「姥ざかり」

田辺聖子著
昭和56年新潮社刊より

79番、左京大夫顕輔

2023年06月19日 08時38分28秒 | 「百人一首」田辺聖子訳










<秋風に たなびく雲の 絶えまより
もれ出づる月の 影のさやけさ>


(夜空を秋風は吹きわたる
たなびく雲の
切れ目から
ひとすじ さっともれ出た
月の光の明るさよ)






・平明な歌である。
訳すまでもなく、よくわかる情景。

この情景、
現代では都会の真ん中では味わえない。

灯りのない荒野や山中では、
「もれ出づる月の 影のさやけさ」を、
実感することが出来る。

そういうとき、
まことに月の光は明るく、
昼をあざむくという形容がぴったりくる。

これは『新古今集』秋上に、
「崇徳院に百首の歌奉りけるに」
として出ている。

藤原顕輔(あきすけ)は、
84番の作者、清輔の父。

寛治四年(1090)生まれ、
九寿二年(1155)六十六で死去。

父の顕季(あきすえ)も有名な歌人。

息子は数人いたが、
顕輔は末っ子だったが歌才があったので、
父に見込まれた。

顕輔は父の遺志をついで、
六条家歌学を興す。

六条家というのは、父の顕季以来、
邸が六条烏丸にあったので、
そう呼ばれた。

この六条家は歌の師として、
のちの俊成・定家父子の「御子左家」と対抗したが、
顕輔は俊成・定家以前の歌壇の大御所として、
崇徳院の命により、『詞花集』を撰進した。

この歌の「影」は「光」で、
月影は月の光。

現代語でいえば、
影と光は正反対であるが、
カゲという言葉は、もともと、
<かぎろう><かがよう>
などという古語と同じ根から出ている。

光り輝く発行体そのものと、
それからそれによって起る暗さ、
物かげの両方をさす。

古典では月かげ日かげといえば、
月光日光をいうのである。






          


(次回へ)

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