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江戸期の別子銅山の素吹では、珪石SiO2源の添加操作はなかった?(12)

2020-05-24 09:31:42 | 趣味歴史推論

 表題の(10)(11)では、南部藩尾去沢銅山の素吹1枚、真吹1枚に必要な経費とその内訳の一覧を江戸期の古文書「御銅山傳書」で調べた。今回は、珪石添加とは関係ないと思われるが、ついでに前工程のきら鉑仕上(選鉱)と本燃込み・焼直し(焙焼)に必要な経費とその内訳を読んだので記しておく。1)
鉱石の計量は鉑枡と呼ばれる特別の度量で、四方1尺7寸5分、深さ7寸5分の容量を鉑舛1舛とした。2) よって1舛=53.03×53.03×22.73=63.92リットル 1斗=639リットル 米1斗=18.039リットルであるから 鉑舛1斗の容量は、米1斗の(639/18.039=)35.4倍に相当し、鉑重量としては、300貫~370貫とされた。鉑の買上価格は藩営開始の明和2年(1765)で、1升 300文であった。
以下の入方積(安永5年(1776)改)では、2斗の生鉑(約700貫目)が「きら鉑仕上げ」され、2斗窯で焙焼される費用が記されている。冷やしを含めた焙焼日数は本燃やし約25日+焼直し約20日かかるが、ここに上げられた見積書では1筒(すなわち2斗を焙焼し終わる)に必要な人件費(1日分であったり、2/3日分であったり4日分であったり職により異なる)、燃料代、運送代などが挙げられている。

雲母(きら)鉑仕上並びに燃込吹方入方積
二斗雲母(きら)仕上 但し 40本鉑脊負(せおい)叺(かます)にて
 ・代1貫文         25本焼脊負叺にて
       右は床屋閖場(ゆりば)まで
  内訳
  ・500文      きら脊負10人 但し1人に付き25本但し焼叺にて如此
  ・400文      笊(ざる)上げ8人 但し1人に付き50文づつ 
             當時16人にて1仕上用4人づつ4日定目    132文1人1日8文づつ手子へ御下候4日にて16人前
  ・100文      笊上げ手子2人 但し2日に右人数にて2斗仕上燃込み(もやしこみ)當時4日に1仕上枚の積
本燃込み一筒焼直しまで入方積
 ・5貫128文8分8厘
  内訳
  ・66文6分     盛貴 定数2人 但し1ヶ月御給代1人に付き1貫文づつ
  ・44文4分     盛貴 定数2人御扶持米2升 但し100文に付き4升5合積
  ・4文       盛貴2人味噌60匁 但し100文に付き1貫500匁積
  ・6分       盛貴2人塩2勺よって但し1升に付き30文積
  ・11文8分     釜大工6分6厘6毛御扶持米5合3勺3才 但し1日8合づつ但し100文に付き4升5合積 釜大工働定目1日1人にて1枚半燃の定目割合を以如此
  ・33文3分     釜大工6分6厘6毛 但し1ヶ月(御給代)1人に付き1貫500文の割合を以如此
  ・1文1分       釜大工6分6厘6毛 味噌16匁6分6厘但し1人に付き25匁の割合を以如此 但し100文に付き1貫500匁積
  ・2分       釜大工6分6厘6毛塩6才6(弗) 但し1升に付き30文積
  ・20文        鉑ねり半人日雇 但し1人に付き40文割合を以如此
  ・46文6分        中間2人御給代 但し1ヶ月1人に付き700文割合にて如此
  ・35文5分     同2人御扶持米1升6合 但し1人に付き8合但し100文に付き4升5合積
  ・3文3分       同2人味噌50匁1人に付き25匁 但し100文に付き1貫500匁積
  ・6分       中間2人塩2勺 但し1人に付き1勺づつ 但し1升に付き30文積
  ・23文3分     釜廻り1人御給代 但し1ヶ月1人に付き700文積
  ・17文6分6厘    同1人御扶持米8合分 但し100文に付き4升5合積
  ・1文6分6厘      同1人味噌25匁 但し100文に付き1貫500匁積
  ・3分         同1人塩1勺 但し1升に付き30文積
  ・80文          焼脊負2人 但し1ヶ月御給代1人に付き1貫200文づつ
  ・44文4分         焼脊負2人御扶持米2升 但し1人に付き1升づつ100文に付き4升5合積
  ・4文         同2人味噌60匁但し1人に付き30匁づつ 但し100文に付き1貫500匁積
  ・6分         同2人塩2勺 但し1人に付き1勺 1升 30文積
  ・2貫400文       本燃し春木300挺 但し 1丁に付き8文積
  ・120文       大炭8貫目 但し10貫匁に付き150文積
  ・160文       衣草40貫 但し1貫に付き4文積
  ・1貫600文    焼直し春木200挺 但し1挺に付き8文積
  ・120文       同 炭8貫匁 但し10貫匁に付き150文積
  ・120文       同 衣草30貫 1貫に付き4文積
  ・25文         釜大工半人 但し1ヶ月御給代1人に付き1貫500文の割合如此
  ・8文8分8厘        同半人御扶持米4合代 但し100文に付き4升5合積
  ・8分3厘        同半人味噌12匁5分 但し100文に付き1貫500匁積
  ・1分5厘        同半人塩5才分 但し1升に付き30文積
  ・46文6分      中間2人1ヶ月御給代 1人に付き700文づつの割合如此
  ・35文5分      中間2人御扶持米1升6合 但し100文に付き4升5合 但し1人8合積如此
  ・3文3分     同2人味噌50匁  但し100文に付き1貫500匁但し1人に付き25匁積如此
  ・6分        同2人塩2勺 但し1升に付き30文積
  ・20文      鉑ねり半人日雇 但し1人に付き40文割合を以如此

