不定形な文字が空を這う路地裏

STANDING AROUND CRYING








爪先が遊び始めたスニーカー履いて、瓦礫交じりの町並みを駆け抜けて行くお前
器量良しだけど荒れた肌の上、悪あがきみたいなファンデーションの仮面
どこでも生きていけることがお前の自慢だった
本当は、そんなこと到底自慢になんかなりはしないのに
今夜の鼻歌のチョイスはキャロル・キング、タペストリーは少し汚れすぎている
排気ガスの臭いと、知らない男の落し物で目覚める朝の繰り返しに
いったい何を見つけようとしていた?
壊れた街灯の下を走り去っていく背中を見るたびに、失くした宝物のことを思い出した
お前ってやつはまさにそんな存在だったのさ
汚れるたびにひときわ美しさってやつを語ってくれた、取り戻せないものなんか
本当はそう、何も無いんだって
不思議とそんな気持ちになったものさ
長距離の客を乗せてゆくタクシー、テールライトがこの街の理性の様に厳かに点って
そしてそう、愛想尽かした鳥の様にどこかに消えて行った
ガラスの割れてない窓からマディ・ウォーターズ・ブルース、大音量で真夜中に石つぶてを投げている
そんな気持ちは判らないではなかった、そいつの隣人には死んだってなりたくは無いけれど
ブルースは貪欲なやつらに好かれるものさ
朝食に洒落たフルーツ・パフェを食べるのが夢だって言ったな
いくらドアを叩いても開けやしないくせに
語ることだけは一人前にやりやがる
お前が夢から出てこなかったのか、夢がお前を放さなかったのか
わけも無く諦めないで居られるやつが本当は一番哀しい、わけも無く明日を待ってしまうやつのほうが
楽しくなりたければFENでも流してさ
マドンナの恩恵に与っていればいい…ストーンズだったらどちらも分けてくれるかもしれないけど
午前様にゃあそんなことどうでもいい話だ
名前の剥げ落ちたビルの4階、お前の部屋の窓の下、汚れた下着がいくつか捨てられている
洗濯なんてしたこと無い、どうしてお前は
そんなことばかり自慢げに話したんだろう?
遠雷の様に銃声が聞こえる、身をこごめることもいつの間にか忘れた…弾丸の数だけ当たる訳じゃないんだ
ナイフを突きつけてくるやつも最近じゃ見なくなった、去年の厳しい冬に
もう少ししのげるところに行っちまったから
離れられない街、瓦礫が音を立てるたびに
お前がそこから出てくるような気がする
排気ガスの臭いと、知らない男の落し物で目覚める様な朝に
いったい何を見つけようとしていたんだい?
あんな哀しい夜に、あんな哀しい夜にぼろぼろの紐で絞殺された荒れた肌のマリア
犯人はあいつだって皆が噂してたけど
結局いくつかの死体の後にそいつはうやむやになっちまった
お前の死体はたったひとつだけだっていうのにな
十字架の崩れた、教会の壁の色を喰った様な月
恋をしようよ、と
気狂いじみた窓からはそう聞こえていた
煙草は切らしていた
酔いは冷めていた
キャロル・キングは
どうしても二番を思い出せなかった
テールライト
俺も
お前の向こうに

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