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・良清が源氏のところへ来ていった。
「明石の入道が私に話があると、
申すのでございます。
入道とは播磨にいたころからの知り合いですが、
私ごときに面白くないことがございまして、
それ以来、疎遠になっておりましたのに、
この雨風のさわぎにまみれて、
何をいって来たものでございましょう」
良清が面白くないこと、
といったのは、多分良清が、
入道の娘に求婚して拒絶されたことを、
いうのであろう。
源氏は夢が思いだされた。
夢の中で父院は、
(舟を出してこの浦を去るがいい)
といわれたが、
もしやそれに関連のあることではないか。
「早く会ってまいれ」
良清は早速行った。
「これは久しぶり」
入道は良清を迎えていう。
「よく、あの嵐の中、
舟が出せましたな」
「それが不思議なのです。
夢の中に怪しの者が現れまして、
舟の用意をして待ち、
須磨の浦へ着けよ、
というのでございます。
夢の当日は折も折、ひどい嵐。
ともあれ、お告げにそむくまいと、
舟を出しましたところ、
ふしぎな追い風が吹いて、
ここへ飛ぶがごとく着きました。
まことに神のおみちびきとしか、
思えませぬ。
もしや源氏の君にも、
お心に思い当たることはございますまいか。
お差支えなくば、
夢のお告げに任せ、
ここから明石の浦へ、
お迎えしたいのでございます」
源氏は良清の報告を聞いて、
しばし思いにふけった。
まさしくわが夢と一致するのは、
神仏のおさとしと、
源氏にも思われた。
軽率に居を移すと、
そしりを受けるかもしれないが、
どうせ流罪の身、
今さらなんの世間をはばかることがあろう。
明石の入道とやらのすすめに、
従おうと源氏は思った。
そのことを入道に告げると、
入道は限りなく喜び、
「ともかく、
夜の明けぬ先に御舟にお乗り下さいまし」
ということで、
いつもの側近四、五人ばかりと、
源氏は舟に乗りこんだ。
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(次回へ)