不定形な文字が空を這う路地裏

ようこそ、捨てられたピッツァ





存在しているようで存在していない架空の街で
俺はヤゴに似たタクシーを捕まえた
ヤゴって分かるだろう、とんぼになるやつさ
それにそっくりなタクシーがいたんだ、そのいかがわしい臭いの街には
始めはヤゴだと思ったんだが、よくよく見ると羽根のところに
「近距離歓迎」
と、貼ってあったので分かったわけさ


羽根をノックするとゆっくりと上に開いた、すげえ、カウンタックみたいだ
運転席には粘土で慌てて作ったような運転手がいて
かなり上級のヒアリング・テストを仕掛けるかのように
「ろぉうぅちらまぅれれしゅか?」

まったく抑揚の無い声で聞いてきた(きれいなバリトンだったけど)
乗り込んだものの、俺は何にも把握していなかったので
「中心部へ」

リクエストしてみた
そしたら
降ろされた(しれはぁこぅのかるまじゃむりれすらぅ)
「どの車ならそこまで行ってくれるのかな?」
彼(たぶん彼)は黙って俺の足元をカーモップのような指先で差すと行ってしまい
仕方がないので俺は足元を見た、するとどうだ、俺の靴底には新品のタイヤがついていた


おい、こりゃあどうしたことだ、俺はまだ明かりをつけていない街燈の首を掴んで揺さぶった(レトロな傘のついた黒いやつ)
「いてて」
とそいつは言う
「どうすればいいんだ?」
街燈は2、3度首をかしげ
「そりゃあ、中心部に行くしかないんじゃないの」
と、半分怒りながらそれでも教えてくれた
「あ、そう…」
街燈に礼を言う前に俺の足は走り出してしまう、実におかしな感触だ…
車輪の半分は俺のくるぶしの内部を確実に通過している!


速い!
速い!
しかも速い!

俺はうろたえ、何も考えることが出来なかった、ただひとつ―これは中心部へ向かって進んでいるのだなという認識を除いては


中心部はゴミ捨て場だった、あらゆる生活の詰まるところが収集されていた、ひとつの馬鹿でかい旧式の冷蔵庫がドアをばたんばたん言わせながら俺にアピールしていた(試合をしないときのストーン・コールドのようにさ)
ドアの音が気になったので俺は近寄り、たぶん閉まらないのだろうと思いながら力を込めてみた
意に反して、それはパタンと閉まり―ところがどこからともなくのファンファーレとともに暴発のように開いた


頭上に影を作るほどたくさんの蝙蝠が居なくなったあとに残ったのは
俺を3/1に縮めたかのような汚れた操り人形
動くように作られた口を骨のように鳴らしながら、そいつは、こう言ったのさ

「ようこそ!捨てられたピッツァ!」

俺はそいつを殴り飛ばした
瞬時に湧き上がったわけの分からない激しい憎しみだった




俺の首が




落ちた





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