 合計内訳を合計すると、5貫100文7分8厘となって、頭の金額に比べ28文1分だけ小さい。(-0.6%の違いは、計算間違い,写し間違い、読み間違いか?)

内容のメモと考察
1. この定目は安永5年9月改(1776)であった。
2. 選鉱(きら鉑仕上げ)工程
 鉱石は金場に集められ、からめによって、砕かれ鉑ごしらえされ、山色吟味(やまいろぎんみ 品位鑑定)される。鉑山色の聞書によれば、以下の様な品位がある。3)
「・なたね鉑 ・にじ鉑 ・みため鉑 ・あみだ鉑 ・のしめ鉑 ・黒のしめ鉑 ・洛く壽り(らくすり?)鉑 ・鉄(くろがね?)鉑 ・一代鉑 ・とかげ鉑 ・茶鉑 ・紫鉑 ・きら鉑 ・麴(こうじ?)鉑 ・赤鉑 ・やしま鉑 ・まん壽(まんじゅ?)鉑 ・なんばん鉄鉑 ・めなし鉑 ・炭灰鉑 ・柿色鉑」
 各山から山色吟味を終えた鉑が脊負によって集められ、選鉱作業がなされる。純良の鉱石は重鉑(おもはく)と称えてそのままで、それ以外は笊や扇舟(樋)で水を使った比重選鉱により、10種以上に区別される。(重鉑、羽色鉑、片羽鉑、2番、3番片羽鉑、毒鉑、銀毒鉑、羽色粕鉑、閖板鉑、扇舟掫鉑 根子物鉑 ほろ鉑 下閖場掫舟鉑 舟尻粕鉑)
3. 焙焼工程 麓三郎によれば、以下のように述べられている。4)
「焼窯は装入容量により、2斗窯と1斗窯との別があったが、安永9年(1780)頃から小型の方が冷却が早いとてもっぱら1斗窯を操業した。1斗窯の装入量は鉱石300貫とし、種々の精鉑を適宜配合したもので、細粒のものは粘土水で捏ねて団状にして装入した。焙焼にはまず木炭を敷き薪材を積み並べその上に鉱石を盛り上げ、更に衣草(きぬくさ)とよぶ藁、枯草類をかける。そして窯の中心部に火を点じ窯全体に火が廻るようにするのである。装入する燃料は木炭4貫目、薪材(これを春木という)290挺、衣草50貫である。火気が全く無くなるのを待って焼鉑を取出す。この間20日乃至25日かかる。この操作を「本燃し」という。こうして焙焼された焼鉑を更に「焼直し」と称する第二次の焙焼を行う。方法は第一次と全く同じである。焼直しには木炭2貫目、春木175挺、衣草25貫目程度を要する。日数15乃至20日で冷却する。所要燃料の数量は記録のよって多少の相異あるが、ここには寛政元年(1789)のものによった。この操業には釜大工1人、釜燃し4人、焼鉑脊負等の雑役2人が従事した。
