ゆりちゃんに、家を建ててくれた元大工の伯母夫婦の話をしていて、思わず話を聴いてみる?と言ってしまう。
昨年祖母が亡くなってから、行き来が少なくなっていたから、頼むのに緊張したけれど、有難いことにお昼も作ってあげるから食べんとおいでと快諾してくれる。…伯母は料理上手なのでご飯ご飯と単純に楽しみになる。
金曜日に出かける。いつもは裏から伯父が寝ている部屋に入っているのだけど、今日は玄関から座敷に入れてもらって、改まった気持ちになる。
かりんの幹を輪切りにして磨きをかけた座卓や壺や一刀彫や昔からの形の黒檀の棚があったりして、私はわあ、すごい。きれい…とウットリとしているだけだけど、伯母ちゃんとゆりちゃんが格天井の話から始まって木についての話や、棚について話しはじめ、解説を受けているようで、あらま。とまず思う。
おうどんをご馳走になって、この時、こんなかわいい子がくるとは思わなかったと伯母が言ってゆりちゃんが照れる…それはそうやろうねえ、私も聞いたときこんな小柄な子が…案外作業着は似合いそうではあるけど!でも、どっちかいうと成人式の着物姿が楽しみなタイプじゃし!とびっくりしたもの…と思いながら食べる。
近所に建てた家のいくつかに連れて行ってもらう。こんなにたくさん建てたんだねえと感心しきりでしかない私をよそに二人はなんだかんだと家の造作についてのお話をしつづける。ほとんどわからないけれど、ときどき言われてみればと思う所もある。専門家と専門家志望の話を聞けるのはなんとも贅沢なと楽しくなってきていると、最初の頃に建てた家を見ながらここは空き家になっているとさびしそうに言うのに、私も空き家を見るのは悲しいけど、造った身からしたらなおさらだろう…と急に泣きそうになる。
帰ってから建てた家を伯母ちゃんが記録した写真を見せてもらう。オマエ、写真ばっかり撮ってからにととうさんは散々嫌がっていたけど置いといてよかったよ。だいぶ片付けてしまったんだけどね…と言いながら何枚もの役に立ちそうな写真をゆりちゃんに譲ってくれる。その惜しげなさに人生を削って分けてもらっているようで申し訳ない気になってくる。
その後、コーヒー飲みながら伯母の大工生活について聞く。結婚して一年くらいで旦那さんが大工を継ぐことになって、そこから伯母との二馬力大工生活を40年以上送ったこと。建てた家は100軒以上はあるんじゃないかねえ…遠くは隣の県まで建てたよ二階に何人か弟子を住まわせていたこともあったけど、高知の子がいたとき未成年なのに呑み助で、近所の酒屋さんが「お世話になってます」と言われて、おかしいなと思って調べたら、あの子、酒飲んでると露見して、注意したらそのまま出て行って、親御さんに連絡したりとか、いろいろあったねえ。もちろん、立派に一本立ちしてしよる子もおるけどね。…一級建築士の試験も二回受けてみたけど、構造が難しくって受からんかったねえ。…
おいちゃんがデイサービスから帰ってくるまで居ってやって。と言われたので、ちょっといたずら心がでて、
そういや、子供の頃、家を建ててもらったとき、柱と下の板を組んだだけの櫓の様な建てかけの家の二階に昇らせてもらったときの楽しかったんは忘れんねえ。あの時柱を背にして煙草をふかすおいちゃんの子供心にも格好よかったこと格好よかったこと。とひやかしぎみに言ってしまう。
そしたら、伯母ちゃんたら、今はよいよおじいさんになってしまっているけど、男前だったんぞねとかいいながら写真をゆりちゃんと私に見せてくる。
…ご、ごちそうさま。…ちぇ、惚れてらあ(笑)
とかなんとかしているうちに伯父がデイから戻ってくる。
もう何年も寝付いてしまっている伯父なのだけど、思いがけないお客に少しでも気が晴れたらいいなと思いながらゆりちゃんとあいさつをして、帰る。
家を建ててくれたことで、問答無用ですごい人だと思っていた伯母の大工としての生活が聞けて私はとても有意義だったのだけど
ゆりちゃん役に立ちそうかいな?