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山下吹(27) 真吹における「すばい」の役割

2021-01-24 09:00:07 | 趣味歴史推論
 銅製錬の床吹法では、炉の内壁を「すばい」(素灰 炭灰 す灰 寸灰 須灰)で固めている。素吹床、真吹床の両方で用いられる。このすばい層の役割は、炉の形状維持と鍰(からみ)形成の原料となることである。
すばいは、炭(粉に砕いたもの)と粘土を、水(粘土汁)で練ったものである。その比率の1例は、炭7:粘土3 (枡で計った体積と推定)であった。強固な床壁、良い性状の鍰をつくるためには、良い粘土が必要であったはずである。粘土の性状、成分、粒度、採取場所などについての記録は少ない。粘土が鍰の性状に影響を及ぼすと気づいていたであろう。
 江戸期の素吹において、鍰の原料となるSiO2源は、当ブログで以前調べた限りでは、特に珪石として添加されていたことはなかった。鉑に付いていた脈石が主なSiO2源であったと推定された。壁のすばいからも少し加わったであろう。
真吹では、鈹(Cu2S-FeS)中のFe分を鍰として除くためには、そのもとになるSiO2源が必要になり、それがすばいの粘土である。壁のすばいから、鍰形成に必要な分量だけ反応して取り出されることになる。すなわち
真吹の主反応は Cu2S+O2→2Cu+SO2 であるが、鈹Cu2S-FeS のFeSを、主に前半に、以下の反応で、鍰Fe2SiO4として取り除く。
 FeS+3/2O2→FeO+SO2  2FeO+SiO2 →Fe2SiO4  
このSiO2の源がすばいの粘土である。

 江戸幕末まで、日本では煉瓦は使われていなかったので、焼いた煉瓦を作り、それで炉をつくるという発想がなかった。粘土質(珪酸質)の煉瓦が出来て炉を作ったとしても、融液と反応して、鍰となり、侵食され、すぐに駄目になってしまっただろう。逆に侵食量が少ない場合には、鍰形成が不十分となるので、別途適当な量の珪石の添加が必要になる。
これに対して、床壁は侵食されるが毎日修繕して新しい壁とすることが容易であるという利点があった。このことが、江戸期に大量の銅生産に都合よく作用したのである。


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