不定形な文字が空を這う路地裏

サム・ガールズ





鏡の向こうのリストランテ、流しの下の下水管、子供の服着たアダルトビデオ、虫の姿の新聞勧誘員
新しい雑誌のページで人差し指を切ったメアリーは血が止まるまでそれをちゅうちゅう吸いながらなんだか朝から背徳的な行為だわとエセ詩人的なセンチメントにどっぷり浸かり
ベーカリー・カフェの店先ではスレンダーな女と恰幅のいい年老いたご婦人との激しい罵りあい、ご婦人の強烈な右のビンタがフック気味にスレンダー女のテンプルを捉えたときには誰もがこの喧嘩の終焉を予想したが、スレンダー女は凄い角度のハイキックを完璧に決めてご婦人をK,Oした、店のやつらが救急車を手配していたが倒れ方が倒れ方だったのでもしかしたら深刻な事態かもしれない
交番の中では昼間っからぐでんぐでんに酔っぱらってストリップ・ショーを始めた10代の女が、地獄に12回は落ちることが出来るくらいの汚い言葉を吐き続けていた、2人の若い警官がにやにやしながら彼女を抑えつけていたので実質何も出来なかったが…おそらく同じ年のころの娘でも居るのだろう年配の警官は、何とも言えない表情で娘を諭そうとしていた
その先の週末だけの簡易的な市が立ち並ぶ通りで見かけたえらく長身の女とチビの男のカップル、主従関係は明白と思いきやどうもかしずいてるのは女のほうで、あの小さな男のいったいどこにそんな魅力があったのか?まあ、肝心のブツがご立派ならば…
無条件におおよそが幸福になれる週末だがあいにく空は曇り空だ、もうすぐ空気がじめついてくる、嫌な雨が降ろうとしている、安普請のアパートメントに住んでいるカップルたちだけがハード・レインを待ちわびている、雨の音にまぎれて昼間っからよろしくやることが出来るから
早くから開いてる酒場は午後を待たずに酔っ払いで満員、ドアを開けて転がり出てくるやつは決まって路地裏に駆けこんでメタル歌手みたいな声を出している、幸せな文明は酸っぱい臭いがするものさ
自然公園のベンチに腰をおろしてうとうととしていると隣のベンチで誰かが煙草に火をつける、げほん、げほん、もろに吸いこんでむせ込むと煙を吹かしながらサイケデリックな女が舌打ちをする、それがつまり彼らのイデオロギー、判ってるよ、こちらが譲るべきだ、君に成長は期待出来ないのだから
遊歩道を歩いていると人気のない通りで首つり死体を見つける、だけど誰にも教えたりなんかしない、そんなことするとささやかな一日はたちどころに無駄になってしまうから―たとえそれが特別維持するべきこともないくらいのものだったとしても
公園のそばの古本屋でペーパーバックを物色して夕暮れ時に部屋に帰る、指に絆創膏を巻いてメアリーがドコイッテタノヨと咎めるような目つきをする、ドウシヨウ、チガトマラナイノヨ
明日の朝まで待ってみればいい、と俺は答える、「止まらなきゃ死んでるし止まってたら生きてる」メアリーは癇癪を起し手当たり次第にものを投げつけてくる、ほとんど先週買い直したばかりなのに…シネ、シンジマエ、バカヤロウ、フザケヤガッテ…エセ詩人的なセンチメントはいったいどこへ消え去ったんだ?それより避難、非難から!今来た道を逆戻り、あばよ週末のメアリー、次に戻るのは君がベッドでいびきと屁をしてる時間
夜はディスコティックだろ、世代的にそういうものさ、幸いにしてこの街は前時代的空気を維持してるから、懐かしいビート、重くて、丸くて、グルーブしてる…バーボンが回るのに身を任せながらカウンターでリズムをとっているとひとりの女が俺の肩を叩く、昼間、公園で会ったサイケな女、「さっきはごめんなさいね、イライラしてたものだから」返事を待たずに隣に腰掛ける、酔っているのかキマッテいるのか、トロンとしてて危なっかしい、ヤニ臭かったけど悪くはなかった「楽しくないの?」と彼女は何度も聞いた、80年代のストーンズに耳を傾けながら、俺はわざと生返事をする、はっきりそうと答えるよりも多くを語るシチュエーション、それだけは若いころから得意技なんだ、「ならば楽しくやりましょう」
洗面所の個室で俺たちは向かい合った「ひとつ言っとくことがある」「なにかしら?」「俺、既婚者なんだよね」「それがなにか?」「だから…余計に楽しめる」「ハッハ」重くて、丸くて、グルーブしてる懐かしいビート、ミラーボールの天井でウィークエンドが光に目を回して…

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