Gravity Blue ３３

桟橋を渡り切り、いよいよ魅惑の島へ。

旅人を飾り気のないやわらかい風で迎えてくれるような、
小さな小さな目抜き通りがある。
買い物をする島の人たちと、ロハスショッピングを楽しむ旅人たちで、
この上ない平穏な時間が流れている。

ホテルの送迎バスに乗り込む人。
レンタルモークを借りる人。
観光案内所で宿を探す人。
ビーチへ直行する人。
みんな、ここで散らばっていく。

何の予定も立てていなかったことに、ようやく気がついた。
「泊まるところ、探さなきゃ。」
急激に現実に引き戻されたわたしは呟いた。
「うちでよければ、シェアしますか？ひとりでは、持て余すほどだから。」
世の父親たちが聞いたら、卒倒してしまうような甘い誘惑。
けれど、熱病に冒されてしまっているわたしには、天からの声としか聞こえない。

「ご迷惑、じゃないですか？」
「大歓迎だよ。
特に気の利いたものはないけど、くつろぐことだけはできると思うよ。」
「ありがとうございます。」
また、敬語の関係に戻った訳ではないが、常識のように発せられた。
それは、とっさの予定調和という感じで、見事なまでに即決の調印だった。
「どういたしまして。」
そのやりとりの風を感じて、眼を見合わせて、互いに笑った。