思考を促す社会科授業(11)

2012-08-11 | 思考を促す社会科授業
教育センター長研時代に、
尊敬するS指導主事先生から「本質を外すな」と何度も何度もご指導頂いた事。
それ、今回の文章にも生きているなぁと改めて思いました。
ただただ、感謝です。

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 本連載では「思考を促す社会科授業」として、これまで4回に渡
り、【読み取り】、【再構成】、【表現・説明】、【話し合い】と
いう言語活動について示してきました。
 しかし、中には、
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こんな当たり前のこと、自分は昔からやってきている!
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なにを改まって、こんな普通の事を書いているんだ?
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と思われた方も、(少なからず)いらっしゃると思います。
 確かに私自身も、「目新しい事はそう多く書いていない」と認識
しています。私が提示した実践例は、社会科を専門とする方にとっ
ては、まさに「当たり前」な指導事項だったかもしれません。あわ
せて「提案性」という意味では、少々語弊があったかもしれません。

 しかし、こういった本来「当たり前」であるべきことが、今現在
「当たり前」でなくなってしまっていることも、残念ながら事実で
す。若い教員が増え、「社会科の授業が分からない」という声も多
く聞かれます。また、ベテラン教師も日常の多忙感に追われ、自身
の授業を振り返る余裕がない現状です。
 だからこそ文部科学省は、「言語活動の充実」という新しき題目
を示して教師たちの興味を引き、そこで改めて「学習指導の本質」
に気づいてもらおうと思ったのではないでしょうか。

 ですから、今回の連載で示した事項は、全て「教育の原点」であ
る、と自負しております。そして、これらの活動を確実に、地道に
続けていくことが、子どもたちに力をつける一番の近道だとも確信
しております。
 教育に「不易と流行」があるとすれば、今回示した「言語活動」
は、「不易」に当たります。すなわち、我々の先人時代から脈々と
受け継がれてきた、「当たり前」の指導事項を「当たり前」に、確
実に指導していくことが我々の原点でもあるのです。

 ならば、「当たり前」な言語活動を、一単位時間、もしくは単元
全体をとおして、意図的計画的に位置付けていきましょう。そして
子どもたちの思考をぐんぐん促していきましょう。それが、子ども
たちの思考力・判断力・表現力等の育成に繋がっていくのだと思い
ます。
 「当たり前のことを当たり前に」
 簡単そうでいて実はとても難しいことです。だからこそ、それを
着実に実践できるよう、日々努力し続けたいものです。

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思考を促す社会科授業(10)

2012-07-14 | 思考を促す社会科授業
 社会科授業における、思考を促すための最後の言語活動。それは、
【話し合い】です。これまで、資料から様々な事象を【読み取り】、
それらの【再構成】を経て、【表現・説明】していくことを述べて
きました。その集大成として、これまでブラッシュアップしてきた
事象について皆で情報交流し合いながら、知識を深めていく活動が、
【話し合い】となります。

 例えば、6年生の歴史学習。戦国時代の単元における「まとめ」
の場面で、以下のような学習活動を行います。
==============================
自分たちが戦国時代に生まれて、全国統一を目指すとします。
「どんなこと」を大切にして、全国統一していきますか。
”全国統一に大切なことベスト3”をまとめましょう。
==============================
 子どもたちは、これまで読み取ってきた知識を総動員し、それら
をランク付けしながら、自身の考えを表現していきます。
 根拠を基に書かせるので、一人ひとりのランキング内容は多様で
す。自分が戦国大名ならというシミュレートも興味・関心を多いに
高めます。例えば、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
千葉さんの「全国統一に大切なことベスト3」

1)「鉄砲の使用」 → 戦いに勝つ事がまず大事
2)「仏教の弾圧」 → 民衆の反乱を抑える
3)「楽市・楽座」 → 経済を発展させる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
等、それぞれに個性的な考えが完成します。「ランキング」の中に
ある箇条書き要素が、児童の思考をうまくまとめることにもつなが
っていくでしょう。
 しかし、ここで単にランキングするだけでいいのでしょうか?そ
れはあまりにも、もったいないと思います。
 
