今日を殺そう、ベッドの上で
首を絞めて殺そう
頭を押さえつけて、喉を掻き切って殺そう
馬乗りになって、もとの形がなくなるまで
殴って、殴って、殴って、殴って、殺そう
初めて詩を書き始めた十代のように
調子よく自惚れることなんかもう出来ない
現実も幻想もごった混ぜのまま
シーツで丸め込んで動きを封じて
殺そう、殺そう、殺そう、殺そう
今日のうちに息の根を止めておかなければ
余計なものが膨張して現実に支障が出る
殺しておけ
酷い打撲のあと傷口から滴り落ちる血のような雨の音が
窓の外で展開されている
膨れ上がって切ない息をする今日の上で
ひどく昂ぶりながらその音を聞いている
雨に濡れた日はいつまでも
身体のどこかが凍えたままでいる気がする
それはジャングル・ビートだ
けたたましいが血の温度は微塵も感じない
殴りまくったあとの腫れた指や
痛む関節のことなどは
殺意のあるあいだには気付かないものだ
すべてにカタがつき、呼吸が落ち着いて
人間みたいにものを考えることが出来るようになってようやく気がつく
言葉にすればそれはダメージというようなものだけど
疾患のような心臓のビートはそれ以上の何かを語っている
タチが悪い、始末に終えないぜ
純粋なやつほど殺意を抱くものだ
神のために殺人を犯す連中が居る
君のやってることはやつらとどれくらい違う?
繁華街を歩くとき
そこらへんの連中を効果的に殺すコツを考えてみる
爆弾じゃ味気ない
刃物じゃリスクがでかすぎる
銃にはリアリティがない
死は身をもって感じるセンテンスでなければならない
身をもって感じなければ
夕方のニュースの映像とたいして違いやしない
君はそんなものを嫌悪するだろうし、だから俺は面白がって
次から次へと皿に乗せて差し出すのさ
たくさんあれば解決のヒントになるだろう、それは間違いない
路線図を見て行き止らないように乗り続ける遊びみたいなものさ
いま、総括的な今日は死体となって、俺の下敷きになっている
こいつは腐敗するだろうか、と俺は考える
だったらなるべく早いうちに始末しなければならないのだが
だけどこいつの肉体は便宜的なものだし
俺の知っているやり方が適当かどうかなんて皆目見当もつかない
こういったやつらは総じて殺され慣れているんじゃないかってそんな奇妙な確信もあるし
今日がこと切れてしまったのでベッドの上は深い森のように静かだ
死の騒がしさが石のように転がっているだけであとはなにも無い
今日の死体を蹴り落して
俺はベッドに横になる
今日の死体は落下の衝撃で血の霧となって出口を探している
夜の出口は月の出るころに
ひときわ青い星が輝くころに
だから
こんな夜にはきっと
今日の死体は成仏出来ず燻り続けるだろう
いつだったろうか、今日を徹底的に殺すことを詩にしようと思ったのは
それはきっと拳やナイフの先から落ちる血液の音が
指先に感じる骨の折れる音が
窓の外の雨音とシンクロしたせいだ
洗面に行ってきれいに手を洗おう
身体を軋ませながら起き上がり
水をほとばしらせながら洗い流す
乾いてカサついた血液はなかなか落ちない
力任せに落ちるまで洗おうとすると荒れた皮が剥がれる
水流が血液を剥ぎ落すと
生命の違和感がそのあとにまといつく
それは水では洗い落とせない
決して水では洗い落とせない代物だ
それはきっと何かを促しているのだが
肉体の疲れと睡魔を同時に抱えてしまった俺には対応する術が無い
だからタオルで拭き取ってみた
思っていたよりもずっと簡単にそうすることが出来た
要は状況に応じて変化をつけられるかどうかだ
それが済んでしまうと本当にやるべきことはなにも無い、すべて終わった
もう一度ベッドに横になって
底なし沼に沈むように静寂に沈んでいく
今日の死と俺の眠り
見る夢はとめどなく、そしてとりとめがない
またいつかそう遠くない夜に
俺は血塗れの両手に気付くだろう
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