武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

037. 老練石だたみ工 Calceteiro

2018-10-31 | 独言(ひとりごと)

 ポルトガルの歩道にはたいていモザイク石畳が施されている。
 そしてそれは美しいと思う。
 石畳はヨーロッパの街を形成する上で欠かせない建造物なのかも知れない。
 2000年も前に造られたローマ街道遺跡にも石畳が残されている。
 現在のローマにもパリにもストックホルムのガムラスタンにもそれはある。
 いや最も現代的なフリーポートショッピングセンターにすら石畳が使われている。

 パリのセーヌ河畔などは少し大きな花崗岩が使われていて、子供はその石組みを利用してケンケン遊びをしながら親との散歩を楽しんでいる。
 ガムラスタンなどは10センチ角くらいの物がウロコ状に組まれていたりもする。

 ドイツをキャンピングマイクロバスで旅行中、石畳の広い広場を見つけてその夜の宿としたことがある。
 そう云ったのが普通のそんな旅をしていたのだ。
 ぐっすりと寝込んでいた夜中にガンガンとドアを叩く音で起こされた。
 「朝市の準備をしなければならないから、少し隅っこによけてくれ」と言う。
 その頃、あいにく我がマイクロバスのスタートモーターの調子が悪かった。
 エンジンが冷え切っていたので案の定エンジンはかからなかった。
 朝市準備人は人手をかき集めてマイクロバスを押して、石畳の広場をぐるぐる回り、エンジンをかける手伝いをしてくれたことがある。
 僕の寝ぼけた頭の芯に石畳のショックが響いた。

 ポルトガルはたいていが白い石灰岩で一つが6~7センチ角と小さい。
 それが繁華な所に行くと黒い石や茶色い石も混ざり、美しいモザイク模様に描かれたりする。
 アラビア的な唐草模様や魚やイルカ、あるいは船の絵が施されていたり、又は抽象模様や大きな波型のところもある。
 ここでも子供は波型に沿って走ったりスキップをしたりと、子供は何でも遊びの道具にしてしまうのだ。
 店の前などには店名やロゴマークのモザイクがあったりもする。

 

01.店の名前が書かれた歩道

 

02.両替屋

その石をもっと小さく1センチ角にまでするとローマ時代のモザイク同様になる。
白と黒で横断歩道のストライプが作られているところもある。
ペンキ不要なのである。

03.石畳の横断歩道

 

04.イルカ

 ポルトガルの歩道には盲人用点字ブロックはない。
 石畳自体が点字ブロックの役割をしている様に思う。
 だからたぶん必要はないのだ。

 女性のハイヒールなどは細いかかとが目地に挟まってしまいそうだが、ポルトガル女性はその上を上手に歩く。

 かつては車道は黒くて硬い花崗岩の石畳であったが、最近はその上から無残にもアスファルトが流されてしまっている。
 時たまいまだに石畳の車道も残されているが、石畳の上をクルマが走るとうるさくてしかたがないし、スピードも出せない。

 アレンテージョのヴィラ・ヴィソーザやボルバなどの大理石の産地に行くと、まっ白い大理石のかけらで歩道が敷きつめられていたりもする。
 大理石はその性質から四角く割ることはできないから、その歩道は時たま尖っていたりもする。

 セトゥーバルなどで使われる石は四角く割れる、あらかじめ小さく割った石灰岩を運んできて、その場でまた模様や目に合わせて金槌を使い、手の上でさらに割って形を作ってゆく。
 見ていると金槌で面白い様に割れる。
 熟練石畳工の手に拠るからなのだろう。
 それが一旦石畳が完成すれば少々乱暴に飛び跳ねても割れることはない。

 

05.石畳の上でくつろぐポルトガルの犬

 石畳はセメントで固めないから時には剥がれたりもする。
 下地と目地には砂が撒かれる。
 石が組まれ目地に砂が撒かれて縦型の<かけや>でドスンドスンと固められる。
 最近は大掛かりなところでは機械が使われる。

 雨水は目地から地下に沁みこんでゆく。
 人通りの少ない所には雑草が生える。
 けなげにも可愛い花が咲いていたりもする。

 水道やガスの工事の時はつるはしの先を当てて剥がして、工事が終わればまた元通りに戻す。
 そんな時は大掛かりに5~6人の石畳工が石畳を張っていく。
 石を運ぶ人、砂を撒く人、石を並べる人、突き固める人と分業をして、結構な広さのところでも見る間に仕上げてしまう。

 自然に剥がれることもある。
 1個剥がれるとそれは少しづつ広がり、やがてぽっかりと空地ができる。
 そんなところを補修するのは、たいてい老練石畳工の仕事だ。
 石畳補修7つ道具をリヤカーに乗せて一人での孤独な作業だ。
 リヤカーには石,砂、水の入ったジョロ、金槌、縦型のかけや、熊手、箒、スコップなどが積まれている。
 それに忘れてはならないのが弁当とワインである。
 結構キツイ仕事には違いないが、鼻歌などを唄いながらローマ時代から同じやりかたで補修され続けているようにも思う。VIT

 

06.金槌で砂をならし石を割る

 

07.そして石を並べてゆく

 

08.リヤカーには石畳7つ道具が

 

09.目地に砂を撒き、縦型かけやで突き固める

 

 

(この文は2005年9月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに少しずつ移して行こうと思っています。)

 

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