 ではどうするか?
 それぞれの意見を【話し合い】を通して、交流させます。そして、
自分にない新しい考えに触れる活動を通して、多様な知識に気づか
せていくのです。

 「誰の考えが一番、全国統一に近いか」を話し合う事で、たくさ
んの幅広い意見に触れ、さらに戦国時代についての理解を広げる事
ができるでしょう。
 「学級で一番有力だった意見」を絞り込む活動は、児童の思考の
さらなる掘り下げを促すことになるでしょう。
 このように、【話し合い】を行う事で、自分たちの得た知識を、
「広げ、深める」ことができるのです。

 もちろん【話し合い】は、上記のような単元をとおした大きな学
習過程の中だけで行うものではありません。日常の授業の中で、隣
同士ペアを作り、意見を交換するだけでも【話し合い】は成立しま
す。地道な活動こそが大切であると考えます。
 ポイントは、【話し合い】へ移行する前に、【読み取り】【再構
成】【表現・説明】などの言語活動の素地があることです。そのよ
うな場面を意図的・計画的に設定する事で、子どもたちの思考をよ
り広げ、そして深め、新たな知識を獲得させることができるのです。

思考を促す社会科授業(9)

2012-05-29 | 思考を促す社会科授業
 社会科授業の学習過程に、【読み取り】【再構成】【表現・説明】
【話し合い】といった言語活動を位置付けることで、児童の思考は
促されていきます。
 前回は、読み取った情報を【再構成】し、社会的事象の意味を解
釈するところまで紹介しました。そして今回は【表現・説明】です。
社会的事象の意味を、自分の言葉でまとめていく活動となります。

 ところで、「上記四つの言語活動はそれぞれが連動している」と
いうことを、先の連載で述べました。情報の読み取らせっぱなし、
解釈させっぱなしではいけないということです。つまり、ここで大
切になるのが【表現・説明】なのです。
 読み取って再構成した知識を「自分の言葉でまとめる」ことで、
学習内容が咀嚼され、解釈も深まり、社会的事象が自分のものとな
ります。学習事項を振り返る事で、読み取った知識の定着も確実に
図られるのです。
 
 ではそんな【表現・説明】には、一体どんな活動があるのでしょ
うか?今回は四つの例を提示しながら説明します。

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1)「課題に正対する」まとめ

2)「新聞作り」によるまとめ

3)「地図作り」によるまとめ

4)「もし?ならば・・・」という仮定で考えるまとめ
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 一つは、「課題に対するまとめ」です。読み取った情報を再構成
させ、自分なりの考えを付与し、ノートにまとめます。授業の感想
を書く活動などは一番簡単で継続性のある方法です。授業で感じた
事を文章化するだけでも、知識の定着に十分つながるのです。慣れ
てくると、「学習した重要語句を使って30字以内でまとめる」と
いうように、負荷をかけていくとよいでしょう。

 一つは「新聞」です。調べた情報を新聞にまとめます。様々な事
象をそれぞれ記事にして、一枚のものに収斂させていくのです。写
真やグラフも当然入ります。調べた内容についての感想もまとめら
れます。レイアウトにこだわりながら、楽しく学習ですることで、
知識も再定着していくのではないでしょうか。

 一つは、「地図」です。調べた事象の内容を、地図にまとめてい
きます。学区の地図でも、スーパーマーケットの地図でも、公共施
設内の地図でも、様々な活動が考えられるでしょう。そしてそれら
の地図中には、様々な情報が書き込まれていきます。それらを整理
しながら、自分の感想や気づきをちりばめ、まとめていきます。

