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・養女のことで蜻蛉はつてをたよって、
その娘を欲しいと申し出ると、母親はたいそう泣いて、
「ここまで育てた子供を手放したくないけれど、
こんな山の中で女の子を育てていても仕方がない。
京の邸で育てて頂けたら父親にも会えるだろうし、
この子の将来を考えたら淋しいけれど、
その方がいいかもしれない」
ということになった。
いよいよ女の子が京に来た。
この話はしばらく夫にはしないでおこう。
ところがまんの悪いことにこういう時に兼家は来る。
いろいろ誤魔化していたがとうとう養女の話をする。
「あなたの子にして下さいますか」
「そうしよう。早く会わせろ」
十二、三才という年よりずっと小柄で幼げに見える。
田舎に貧しく住んで・・・
でも、とてもいじらしい様子で可愛い。
「いい子じゃないか」
兼家はびっくりし蜻蛉も嬉しい。
「いったい、誰の子だね?隠さずに言えよ」
「まあ、やかましいわね。あなたの子じゃありませんか」
と教えると兼家はびっくりし、
その子のことはずっと気にかけていたらしく、
「よかった、こんなに大きくなって・・・」
と泣きます。
侍女たちももらい泣きし女の子も悲しくなって泣きます。
972年のこと。
兼家はまた冗談を言います。
「おれはね、もうここには来るまいと思ったんだけど、
こんなことなら来ずにいられないじゃないか」
それからというもの、兼家の手紙には必ず、
「小さい人はどうしているかね」
が付け加えられていた。
~~~
・蜻蛉は幼い娘に習字や歌を教える。
兼家は時姫の娘と同じような年ごろだから、
一緒に裳着(もぎ)をしようと言う。
時姫との間に出来た娘は二番目の詮子。
この娘は後に円融天皇の女御になり一条天皇を生む。
裳着とは女の元服で、十二、三才、
つまり初めて月の障りを迎えると、
めでたく一人前の女になったというので、
お歯黒をつけ髪を上げて裳をつける。
裳というのは女の正装の後ろの部分につける、
腰の後ろから当てて前に紐で結んで、
これに唐衣をつけると女の正装になって、
十二単衣の装束になる。
それを時姫の娘と一緒にやろうと、
兼家は気を配ってくれる。
蜻蛉も生きる希望がわいてきたのか、
ここの描写にはやわらかみが加わります。
~~~
・王朝の世は失火、放火、共に火事が多かった。
ある時、友人に誘われて清水寺へ参ってお籠りしていますと、
「西の方で火事らしい。燃えています」
お寺からはかなり遠いのでお供の人が冗談を言いまして、
「あれは唐土(中国)で燃えているんですよ」
それでみんなは何も思わなかったけれど、
どうも蜻蛉の家のお隣の邸らしい。
もしや類焼してはいまいかと蜻蛉は胸が早鐘を打つようになった。
残してきた小さい女の子と息子のことを思って、
夢中で帰ってきた。
幸い家は無事だった。
隣家の人が避難して来ている。
道綱が適切な処置をとってくれており親として嬉しく思った。
そして、一番に考えたのが、
「あの人、見舞いに来た?」ということです。
兼家は来ない。いよいよ愛情が冷めたのかしら。
夜遅くなってようやく兼家が見舞いにやってきて、
蜻蛉はやっと心が落ち着いた。
本当に兼家は忙しいのによくやっている。
通うところは蜻蛉の所だけではないし、
自分の本邸も別にあります。
兼家は気がつくが男手でおおざっぱ。
彼を支える妻がいない。
あちこちに通う妻はいるが心配りする女性はいなかった。
現実では兼家の見舞い品は、
「いとあやしければ見ざりき」
粗末なもので蜻蛉としては、
もっとちゃんとしたものをくれたら、と思う。
~~~
・道綱十八才、恋人が出来た。
相手に一生懸命歌を贈るが返事はつれないものばかり。
息子はとうとう母に歌の添削をしてもらう。
息子はまた相手方の返事を母に見せる。
蜻蛉は何度か代作をしますが、向こうから来る返事は、
どれもこれも素っ気ないものばかり。
結局、道綱の恋はどれも実を結ばず、
女にふられっぱなしでした。
とうとう道長夫婦(時姫の三男)が世話をして、
道長の北の方の妹と結婚しました。
しかし、その妻とも死別。
後、二~三人の妻を持ったが最後は、
源頼光という新興武士の娘の婿になった。
これは家柄のない侍階級なので、公家からはバカにされた。
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・そうしているうち、
夫の一番下の弟の遠度(とおのり)が、
蜻蛉宅に手紙を送ってくるようになった。
養女にした娘を妻にしたいらしい。
遠度は三十五、六、考えれば息子も娘もそういう時代です。
翌、973年、蜻蛉は三十八才、
王朝の女はもう老いの入り口でした。
兼家は四十五才、働き盛り、
男の方は今も昔も変わらない。
二月三日の昼、兼家が来た。
来たのは嬉しいが昼に来たというのが気にくわない。
老けこんだ顔を光のもとで見られたくない。
その時、夫は蜻蛉が染めた衣装を身につけていた。
夫からはよく仕立て物を頼まれていますが、
蜻蛉は裁縫や染色などの女の手仕事に長けた人で、
夫の着ている着物は美しい桜がさね。
桜がさねとは、
表は白で裏はワインカラー、
くっきりと地紋が浮き上がって美しい。
蜻蛉はわが身を見ると着古したよれよれ衣装。
「いと憎げに人はあり」
(ああ、こんなオバンでは愛想を尽かされてもしょうがないわね)
蜻蛉は身の衰えを肯定するまでになった。
その歳月の重さが感じられる。
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(6 了)