「そろそろフランス旅行の計画をたてようかな。」と思いはじめていた頃に<パリのIKUOさん>からメールを頂いた。
「毎年出品のためにパリに来ているのでしょう?一度パリで逢いませんか。」さらに「良かったらメイエ村まで来ませんか。」と言った内容。早速お言葉に甘えてメイエ村を中心にして旅の計画をたてることにした。
1.
IKUOさんの名前は僕が高校生の頃から友達を通して耳にしていた。彼も僕も海外に出る以前の話だ。
そして1972年に一度パリでちらっとお会いしている筈。
1975年頃だったか、そのIKUOさんのことを高校生の頃から話していた友人が仕事でパリに来て僕の大学の先輩から僕の居場所を聞いたとのことで、突然、パリから僕の住んでいたストックホルムを訪ねてくれた。
なぜその両者が知り合いなのか不思議だったが、接点はIKUOさんだった。
それから実に30年以上の年月が経過している。
最近になりインターネットのお陰でIKUOさんと直接連絡がつくようになった。
今年と2年前の大阪髙島屋での僕の個展会場には彼が訪ねてくれた。
IKUOさんはパリが本拠地だが、銀座にもお店があり、かなりの頻度で帰国されている。
2.
彼は最初からパリにどっかと根を下ろし、かなり早く若い時期から「IKUO・PARIS」のブランドでジュエリー・デザイナーとして成功されている。
その彼はフランスの田舎、メイエ村に17年前に広い農場を買い取られ、少しずつ改築してフランスでの田舎生活も楽しんでおられる。
田舎でも仕事をし、その田舎暮らしからさらにジュエリーデザインのインスピレーションが広がるのだそうだ。
その人柄、仕事ぶり、人生観に共鳴する人たちも多く、たくさんの友人たちがメイエ村を訪れる。
3.
僕もホームページを通じてメイエ村のことは少しは見ていたけれど、今回、初めてお邪魔させて頂くことにした。
ポルトガルからパリに着いてサロン・ドートンヌ用の絵をムッシュ・Mに預けて、それからメイエ村に行っても夜が遅くなってしまうので、先ずその日は1時間か2時間以内で行けるところまで行くことにした。
2時間ならリヨンがそれにあたる。
メイエ村よりは距離的には遠いがTGVならド・ゴール空港駅から直接乗ることができる。
4.
リヨンからはメイエ村の最寄駅、ムーランにも列車が通じているし、今回の旅はそのコースに決めた。
それに僕がフランスに行くことの大きな楽しみは美術館鑑賞である。パリではない、地方美術館にはそこにしかない絵が埋もれている。そういったものを少しずつでも観たい。
リヨンは大都市だ、せっかくだからリヨンで3泊をすることにした。
そのリヨンと「リヨン美術館」についてはいずれ別の機会に書きたいと思っている。
3日後、リヨンから列車で3時間たらずでムーランに着いた。IKUOさんとロベールさんが駅まで出迎えてくれた。
5.
例年ならこの時期、フランスの気温はポルトガルより10度低い。
でも今年のポルトガルがいつもより暖かかったせいか、15度もの温度差だ。
安かったこともあり、思わずリヨンの露店市で毛糸の帽子と手袋を買ってしまった。
毛糸の帽子を目深に被り、手袋をはめて、深い霧のメイエ村を散策した。
紅葉が実に美しい。
佐伯祐三が描いた様な大屋根の農家が黄葉の中に点在している。
僕は今のところポルトガル以外は描かないことに決めているが、メイエ村周辺には絵になるところが至るところにある。
6.
ブナの深い森、サップグリン、クロムイエロ、イエロオーカ、ヴァミリオン、ライトレッド、クリムソンレーキと様々な色がしかもそれぞれの色の明度を一段深くした様な渋い色の重なり、樹木の響きあい、枯れ落ちた小枝や腐葉土を踏みしめる感触。
オゾンをいっぱいに吸いながらの森林浴、セップ狩り。
羊がこちらを見ているのに目が合う。遠くでシャロレーという真白い牛が豊かで鮮やかな緑の草を食む。
樹々や大屋根が漆黒のシルエットをつくり、地平線に太陽が落ちてゆく。
僕の好きなテオドール・ルソーやドービニーそれにコローやミレーの絵の世界に迷い込んだ様だ。
さらにはユージーヌ・ブーダンやモネ。
ポルトガルでは味わえない色合い、大気、質感、匂い、音が共鳴し、バルビゾン派そしてそれに続く印象派を感じさせずにはいられない。
7.
この様な大気の中だからこそ近代絵画が生れたのかも知れない。などと思ってしまう。
イタリア・ルネサンスの衰退がなければ、フォンテーヌ・ブローにもし流れが移っていなければ、歴史に<もし>はないけれど、美術の流れは今とは違うものになっていた筈だ。
美術史に関する本を読み漁り、観たくなればいつでも美術館に足を運ぶ、そしてたまには絵を描く。
こんな中で近代美術史を研究できれば楽しいだろうな、などとも夢想する。
メイエ村のIKUOさん宅では、樫の木の大きな梁を見ながら、暖炉のマキのはぜる音を聞きながら会話を楽しみ、庭で出来たという胡桃をあてにアペリティフ。
可愛いリスの訪問も受け、夢心地の3日間を楽しませて頂きました。
VIT
8.
9.サロン・ドートンヌのベルニサージュでピアノコンサート。後ろは僕の作品。
(この文は2007年12月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)
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