 最後は、「もし?ならば・・・」という仮定で、社会的事象に対
する自身の考えをまとめる活動です。
 例えば、5年生の自動車工業の学習を終えた段階で、このような
【表現・説明】の活動を行わせます。
==============================
10年後の自分に、車選びのアドバイスをする手紙を書きましょう
==============================
 子どもたちは、「環境に優しい車を!」「安全な車を!」「一台
作るまでに相当な手間がかかっているから大切に乗ってください」
など、実に沢山のことを書きます。しかも、未来への自分への手紙
です。楽しんで書くのではないでしょうか。
 しかし実は、楽しむだけではなく、既習事項を生かして「自分の
こととして」まとめているのです。こうやって、知識も重層的に定
着していくと考えます。

 このように、【表現・説明】する事で、
==============================
・自分なりの解釈を加えながらまとめる
・学習を振り返る事で、知識の定着をはかる
==============================
ということをねらっていきます。そしてこの活動で得た知識や成果
物(地図/新聞等)を活用し、周りの友達との交流【話し合い】を
図ります。そこから、さらに多様な考えに気づいていくのです。
(これについては、次回に述べます。)

 一単位時間及び単元全体の中で、【表現・説明】する活動を積極
的に取り入れ、知識の定着をより図っていきましょう。

思考を促す社会科授業(8)

2012-03-01 | 思考を促す社会科授業
 前回は、多種多様な資料から「読み取り」をどのように行うかに
ついて説明しました。今回は、読み取った情報をどう「再構成」し
ていくかについて考えます。
 ちなみに、学習指導要領において「再構成」は以下のように解説
されています。
==============================
読み取った情報を、比較・関連付け・総合し、再構成する
==============================
さて、【比較・関連付け・総合】とは一体どういう事なのでしょう
か?なんだか言葉が難しそうです。しかし敢えて一言で言うとすれ
ば、「見えなかったモノの『見える化』をはかること」だと考えま
す。

 5年生の社会科授業(工業分野)で説明します。日本の交通網に
はどのような特徴があるのか調べる学習です。まずは、
==============================
 ■高速道路の広がりをあらわした地図
 ■鉄道の広がりをあらわした地図
==============================
の2枚を読み取り、それぞれの情報を【比較】します。
 すると、どちらも同じようなルートで日本を縦断している事がわ
かります。比較する事で、共通点が見えてきました。
 今度はそのわかったことを別の事象と【関連付け】ます。例えば、
==============================
 ■日本の地形図
==============================
です。比較して明らかになった事を、地形図と関連付けて説明させ
るのです。
 すると、「平地を中心に日本の交通網は、広がっている」という
ことがわかります。ただ、これだけではまだ交通網の説明としては、
不十分です。そこで最後に、
==============================
 ■日本の人口分布図
==============================
を提示します。これら全ての資料を【総合】させて、日本の交通網
の広がりの特徴についてまとめさせます。


すなわち、
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
日本の交通網は、平地で、人口の多い都市を中心に広がっている
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
という中心概念に導かせるのです。その【比較・関連付け・総合】
のプロセスが、まさに「再構成」なのです。







 再構成には、方法論的な捉えもあります。一例がカードの活用で
す。試行錯誤しながら、カードの並び替えをする活動などが挙げら
れます。
 たとえば自動車組立工場では様々な作業過程があります。その作
業過程の写真と解説文がそれぞれ教科書に掲載されています。写真
と解説文をそれぞれカードにし、バラバラにして提示するのです。
==============================
作業過程の写真と説明文章を組み合わせて、作業順に並べましょう
==============================

 子どもたちは、写真や文章からたくさんの情報を読み取り、そし
て、それらの情報を、【比較・関連付け・総合】させながら、作業
過程順に組み合わせていくはずです。この学習過程も「再構成」と
言えるでしょう。
 
 自身も多いに反省するのですが、社会科は資料の読み取らせっぱ
なしの授業に陥りがちです。だからこそ、教師が意図的に「情報を
再構成する」という意識をもつことが大切です。読み取った情報を
加工することで、今まで見えなかったモノを見えるようにするのが、
「再構成」なのです。

思考を促す社会科授業(7)

