湿度の高い夜に死んだ猫、そいつの鳴声が隣で聞こえる暮れ方
茜は誰かの血を含んだような官能を忍ばせてゆっくりと夜を呼び込もうとしている
小さな木屑の刺さった手首が結末の様に痛い
あなた、あなたとキャンディなガールがテレビで歌っている―それはラブソングの体裁を取っているが
ラブソングと呼べるような要素はどこにも無い
あなた、あなたと俺は彼女を真似て呟いてみたが、本気にも冗談にもならない代物だった
どこかに大穴が開いてる気がする、部屋のドアを潜ったとき、吹くはずの無い風が吹きぬけた
風はきっと奪うために吹き続けるものだ―俺はそのことを誰よりも良く知っている
風の中に答えなど無い、フォーク・ソングとしちゃ秀逸なセンテンスだと言わざるを得ないけど、まあ
ディランの悪口を言う資格なんて俺には無いんだけれどもね、だけど
みんな何かを見下しながら生きているものさ…それを証明出来るやつだけが眺めのいい場所へ行くことが出来るんだろう
俺は上とか下とかもうどうでも良くなって、ただただ何かまっとうなものを追いかけたくなったんだ
それは大変なことだよ、それは大変なことなんだ、誰かが何かを決めるようなことではないから、足跡が残るようなものではないから
言葉をかければ答えが返ってくるような、そんな、判りやすいもんじゃないからさ
疑問符を並べるのは止めた、疑問符を並べるのは止めたよ、何も無い、何も無い…この世には何も無いんだ
まぼろしの塗り絵に色をつけ続けるだけの試みさ、塗りつぶした後には手首は今よりも激しく痛むだろう
どんな風が吹いているんだい、こんな湿度の高い夜には、死んだ猫の鳴声が俺をどこかに連れて行きそうなそんな予感がする
あいつはどんな気分で骨に変わっていくんだろうか、すでに集まり始めた様々な虫がやり残した事柄の様に小波を起こす
あいつが骨になるのをずっと見つめていたいと願いながらそれでも俺は腰を上げようとしない
出来ることの中からやることを選ばなければならないのだ、それに、見つめてしまったら、俺はあいつをきっと忘れられなくなるだろう
おお、骨になる、骨になるお前の滑らかな曲線、真夏に固く凍りついたお前にはもはや内臓は感じられない
お前の代わりに俺はこの人生を歩こう、アスファルトの上で死んだ小さな命の代わりに、そんな人生の意味を
吊り天井の様な夜に蝿の様に弾かれる意義や、引き裂かれる様に消える炎をきっと
後生大事に再生し続けて、いつかお前の様に死ぬときに、俺の言葉そんな風に誰かを誘うことが出来たら…俺は自分を誇りながら火葬場の扉を潜るだろう
時々俺はすべてを無くしたようなそんな気分になるけれど、そんな気分のときほどいろいろなものがクリアに…クリアにこめかみをくすぐってくれるんだ
ごらんよ、俺は空っぽだ、頭の天辺から足の先まで見事なまでに、だけど、だけど
いつの間にか溢れ出すものにどうしてこんなにも突き動かされてしまうのだろう、それは気恥ずかしいけれど憑きもの落としの様に俺の真相を調律してくれる
今、今あんたもそれを見ているんだぜ、俺を昂ぶらせる気狂いじみた旋律の軌跡が今あんたが目にしているものさ、これは馬鹿げたものに見えるかい、取るに足らない、何の価値も無いものに見えるかい
だけどまっとうって本当は全部そんなものなんだぜ…人生の真理なんて人が一人ずつ持っているものだ
好きなように取ってくれ、好きなように振り回してくれ、俺はただ吐き出すだけさ、俺が吐き出したもの
気に入ったんなら持っていっておくれ、気に入らないのなら―ごみ箱に放り込むか無視してくれて構わない…言葉は
吐き出されるだけで完結するものさ
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