 阿部小平治稼行の時期(1713~1726)には焼窯は143筒(但し何れも2斗燃し)、寸吹(素吹)床3丁、真吹床2丁であった。焼窯1箇の生鉑装入量は1斗8~9升(600~650貫目)、消費燃料は春木120挺、木炭20貫目。寸吹床1丁に対して焼鉑2斗7升を装入し、所要燃料は木炭60貫目。真吹床1丁は銅鈹100貫目を処理し、燃料の木炭は50貫目を定目とした。小平治稼行時代の計算では生鉑2斗2升(約770貫)を原料とする、焼窯、寸吹、真吹等の製錬所費用1日分(筆者注 1筒や1枚分の間違いではないか、そうでないと合計するのはおかしい)の見積もりとして、銭23貫559文としており、そのうちに床役金として450文が含まれている。」
この23貫559文と今回の11貫753文とは2倍の違いがあるがその原因は分からない。
4. 不確かな言葉、名称などについて
①「きら鉑仕上」となっているのは、山色のなかに「きら鉑」があり、尾去沢の標準的な鉑なので、この名称で、「全種の鉑仕上」を指すようにしているのか?「きら鉑」とは脈石が雲母であるのをいうのであろうか。
②盛貴(もりき もりたか、せいき? 貴で正しいのか?) 窯に鉑や春木を盛る職の人を指すのか?
③鉑ねり 細粒の鉑を粘土で練って団状にすることを指しているのであろう。
5. 生鉑(600~700貫目)を選鉱し、焙焼し、素吹し、真吹して、荒銅約60~70貫目を挙げることを定目とした各工程の費用は以下のように記されている。
  選鉱  1貫文
  焙焼  5貫128文8分8厘
  素吹  4貫387文2分4厘
  真吹  1貫233文6分5厘
 惣〆   11貫753文7分5厘
ここに書かれたのを筆者が合計すると 11貫749文7分7厘となって 3文9分8厘だけ少ないが0.03%の違いと小さい。個々の工程の計算違いについては先に記したとおりである。
 別子銅山の荒銅製造原価に比較して、相対的に焙焼の費用が極端に大きいと感じる。本燃込みと焼直しの2回分であることと、薪代(春木)がかなり大きいことが原因のようである。今後別子との比較をしてみたい。

注 引用文献
1. 「御銅山傳書」 内田周治 嘉永2年(1849.3.10)写 日本鉱業史料集第10期近世編(上)p125~134(白亜書房 1988))→図1,2,3
2. 「鉑舛の定法」同上p44 
3. 「鉑山色の聞書」同上p48→図4 
4.  麓三郎「尾去沢・白根鉱山史」p230~234(勁草書房 1964.9.30)
図1. 「御銅山傳書」の「雲母鉑仕上並びに燃込吹方入方積」-1


図2. 「御銅山傳書」の「雲母鉑仕上並びに燃込吹方入方積」-2


図3. 「御銅山傳書」の「雲母鉑仕上並びに燃込吹方入方積」-3


図4. 「御銅山傳書」の「鉑山色の聞書」の部分

 

 

 



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