駒澤大学「情報言語学研究室」

URL https://www.komazawa-u.ac.jp/~hagi/

エキデン【駅伝】むまやのつかひ

2023-10-16 23:24:15 | 日記
2018.10.16~2023/10/16更新
エキデン【駅伝】むまやのつかひ
                               萩原義雄識
古辞書にも平安時代末の橘兼忠編三巻本『色葉字類抄』に、

 驛傳(ムマヤノツカヒ)[入・平]──分/エキテン
                       〔下卷江部畳字門十七ウ1〕

とあって、江部に標記語「驛傳」を載せ、右訓「ムマヤノツカヒ」を付訓し、注記には「驛傳分」と字音「エキテン」とす。無部乃至宇部については、前田本が欠本のため、江戸時代の完本黒川本以て見ておくと、

  (エキ) ムマヤ/宿也〔無部地儀門〕

とあって、無部地儀門には、単漢字「驛」の右傍に字音「エキ」とし、注記に和語「ムマヤ」と意義注記「宿也」とする。因みに、「驛」字は前田本の「驛」字と対比してみたとき忠実に書記されていることが見て取れる。次に、十巻本『伊呂波字類抄』には、「驛子」のみで当該語「驛傳」は削除されている。同じく七卷本『世俗字類抄』でも、無部に「驛(ムマヤ)」

  (ムマキ) ムマヤ/エキ〔無部地儀門〕

とするに、此の「驛傳」の語からその編集方針の檝が切られ、その編纂における変容が見えてきている。当然、和語「むまやづたひ」の語も断絶するものとなろう。
 だが、室町時代の古辞書『伊京集』が辛うじて懐古姿勢としてか、

  驛傳(エキテン) ムマノ/ツタヘ也 〔江部言語進退門〕

とあって、当該語「驛傳」の語を所載することは、此の語に重きをおく編纂者の意義が大きく働いていると見て良かろう。

《補助資料》
小学館『日本国語大辞典』第二版
えきーでん【駅伝】〔名〕(1)古代の公的交通通信制度。駅制と伝馬(てんま)の制。令制においては唐の制度にならって諸道に三〇里(約一六キロメートル)ごとに駅を置き、駅馬を備え、緊急重要の官使の逓送、宿泊に用い、また、郡家(ぐうけ)には五頭の伝馬を置いて不急の用に供したうまやづたい。*類聚三代格‐五・神亀五年〔七二八(神亀五)〕三月二八日・太政官謹奏「外五位〈略〉若因公使一応駅伝者。駅馬四疋伝馬六疋」*続日本紀ー天平二年〔七三〇(天平二)〕四月甲子「又国内所出珍奇口味等物。国郡司蔽匿不進。亦有下因乏少而不上進。自今以後。物雖乏少。不駅伝。任便貢進」*色葉字類抄〔一一七七(治承元)~八一〕「駅伝 エキテン」伊京集〔室町〕「駅伝 エキテン」(2)「えきでんきょうそう(駅伝競走)」の略。【発音】〈標ア〉[0]〈京ア〉[0]/(0)【辞書】色葉・伊京【表記】【駅伝】色葉・伊京
うまやーづたい[‥づたひ]【駅伝】〔名〕(「えきでん」の訓読み)令制下、官人の旅行、公用の使いなどのため、各駅や各郡に常備することが義務づけられた馬。駅馬と伝馬。えきでん。*堀河百首〔一一〇五(長治二)〜〇六頃〕雑「逢坂の関の関守出て見よむまや伝ひに鈴きこゆなり〈大江匡房〉」

デジタル『大辞泉』
1 「駅伝競走」の略。2 古代の駅制と伝馬(てんま)の制度。律令制では、唐の制度にならって、官吏のために駅には駅馬を備えて宿舎の便宜をはかり、郡家(ぐうけ)には伝馬を置いた。駅伝制。→駅制

まとめ
 「駅伝」の語は、漢語「エキデン【駅伝】」を和語には、「うまやーづたひ」と云い、古くから遠く離れた場所に人が移動する手段として、利用されてきた。大陸では、元の時代、モンゴル帝国が将にこの交通手段で人や物資、通信伝達などに「むまやづたひ」を行っていた。
 現代では、正月の駅伝競走として、チームの襷を手渡して距離を繋ぐ長距離走の名として「駅伝」という語は親しまれてきている。
 映画「風が強く吹いている」より 三浦しおん原作
 「箱根駅伝」を目指す物語
https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51S0DbFYeYL._SY445_.jpg
が三浦しをんの小説『風が強く吹いている』〔新潮社刊〕をもとに映画化されてきた。そして小説もネット配信され電子書籍として読むことが可能となってきている。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