やつれた馬が夕陽の逆光の中、死に場所を探す幻覚、テトラポッドの上に鎮座した唇の歪んだ神は俺の安物の上着に唾を吐いた、あての無い上昇の様な冬の始まりの晴天、粒子である彼らが照らす世界はあまりにも死に絶えていた
轢死体のような自分の感情を抱え込むことを苦しみと思うことももう少なくなって、それを誇ればいいのか恥じればいいのかあとは決めるだけだった、例によって、それを聞かせる相手などどこにも居なかったのだけれど―まあでも、誰が居ようが居るまいが、聞かせるための決意なんかすべて嘘だぜ
海風に乗り損ねて一羽の鳥が大きく群れを外れる、そいつに向かって愛していると叫んだのは決して気まぐれなんかじゃない、気まぐれなんかじゃない、生体の編隊の中、たった一羽だけはぐれたあいつの気持ち―それがどんな理由であろうが俺はあいつを愛しているよ、知りあえなければ満足出来ないか、見返りを多分に求めることを純粋と名付けるやつら…どいつもこいつもかけがえのない君ばかり歌ってああ気持ちが悪いぜ
海風!俺は海風を浴びた、上着を脱いで、凍えながら…内側まで殴りつけてくれる誰かを欲しがっていた、あらゆるものを抱え込むことに慣れてしまうとまだ自分の身体が傷つくのかどうか知りたくなる、大いなる神よ無数の弾を打て、ブリキの身体が錆びついてしまう前に―うんざりするほど70'S、生身の感触しかこの身は求めたことがない―足元をすくい、俺をさらおうとする砂の構成、呼吸を奪え、呼吸を奪ってくれ…俺は死にたがっているわけじゃない、錆びた身体を輝かせてくれる一撃を待っているだけ、凍えるだけではどうしようもない
生きている、それだけで人間は狂うんだ
俺は波打ち際からずっと、死に場所を探しているやつれた馬のように大いなるたまりの中に足を踏み入れる、氷がまとわりつくかのような足…誰も俺を止める者はいない、そういうところだからここに来た、俺はそういう場所をうんざりするほど知っている、知らないぜ、知らないぜ、そんなものを記憶してる理由なんてこれっぽっちも…おお、俺は冬に感電している、はるかな刺激が中枢まで届く…恍惚をどこかに届けたがるみたいに仰ぎ見た空では、いつかの鳥が帰るべき群れを目指して再び羽ばたき始めていた、それでいい―向かうところがあるうちは懸命に羽ばたくんだよ―誰も認めてくれない理由こそが本当さ、飛び込めと暗示が聞こえた、倒れこむように水の中に潜ると、とたんに身体が重くなるのが判る…奪われるのは一瞬だ、奪われるのは一瞬なんだ、奪われることを怖れているうちにいつでもその瞬間を見落としてしまう―それはちょっとした恍惚なのに…それについてはもう話したのか?単語の重複だ、単語の重複だ、ただの、ただの…単語の重複ってだけのことさ―単語には何も語ることは出来ない、そこには便宜的な意味があるだけ、ただの肉体のようなもの、そこが血の熱さかそれとも死体の冷たさかはそれを用いるやつら次第さ…絶え間ない海の蠢きをその身に感じたことがあるか?いや違う、俺が語りたいのはそんなことじゃない
呼吸が奪われることへの不安は実はそんなに大したことではない、恐怖をどこかにやることが出来ればその瞬間は何度でも帰ってくる、でも、でも生きるか死ぬかって話じゃないのさ…分かるかな、生きるか死ぬかなんて話は誰もしてないんだ…海の、冬の、電圧はますます強くなる…激しい強さは、激しい優しさと同じになる、轟音が次第にひとつの静けさを生むように…俺の眼前をいくつかの魚が通り過ぎる、彼らには何も目的がないように見える…こんな季節にこんな水面に居ても、彼らは電流を感じることは無いのだ―なぜなら、初めからこいつらはその中で生きているのだから…俺の四肢はもう自由にはならない、だけどそれは動かそうとしなければ重要な問題ではないのだ、投げ出せば奪われることは無い…俺の命は丸腰、俺の命は運命の外側に居るのさ…そこにあるのが本当の運命だ、判るか、俺は感電しながらそれを当たり前のものと感じ始めた…俺は砂浜を探す、どこまで来た、どこまで来た…いつしかひとつの流れに乗ったらしい、少しも水を掻いてはいないのに砂浜からは随分と離れていた、恐怖は無かった、恐怖は無かった…日はいつしか暮れていた、どれぐらい長い間、俺はそうして遊ばれていたのだろう―時間の概念などあやふやなものだ、生まれて、死ぬ…そのAからBまでの間をただ時と呼んで何が悪い?11月の砂浜よ、俺は果てしなく麻痺している、果てしなく麻痺していて、果てしなく麻痺していながら11月のお前を目指している―向かうところがあるうちは懸命に羽ばたくんだ―聞き覚えのある誰かの声がふざけてるみたいに囁いた、俺はずっしりと重りを巻きつけた身体を動かして―乱れる呼吸をその耳に感じた時に自分の知りたかったことを知った、砂浜はあそこだ、きちがい、聞こえているか?お前の目指すところはあそこだ、判るか、聞こえているか…その時海が激しく…大いなるたまりが激しく盛り上がり、俺に「続け」と言った、俺は長いことそうしたタイミングの聴き方を忘れていたのだ…俺は矢のように砂浜を目指した、愉快になって笑える限り笑いながら、それでも不思議に身体は砂浜を座すのだった、少しも衰えることなく…俺は死に場所を探すやつれた馬とは大きくかけ離れた場所に居た、
それが砂浜だった
砂浜に立ちあがった俺は新しい感電を始め…力尽きて朝になるまで砂の上で眠った
目覚めると、誰かが俺を見下ろしていた、何の変哲もない年よりだった―「どうした、溺れたのか」俺は眠い目をこすりながらゆっくりと上体を起こした、言葉を思い出すまでにしばらくの時間がかかった「違うよ」
「違うよ、勝ったんだ。」
最近の「詩」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事