2011-12-30 | 思考を促す社会科授業
社会科授業における問題解決的な学習過程に、
==============================
「読み取り」「再構成」「表現・説明」「話し合い」
==============================
という言語活動を位置づけて児童の思考を促す。
 
 以上の内容をこれまでの連載で述べてきました。それでは、四つ
の「言語活動」は、具体的にどのような形で行われるのでしょうか。
本稿からは、それぞれの授業モデルについて説明していきます。
 
 一回目は「読み取り:資料から多くの情報を取り出していく活動」
です。ちなみに、「読み取り」といっても、その対象は写真、グラ
フ、本文、実物資料、インタビュー等、多岐にわたります。しかし、
それぞれの資料から「社会的な事象」という「本質」を取り出して
いく点は、実は全ての読み取りに共通しているのです。

 では、その「本質」を取り出すためにはどうのようにすればよい
でしょうか。最も重要なポイントは、読み取りの「視点」を与え、
「情報の蓄積」をはかるという事です。

 例えば、読み取りにおける「10の観点」を示します。資料を目
の前にした子どもたちに、
==============================
時間/場所/季節/自然/大小/音/勝敗/色/交通/分布
==============================
などの視点を与えて考えの糸口を作り、思考を促すのです。これら
観点は、他の資料でも活用できる汎用性のあるもにします。

 また、グラフ資料であれば、以下の6観点を示します。
==============================
グラフの種類/縦軸/横軸/表題/単位/大きく変化している所
==============================
視点を与える事で、子どもたちはどこに目を付けて資料を読み取っ
ていけばよいか、意識が明確になります。
 
 それらと併せて、まとめ方(整理の仕方)も指導していきます。
とある出版社の教科書では、写真資料のガイド部分に
==============================
分かったこと、気づいたこと、疑問に思ったことをまとめましょう
==============================
という吹き出しがあります。視点を示した上で、以上の3つの分類
で読み取らせます。そして取り出した情報をノートに箇条書きでま
とめ、蓄積させていくのです。この一連の流れが、読み取りにおい
ては有効な方法であると考えます。
 
 授業の実際でイメージしてみましょう。
 
 5年の自動車工業の授業において、海に隣接する広大な自動車工
場の写真を提示します。一見するとあまりにも情報がありすぎて、
何を読み取ればいいかわかりません。そこで先に示した10の観点
を提示し、読み取りの糸口を与えます。輸送に使う高速道路や、巨
大な自動車運搬船の存在理由、効率的な工場配置などについて詳し
く読み取り、工場の立地条件について考えを一般化していきます。
 
 先に述べたとおり、読み取りは平面資料にとどまりません。たと
えば実物資料である「土器」も活用できます。大量の「土器のかけ
ら」を、子ども達一人一人に配り、細かくスケッチをさせます。形、
薄さ、模様、色、におい(!)など、子どもたちはいろいろな視点
で「読み取り」ます。そうして、古代の生活に思いを馳せながら、
断片的な情報を蓄積し、整理していくわけです。(かけら同士がピ
タリと合体するものなどを用意すると子どもたちは感激します!)
 
 このように、「読み取り」は、実物でも、インタビューでも、見
学でも全ての学習場面に置いて当てはまる言語活動です。そしてそ
の広範な「読み取り」の場面において、
==============================
「視点の提示」「情報の取り出し」「情報の蓄積」
==============================
という意識を授業者がしっかり持つことが重要となってきます。
 まずは、「資料を確実に読み取らせる」ことを、意識していきま
しょう。

 そうして蓄積された情報を活用し、さらに社会的事象の本質に迫
っていくのです。これを情報の「再構成」と言います。(再構成に
ついては、次回に述べます。)

思考を促す社会科授業(6)

2011-10-09 | 思考を促す社会科授業

━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━
┃┃ 思考を促す社会科授業(6)
   ー問題解決的な学習過程に言語活動を位置づけるー


