牙を剥いた真夜中が俺の脳髄に噛みついて、裂傷のような夢ばかりが繰り返される、血を吐き、枕にしがみつき、気がふれる一歩手前、予感と結果が刺し合い、あらゆる思考が血まみれ、血まみれ、血まみれの寝床だ、現実が失禁し、夜明けが幽閉され、永遠にも思える深夜、深夜―そう、深い夜だ、のた打ち回る概念、瀕死は慎重に、手遅れの寸前で身を翻し、生きたままの死のレベル、垂れ流される赤い血のレベル、それを振り払う叫びのような風を心は求めていたが…慟哭の深遠はいつだって遠いのだ、果てしない距離があり…その距離の中を果たせなかった言語の死体が埋め尽くしている、彼らはもう腐ることさえ諦めている、生身から遠ければ遠い分だけ、死んだままになるんだ、死んだままになるんだよ、目をむいて、涎を垂らして…まるで死んでからいままでずっと、死に続けてでもいるように―シンプルな構成のロックンロールが頭をよぎる、とても有名な曲だけれど題名が思い出せない、寝床は血液に漬かり、純度の高いドラッグみたいな甘い匂い、ビートの向こうへ連れて行っておくれ、神など要らない、すべてを吹き飛ばしてくれる叫びのような風があれば…夢の中で眼を見開くと第三世界だ、そこには異形なものだけが蠢いている、それを作ったのはお前だと誰かが言う、それはすべてお前の中で構築されたものだよと、俺は叫んで見せるが、望まれる叫びには足りない、まるで足りない、叫びは足元の暗闇の中で死んでいく、人間のままじゃ駄目なんだ、人間のままでは思うようには叫べない、岩だらけの固い地面を殴り、いらつき、そしてまた血が流れる、傷ついた拳から、スタッカートの音符に従うように、規則的なリズムで…詩のあり方は血のあり方だよ、死のあり方がそうであるのと同じようにね、暗闇の中で誰かが囁く、さっきから俺に囁き続けている、俺は耳を澄まし、そいつの位置を確かめようとするが、一向につかむことが出来ない、無駄だよ、とそいつは言う、私には位置がないんだ、君が個であるのと同じように、私には位置がないのだよ、あんたは誰だ、と俺は尋ねる、神なのか、と―こんな忌々しい言い方はしたくないが、あんたは神なのかと―違うよ、とそいつは鼻で笑う、さっき呟いただろう、詩であり、血であり、死だよ、とそいつは言う、私はそういう―いわば要因のようなものだと、要因、と俺は繰り返す、そうだよ、要因だ、とやつは言う、要因であり、詩であり、血であり、死だと、俺は血まみれの寝床で目を開くそれが目覚めなのかどうかしばらくは判断することが出来ない、少なくともすべてにカタがついていて、そしてなにひとつ明らかになってはいない、死に続ければそれは生だ、連続するのであればそれは生の証明だ―そう考えてみたが納得のいくような動機にはならなかった、人間のままでは駄目なのだ、人間のままでは…俺は唇を噛んで少しだけ血を流す、それを枕に垂らし呪いにする、効くかどうかなんて問題じゃない、なにかしらの軌跡が必要なのだ、それが詩というものだ、詩であり、血であり、死だ、それらはすべて連続している、そうだろう?変わり続けながら、円を描き続ける、それは必ずそういう形に収まるように出来ている、人間のままでは無理なのだ、人間のままでは…判るだろう、俺は人間であり、人間でないもののように生きることは出来ない、人間の定義とはなんだ、詩であり、血であり―死だ、街の中で目を閉じれば、そこに無数の死が存在し続けているのが判るはずだ、それが歴史というものだからだ、俺は死の上を歩き、今日の生を上塗りする、上塗りされた生は一瞬脈打ち、死の記録になる、動かなくなったものたちの鼓動、空に浮かんでいる、地に沈んでいる、記憶の中で色を失くしている、詩が群がり、血が群がり、死が群がる、そんな集合をフレーズと呼んできた、今すぐには無理でも、それがいつかきっと俺の身体から完全に分離して、そしてすべてを吹き飛ばす叫びのような風になればいい、街を歩きながら、死を踏みながら、フレーズが集合する、俺はいつだって血まみれで、そのぬくもりは時々天国を想像させる、流れ、変化し、円になり、止まることを知らない、動き続ける、繰り返される、軌跡、ほんの僅かでいいからそうした脈動を知ることだ、無自覚な血は流れて吸い込まれることしか出来ない、行き続けることが出来ない、吸い取られたら終わりだ、目を開け、混沌の中にしか真理はないのだ、また眠りが始まるとき俺は知るだろう、新しい詩や、血や、死のあり方を、そして翌朝目覚めたときにはそれらはすべて死んだものになって、それらが埋葬された痕にはまた新しい成立ちを欲しているだろう…。
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