったら15万円でした。医療機関や調剤薬局へ支払った額が8万円、市販薬が7万円でした。総額が10万円を超えているので、いつものように従来の医療費控除確定申告しようと考えていますが、それでいいのでしょうか?

 

セルフメディケーション税制が導入されると・・・

 この場合、従来の医療費控除の対象になるのは、5万円です。一方、市販薬の領収書の総額が7万円のため、セルフメディケーション税制の対象になるのは、58000円です。つまり、Cさん一家のようなケースでは、セルフメディケーション税制を使って確定申告する方が対象額が8000円多いので、患者や家族にとってお得になります。

 

 

 ただ、いくつか気をつけなくてはいけない点があります。

①市販薬すべてがセルフメディケーション税制の対象品ではない

 セルフメディケーション税制の対象医薬品かを見分ける方法の一つに、パッケージに印刷されたマークがあります。ただ、マークは業界団体の自主的な取り組みで義務ではないため、表示がない医薬品もあります。店舗のポップなどで説明する場合もあるかもしれません。分からなければ、店舗の店員に確認して下さい。ドラッグストアの中には、レシート(領収書兼用)の印字によって、セルフメディケーション税制対象の医薬品か見分けがつくようにするところもあります。

 ただ、対象となる医薬品は、医療用医薬品から転用された成分を含むものに限られており、10月17日現在、厚労省が1525品目を指定しています。例えば、最初から市販薬として販売されたOTC医薬品は、セルフメディケーション税制の控除対象になりません。対象品目は、厚生労働省のホームページでOTC医薬品の品目名が掲示されています。(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html別ウインドウで開きます

 

セルフメディケーション税制確定申告できる人は、健診や検診、予防接種をその年に受けていることが条件

 世界保健機関(WHO)によるセルフメディケーションの定義では、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」とされています。健康の維持増進や病気の予防のために取り組んでいる人が対象になるためです。そのため、「特定健康診査」(メタボ健診)、「予防接種」、「定期健康診断」、「健康診査」、「がん検診」のいずれかを申告対象の1年間に受けていることが条件となっています。

 

所得税と住民税を納めている

 非課税世帯は対象になりません。

 

 関係者にセルフメディケーション税制について聞いてみました。セルフメディケーション税制の導入の背景には、医療機関を受診したことによる医療給付費の増加に対し、保険財政が厳しい状況にあることが挙げられます。

 セルフメディケーション税制は、今のところ、来年から5年間の措置となっています。厚生労働省医政局経済課の阿部幸生課長補佐は「健康診断などを提出することにためらう人がいるかもしれませんが、12000円を超えた部分が控除になるのでインパクトは大きいと思います」と話します。

厚生労働省の制度の概要(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000124845.pdf別ウインドウで開きます

厚生労働省のQ&A(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000141868.pdf別ウインドウで開きます

 

 日本一般用医薬品連合会のセルフメディケーション実践プロジェクトによると、例えば、領収書の役割を兼ねるレシートに、セルフメディケーション税制対象の商品かを区別する印を表示することで利用者の利便性を確保することが考えられていますが、日本全国の薬局がいっせいにレジシステムを変更するかは分かりません。店頭での表示も各店舗にゆだねられています。また、制度は1月にスタートしますが、薬によっては1年に1回しか生産されないため、スタート時には対象品でもマークがないものが店頭に並んでいるかもしれません。そもそも、セルフメディケーション税制そのものが知られていない点も大きいです。同プロジェクトの平塚悟史さんは「もっと啓発していかないといけないし、これからは健康保険組合など保険者を通じた告知も進めていきたい」と話しています。