            
━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━

 私が、思考を促す社会科授業「づくり」のために、いつも心掛け
ていることは、
==============================
問題解決的な学習過程に、言語活動をしっかり位置づける。
==============================
ということです。これは学習指導要領でも一番初めに明記されてい
る、きわめて大切な要素です。

 問題解決的な学習過程は、例えば、
==============================
課題把握→予想→追究→交流→まとめ
==============================
という流れで進んでいきます。その流れの中では、児童の問題意識
や、思考の流れを大切にして授業が進められていきます。
 課題解決の過程で、児童の基本的な知識や技能をより高次なもの
に変容させていくのです。

 児童の思考回路を大切にした学習過程に、言語活動を位置付ける
ことで、思考力や判断力、表現力等を高めていきます。私は、学習
指導要領をはじめ、様々な文献を通して、以下の4点を「社会科の
言語活動」と捉えました。
==============================
1)読み取り
2)再構成(比較・関連付け・総合)
3)表現・説明
4)話し合い
==============================
これらの活動を、学習過程の中に意図的計画的に位置付け、児童の
思考を促していきます。

 例えば3年生の、スーパーマーケットの学習。

 店内の写真を使って、たっぷり情報を「読み取り」ます。その際
に、読み取った情報と店内の配置図を、比較・関連付け・総合させ
ながら、『たくさん商品を売るためのお店の工夫』として「再構成」
します。
 そこで得た情報について、自分の考えをノートや社会科新聞等に
「表現・説明」しながら、「話し合い」を行い、知識を深めていき
ます。

 このように「言語活動」を、単元あるいは一単位時間の問題解決
的な学習過程に位置づけることで、児童の思考を促していくことが
できるのです。

 これまで、「発問」や「モノの提示」「ICT活用」等、様々な授
業技術について紹介してきましたが、それらは全て、この問題解決
的な学習過程に位置づけた言語活動によって光ってきます。

 基礎的・基本的な知識及び技能の習得・活用による思考力、判断
力、表現力等の育成が新学習指導要領の最大提案です。そのための
方策は、様々あると思いますが、やはり、授業の流し方の「基本」
を大切にしていく姿勢が一番重要だと考えます。

==============================
問題解決的な学習過程に、言語活動をしっかり位置づける
==============================
 以上述べたことは、社会科好きの方には当たり前の事だと思われる
かもしれません。しかし、当たり前のことが当たり前に行われていな
かった現実があるからこそ、このような「言語活動」という名前で、
新学習指導要領に明記・強調されてきたのではないでしょうか。
 その現実に対して真摯に向き合い、謙虚に授業改善を図っていく必
要性を、今痛感しています。

 社会科の学習指導要領をもう一度読み返してみることで、思考を促す
ための根っこが見えてきます。
 そこで見えてくるものこそが、「社会科指導の原点」なのではないか
と思っています。

思考を促す社会科授業(5)

2011-08-09 | 思考を促す社会科授業
━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━
┃┃ 思考を促す社会科授業(5)
   ~思考を促すための便利ツール~
━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━
 
 「思考を促す授業」を構成する上で、とても有用なツールを紹介
します。もちろん、黒板とチョークの使用は大前提なのですが、そ
れらと併用することで最大限の効果をあげる以下の3点です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1)実物投影機
2)マグネットスクリーン(黒板に貼れる簡易スクリーン)
3)プロジェクター
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 これらのツールを活用し、「大きく」映すということが、児童の
思考も「大きく」促していくことにつながるのです。

==============================
○地図帳の地名探しの際に、位置を即座に確認できる。
○各種グラフの読み取りで、特徴や変化などを全員で読み取れる。
○写真資料の読み取りで、各自が見つけた細かい情報を確認できる。
==============================

 大きく映すことにより、一人一人が読み取った事象を全員で確認
することができます。すなわち「情報の共有」がとても容易になる
のです。情報が共有できるということは、そこで生じた「はてな?」
も共有できるということです。このことで、学級全体の思考をダイ
ナミックに促す事が可能となります。

