オレンジ色の家庭

こころ温まる日々の出来事を発信したい。

ふるさと

2006-07-17 12:50:43 | Weblog
明野村浅尾は、茅ガ岳西麓の最上部にあり、まわりを南アルプス連峰、
八ヶ岳に囲まれて富士も眺められる。
冬には八ヶ岳下ろしが吹きすさぶ反面、
日照時間が日本で一番長いところでもある。

子ども時代、夏休みになるときまってここで過ごした。
五人のいとこと、じゃが芋の皮を剥いたり、麦の選穀をしたり、ほうとうを
作ったり、野山を駆け回ってげんのしょうこを摘んだりした。
夜になると外でござを敷き、満天の星を飽かず眺めた。
インパールの戦地で、九死に一生を得た伯父が、宝物のようなこの時を
いとをしむかのように、子どもたちに星の説明をしてくれた。

いつのころか定かでないが、私の心のなかで、棺を土の中に埋葬する
情景が時々浮かんでは消えるようになった。
いったい誰の土葬なのか、それとも幻なのか
ずっと疑問を持っていたのだが、
その理由が今になってやっと解かった。
葬儀の日「おばあちゃんを埋めてはいやだ」とはげしく泣いて、
周りの人たちの涙を誘ったのだそうだ。
苦労続きの花の枝おばあちゃん、
「孫にあれほど慕われて、決して不幸ではなかったよ」と、
今はもういない妹が家に帰ってしみじみと話したそうだ。
可愛がってくれたおばあちゃんが土の中に埋まってしまう恐ろしさが、
四歳の私の心を強く揺り動かしたのだろう。
透き通るような山並みに囲まれたこの家で、
どんな境遇にも負けずに一生懸命生きた
明治の女の息遣いが、今も聞こえそうな、ふるさとである。
 
  平成7年に書いた文ですが11年後に花之枝の郷に行けたことが
  不思議でもあり感激です。
  一ヵ月に一度ぐらい書けたら良いと思っております。
  よろしくね

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