不定形な文字が空を這う路地裏

羽根越し、夜気に散乱した彼方







網戸に張りついた蛾が俺の振幅を観察している、俺は奴の羽越しに
待ち呆けた女のような古い街灯の明かりを見ている
誰も起きていないようなそんな時間に、ようやく冷やりとした空気が流れて
それなりの静寂だが扇風機を止めることは出来ない
砂を殴るように掲示板にささやかな言葉を連ねた、それがどんな理由を掲げるのか
今の俺には、まだ
皆目見当もつかない
日付が要らないみたいなスケジュールが、来週の今頃分まで頭を駆け巡る、時を重ねれば凌げると信じていたいくつかの事柄は単に
麻痺までのプロセスをいくつかすっ飛ばすことを覚えただけの有様で
所詮は未整理のまま放置されたレターボックスのようなものだ、封を切って、文字を追ってみても
心躍るような出来事は多分見当たりはしないだろう
つまりはしくじったと悟ることが上手くなった
穴埋めの選択肢が
許されない鼠のように増えてゆく丑三つ時
落ち着くにはいい温度だけど眠るには多分少し暑すぎて、しまい込んだ記憶の戒めが解ける
また見てしまうことの忌々しさをどんな風に語ればいい?もがくのは呼吸を続けたいからさ
汚れた爪を気にしたら蛾は飛んでいった、やつが飛んでいくのはいつだって夜の彼方
休日に浮かれた誰かが救急車の世話になっている
二車線の道路で人死にが出るような事故、それは
確か昨日の今頃のことだった
たとえ笑われてもそんなことが怖くて仕方がない、自分の未成仏霊を突きつけられた気がして手を合わせるが
祈りの文句をひとつとして捻り出すことが出来ない、だって俺は信仰など信じては居ないから
封筒に手渡されたイデオロギーをオープン価格で、この街の基準は
裏でも表でも同じようなものさ
簡単な旋律でこそ人は良く踊るものだ、踊れないと言ったら
こんな時間にキーボードを弄ぶ男になった
ただ夏が来た、それだけで10人が生命を落とした
割の合わないくじ引き、商品は即渡し?あるいは分割?
俺が手にしているこれはいったい何等だい
気持ちの悪いほど夜の虫たちがたびたび沈黙する、虫の居所が悪いチェロ奏者のように
そいつらは難しい顔をして草むらのそこかしこで羽根を揺さぶっている
蛙は少しずつ音を合わせていった
俺は考える、今あの草むらに降りて耳を澄ませば彼らの沈黙の理由を悟ることが出来るだろうかと
だけど、多分
知ってしまえばそれはきっと白けてしまうような些細な理由なのだ

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