 具体的なテクニックを紹介しましょう。以下は歴史授業における
活用例とその反応です。

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・大仏の写真を実物投影機で黒板に映し、鼻や目を実物大で提示
 →「なぜ、どうやって、こんな大きな大仏を造ったのだろう?」
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・参勤交代のイラストを大きく提示し、細かい情報の読み取り
 →「様々な特徴を持つ人が沢山いる。役割は何だろう?」
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 黒板に貼り付けたスクリーンにパッと映すだけで、子どもたちの
思考が大きく促された事を実感できました。

 このツールは子どもの思考を促すだけではありません。大きく映
せるということは、授業構想も大きく広げるのです。結果、教材研
究における教師自身の思考をも促す事に繋がります。その思考の促
しが、授業、ひいては子どもたちの学力に反映されていき、大きな
相乗効果を生んでいきます。

 ICT活用の重要性が叫ばれている昨今、これらのツールは多くの学
校現場に導入されているはずです。児童の思考を促し、確かな学力
をつけるためにも、積極的な活用をお勧めします。
(パソコンと併用すれば、効果はさらに高まると思います。)


思考を促す社会科授業(4)

2011-08-05 | 思考を促す社会科授業
━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━
┃┃ 思考を促す社会科授業(4)
   ー「隠す」ことで思考を促すー

━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━

 社会科授業において、児童の思考を促すために私がよく行うのは
「教材加工」です。社会科の命は資料ですが、例えばその一部を「
隠して」提示するのです。

 5年「日本の国土」の授業場面で具体的に説明します。
 授業冒頭、プロジェクタで大きな世界地図を提示しました。しか
し実は、その世界地図にはあるものが抜けています。見た瞬間子ど
もたちが叫びました。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
先生、日本がないですよ!?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

実は、世界地図から日本をきれいに消していたのです。そこで、子
どもたちに日本の場所はどこかを「口頭」で説明させました。
 「中国の東」「太平洋の西側」「韓国の隣」など、子どもたちは
張り切って発表します。しかしその度に、言葉通りだけれども日本
の位置とは全く違う位置をわざと指差します。子どもたちからは、
「違う、そこじゃない!」とブーイングの嵐です。
 
指で示せば簡単なのに、言葉で位置を説明するのはとても難しい
事に子どもたちは気が付きました。そこで、もどかしがっている彼
らに発問です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
地図帳には国の位置を簡単に説明できる、ある線が2種類あります。
それは何か調べましょう。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 子どもたちは、夢中になって教科書や地図帳を調べます。そして、
緯線(緯度)と経線(経度)を使えば、日本の位置を正確に伝えら
れることに気がつきました。子どもたちはみな、緯線と経線の便利
さに感動していました。

 そしてその後、日本の領土について、緯線と経線を活用しながら
調べる学習につなげていくことができました。「隠す」ことで児童
の思考を促し、学習意欲を高めることができたのです。
 特にも現在の社会科教科書は写真やグラフ、イラストが豊富で、
ビジュアル面で引きつけられる内容になっています。例えば、その
資料の一部を付箋等で隠すだけで、子どもたちの「はてな?」が生
まれます。

 誰でもできる簡単な「教材加工」です。

思考を促す社会科授業(3)

2011-08-04 | 思考を促す社会科授業

━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━
┃┃ 思考を促す社会科授業(3)
   ー思考を促す発問の条件②ー

━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━

 「思考を促す発問」第二の条件は、「考えることはできるが、簡
単に答えは出ない」というような「揺さぶり」をかけることです。
「揺さぶり」には様々な方法がありますが、今回は以下の二点を紹
介します。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(1)二者択一で考えるもの
(2)自分たちの生活に立ち返って考えられるもの
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 深い社会的事象を追究する問いに、当てずっぽうで正解できる子
は多くありません。しかし、二者択一で提示すれば、どの子も予想
をする事ができます。このように解決の手がかりを提示し、その理
由を考える事で全員の思考を促すことができると考えます。

