武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

061. エヴォラとディアナの神殿 -Evora e Templo de Diana-

2018-11-22 | 独言(ひとりごと)

 エヴォラはセトゥーバルから東に2時間半ばかり走ったアレンテージョ地方の中核都市だ。
 すっぽりと堅牢な城壁に囲まれ城門の中は細い石畳の急勾配の坂道が縦横に交錯する。
 世界中から多くの観光客が訪れる1級の観光地だが、現代の生活空間としても立派に機能している人口5万の街。
 その旧市街地区の幾つかの建造物と精霊信仰巨石文化遺跡群(イギリスのストーン・ヘンジやブルターニュのカルナックよりも更に2000年古い、紀元前5000年)などを含め、1986年にユネスコの世界遺産に登録されている。

 僕もエヴォラには今まで数え切れないほど訪れているが、実はあまり絵にはなっていない。
 ほんの数えるほどだ。
 魅力のある町なのだが、絵にはなりにくい。僕にはそういった町もある。
 でも「今日こそは絵になるスケッチを物にするぞ~」と勢い込んで家を出た。

 エヴォラ Evora の発祥は古く、紀元前に遡る。
 紀元前900年頃、中央ヨーロッパからゲルマン人に追われたケルト人たちが住み着き、先住のイベロ人と融合、「エブロブリティウムEburobrittium」と呼んだのがエヴォラの語源とされている。
 ケルト語でエブリアヌスEburianusとは崇拝の対象になる言葉で、エブロスEburosはいちいの木を指す。
 日本でもいちい(櫟)の木は一位の木とも書き、縁起もよく神聖な木とされ神社などにも多く見られると聞いた。
 古来ケルト民族ではいちいの木で弓を作るのが慣わしとされた。雨風にも強く、狂いが生じにくい。高木針葉樹で赤い実がなる。

01. 当写真はサイト「BotanicalGarden」から拝借しました。

 赤い実は食べられるが種には毒がある。樹液にも毒があり、その樹液を矢じりに塗る。

 ローマ統治時代、豊かな土地エヴォラには豊富に穀物が実った。穀物はパンになる。
 ローマ人たちはこの都市をケルト語源のそのままを受け継ぎエボラ・セレアリスEbora Cerealisと名づけた。
 セレアリスはポルトガル語で穀物という意味である。

 そしてアウグスト皇帝を讃え、遥か穀倉地帯を見晴らせる中心部の丘の頂に神殿を建てた。
 狩の女神「ディアナの神殿」と人々は呼んだ。
 狩は穀物を守るのにも必要であったし、お陰でいのしし、鹿、野うさぎなど獲物がたくさん獲れた。

02.
 ディアナの神殿は紀元1世紀に建てられたコリント様式の神殿である。
 その台座部分、舞台はほぼ完全な形で残されているが、南側の階段部分は崩壊している。
 長さが25メートル、幅15メートル、高さは3,5メートルあり、エヴォラで産する御影石でなり、礎石はきれいに直角に切られぴっちりと組まれ僅かな隙間も見受けられない。中間部分にもきっちりとくさび石が打たれ隙間はない。そしてその上部には張り出した石列が3方を取り巻いている。

03.
 その舞台の上の北側には6本の完全な石柱と東側にも4本の完全な石柱。西側は2本が完全で、他の2本には柱頭がなく、もう一つ円形台座のみが残されている。
 柱もエヴォラの御影石で、縦に深い溝が彫られている。そしてそれは7個の石材が積み重ねられた構造になっているが、その石材の個々の長さがそれぞれ微妙に異なる。
 しかし7個を繋ぎ合わせた高さは6,2メーターと揃っている。

04.

05.
 舞台と柱が御影石なのに対し、円形台座と柱頭は白亜大理石が使われている。隣町のエストレモスから運ばれた大理石だ。
 柱頭には精巧なレリーフが施されている。葉アザミが3段に整頓されて彫られ、その上部に頂板が飾られ、それぞれ四方の中心にはキンセンカ、ひまわり、薔薇などが施されている。そしてその上に梁となる御影石の切石が渡されている。

06.
 2000年の風雨にさらされてもなお威厳を保ち続けるポルトガルを代表する遺跡建造物の一つである。

 7000年前のアルメンドレス巨石遺跡から始まって、このディアナの神殿、張り巡らされた城壁、水道橋、ローマ浴場跡、カテドラル、修道院、ジラルド広場等々、「エヴォラ歴史地区」として世界遺産に登録された建造物その全てが石によるものである。まさに石の文化、石の上で繰り広げられた歴史そのものなのだ。

 ディアナの神殿の前のカフェに座ってコーヒーを飲みながら、ツーリスモ(観光案内所)でもらったパンフレットを眺め、遥か古(いにしえ)に思いを馳せる。

 内陸部エヴォラは海沿いのセトゥーバルなどに比べ、夏はより暑く、冬にはいっそう冷え込む。
 今日は天気が良い分、放射冷却現象で気温が低い。又また難敵エヴォラのスケッチはお預けになりそうだ。

VIT



07.

(この文は2008年1月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

武本比登志ブログ・エッセイもくじ へ


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 060. フランスの田舎・メイ... | トップ | 062. ペットシュガーコレク... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

独言(ひとりごと)」カテゴリの最新記事