ポジティブリストは絶対か!? 5月15日

「農薬には、そもそも残留基準がある。生産する側がそれを守れば、残留など問題ない。」これは、全国消費者団体連合会事務局長の発言だ。今月29日にスタートする残留農薬の規制強化を狙った「ポジティブリスト」がフィルターになれば、これからは安心して農薬が散布された食材を食べられるとも受け止められかねないこの発言は、やはり、消費者に誤解を与える発言だ。

これまでのような、基準が設けられた農薬だけを対象とするネガティブリストと比較すると、ポジティブリストは、確かに大いなる前進だ。ポジティブリスト制度では、ペットフードや飼料添加物も対象とし、残留農薬が一定の基準を超えるか、基準の定められていない農薬については0.01ppm以上検出された場合に、販売禁止措置がとられる。農作物から加工食品まで、すべての食品が対象となるため、仮に原料の茶葉に基準値以上の農薬が検出された場合には、コンビニに並ぶペットボトルのお茶であっても、販売禁止の措置がとられることになるのだ。現行のネガティブリストが283品目の農薬を対象としているのに対して、ポジティブリストでは、全世界で使用されている農薬を殆ど網羅する799品目が規制の対象となる。

指定外の農薬に適用される0.01ppmという濃度は、水深1m・幅12m・長さ25mのプールに、塩ひとつまみ(3g)を溶かした程度の濃度だ。僅かなようだが、これで害虫は死滅するのだ。農薬は、体内に蓄積して、人体に様々な悪影響を及ぼす。ポジティブリストの導入は、これまでのザルに近かった規制の相当の強化に違いないが、安心・安全の保障では決してない。

ポジティブリスト導入によって、農家が最も恐れているのは、「ドリフト被害」と呼ばれる飛散による被害だ。近隣の田畑で使用する農薬が、不幸にも飛び散ってくるケースだ。風向きの関係というよりも、その場合、農薬を散布した農家の杜撰な散布方法に問題があることは明らかだ。加害者である農家は、まさに「生産者は絶対に食べない」出荷専用の農作物を生産しているとみなすべきなのではないか。

ポジティブリストをして、「農薬に関しての食の安全は担保された」とする日本生活共同組合連合会理事の発言は、あまりにも短絡的だ。更に、「昔のような農薬=悪との判断は誤りで、生産者に必要以上の負担を与えかねない」とする消費者団体連絡会事務局長の弁は、それこそ消費者に誤解を与えかねない発言だ。たとえポジティブリスト制度をクリアしても、無農薬や有機栽培の農作物のほうが良いに決まっている。野菜本来の味を逃さない無農薬や有機栽培の野菜を食べつけると、農薬を使用している野菜は、正直まずくて食べられない。何より、農薬や添加物は、アトピーやアレルギーの主要なリスクファクターに他ならないのだ。

5月29日を前に、農家は戦々恐々としている。ポジティブリスト制度の導入は、農家の社会的責任を明確するには良いきかっけとなる。生産者には、生産者自身が安心して口に運べる農作物を、消費者に提供する責任がある。実際、無農薬や有機栽培の農業に取り組む農家は非常に前向きで、インターネットを通した産直販売にも積極的だ。農薬に頼らない農業は、コストもかかり農家の苦労も半端なものではない。しかし、健康な農作物でなければ、消費者に健康は与えられないのだ。法律は、国民の意識を超えたものにはなりえない。60兆の細胞をつくる「食」に対して、安心・安全を求める厳格な姿勢を貫くことは、日本の足腰を強くする原動力になることを忘れてはならないのだ。
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