 具体的な授業場面(6年生歴史単元:室町時代『金閣と銀閣』)
で説明をします。金閣と銀閣の両方を扱った後、このように発問し
ました。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
みなさんは、金閣と銀閣どちらに住みたいですか?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 やんちゃ君を筆頭に、最初は金閣派が優勢です。ピカピカの金箔
に囲まれた贅沢な生活をイメージするようです。しかし、話し合い
を深めていくと、その優劣が拮抗してきます。金閣は落ち着かない
という意見も多く出てくるのです。
 そこですかさず、補助発問を出します。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「そこに(自分が)一生住む」と仮定して考えてごらんなさい
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 自分たちの生活に立ち返り、揺さぶります。すると話し合いの中
で子ども達は、「銀閣のほうが良い」と言うようになりました。銀
閣は障子、ふすまなど、現代日本の住宅様式の原点でもあります。
その価値に触れる事で、銀閣が作られた室町時代から現代に繋がる
文化の重要性について認識できました。結果、本時の大本命である
「書院造」「日本文化の良さ」に迫っていくことが可能となったの
です。

 「銀閣の建築様式は現代の私たちの生活様式につながっているの
ですよ」と、ただ解説するのは簡単です。しかしそれだけでは定着
がおぼつきません。揺さぶりにより児童の思考を促しながら「書院
造」についておさえていくことで、理解及び学力定着面で確かな効
果を得た場面となりました。

思考を促す社会科授業(2)

2011-08-03 | 思考を促す社会科授業
━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━
┃┃ 思考を促す社会科授業(2)
   ー思考を促す発問の条件ー

━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━

 「思考を促す発問」の第一条件。社会科授業においては、やはり
「実物資料の提示」です。私の社会科授業において「実物資料」は、
「火縄銃」「赤紙」「自動車のボデー」「投票箱」等(複製品含む)
多岐にわたります。そこでグッと高まった児童の興味・関心を、社
会的思考へ導くのが「発問」なのです。

 授業の一場面で説明します。

 6年「長篠合戦」の学習。子どもたちに火縄銃の複製品を提示し
ました。当時の火縄銃の構造に忠実に作られており、手にズシリと
重い、そんな火縄銃の質感に子どもたちは大興奮です。実際手に取
り、様々な部位を調べることで、重い火縄銃に弾を詰め発射させる
まで、相当な手間と時間がかかることを実感します。
 子どもたちはシミュレーションの結果、弾を詰めてから発射させ
るまで30秒かかることが分かりました。対する武田騎馬隊は最前
線まで20秒で突撃したと言われています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 織田軍の鉄砲(30秒)→ × ←(20秒)武田軍の騎馬隊
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

普通に考えると武田軍が勝利します。当然子どもたちも武田軍が勝
ったと予想します。そこで、以下のように発問します。

==============================
実は、この戦いは織田軍が勝利します。
なぜ、織田軍は勝利できたのでしょうか?
==============================

 長篠合戦図から、信長が勝った要因を探します。鉄砲の長所も短
所も分かっているので、鉄砲の長所を生かし、かつ短所を殺すポイ
ントを見つけなければなりません、

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ・(騎馬隊の突進を止める)木柵
 ・(騎馬隊の”足”を妨害する)堀
 ・小隊ごとに分散して配置された鉄砲隊 等々
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

子どもたちは様々なポイントを見つけ、発表することができました。
実際の火縄銃から戦国時代の戦いに興味を持ち、火縄銃の長所と短
所をとらえた上で、織田軍の戦法の工夫を読み取ることができたの
です。

 このように「実物資料」と「発問」を効果的に組み合わせること
で、児童は社会的事象を身近に感じ、夢中で追究します。結果、児
童の社会的思考を促すことにつながるのです。

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「発問」の前に、まずは「モノ」を提示する!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

このことを意識するだけでも、社会科授業は変わっていくのではな
いでしょうか。