不定形な文字が空を這う路地裏

そして最後に置かれた死のかたちは揺れるようにもがき続けるだろう








狂騒が染み込んだ脳髄の記憶の配列は
鬱蒼とした森の中で覗く太陽に似て
俺は猛毒を含んだように忙しない
新しい何事かをこうして記そうとする度に
滑落した昨日が執拗に裁断されて塵になっていく
精神の構造の窓辺にはあまり明るいニュースが届くことはなく
背中に張り付いた憂鬱のせいで窓枠にもたれたまま
化石になる幻想に弄ばれながら時の淀みの中に居る
指先がかじかんでいるから死の在り方がよく見える
冬の生命は夜に死ぬんだとそれらは静かに教えてくれる
夏の生命が午前中に死ぬのと同じようなものだよと
いつか遠い昔種を破って顔を出した歪な詩情は
もっとも上手く途切れるときを歌うために歳を重ねてきた
時々は蜥蜴のように物陰に滑り込みながら
楽園に行くためにはそこに届くだけの死体を積み上げなければならない
一番強く感じた意志はもっともらしい言葉にしてみたらきっとそんなこと
今夜は風が強いから精神の窓辺には沢山のごみが堆積する
そこには特別言葉に出来るようなものは何もないが
時々そんなものを為す術なく眺めていなければ
魂はあっという間に黒ずんだ塊になって石ころの隣に並ぶだろう
ただ失われたものたちのために鎮魂歌が流れることはなく
といってそんなものたちがそよ風のように消えていくことはなく
そうして精神の構造の窓辺は堆積したものたちで見えなくなってしまう
窓にもたれずっともたれてそいつらが積もっていく音をずっと聞いていた
それは内臓のような湿気のある鈍い音だったんだ
精神の構造の窓辺には朝も昼も夜もないのでただそんな音だけが経過となる
ただそんな音を聞き続けていることだけが
その音は耳の中でひどく木魂してまるでひとつひとつが永遠に続くみたいに
もしもそこに時というものが存在するのならばそれは間違いなく落下と堆積の
落下と堆積の中に埋もれていくのみであって
調弦の狂ったバイオリンの低音部分がだらりと鳴り続けているような
揺らぎの中でいろいろな種類の確信を塗り潰していく
それはまるで言葉を激しく書き連ねていけばいくほど孤独が色濃くなるように
降り積もるものは墓標としての役割を持つのだ
それはたったひとつの死のためではなくまるで連続しているかのような象徴としての
象徴としての死のために創造される果てしない墓標だ
創造されるものたちはそんな死を描くためにあるんだと思ったことはないか
例えば描かれた光は必ず未来のものではなくその瞬間の記憶の死体を記したものだ
書き連ねれば書き連ねるほど孤独が色濃くなる理由というのはきっとそういうことなのさ
それでも書くというのならばその中で生きていくという覚悟をすることさ
精神の構造の窓辺にもたれて降り積もるものに黙って耳を澄ましているべきなのさ
それは希望でも絶望でもないただ見つめ続けなければならない宿命のようなものだ
あらゆるものを巻き込んで肥大していく死の形を書き連ねるために
それにもっとも近いところまで目を凝らして進まなければならない
誰かが手を着けたところにはもう何も残っていないことがほとんどだ
散々狩られ尽くした絶滅種の渇いた断末魔がからからと転がっているだけさ
そんな滅びた連中の立てる渇いた音はまるで術のない挙句の哂いのように聞こえるのさ
すごくゆっくりだけれどすべてのことを見つめようとしてはならない
自分の欲しい流れに沿ったものだけを拾い上げて自分のための流れを作らなければならない
すべてを拾ってしまえばどんなに積み上げても曖昧なものでしかなくなるのだ
流れ続けているものはずっと形を変え続けるから一瞬でも形状に気を取られてはならない
精神の構造の窓辺に堆積するがわのものになりたくないのであれば
静かにしてずっと着いていかなくては瞬く間に置き去られてしまう
精神の構造の窓辺に積もり続けたものは連続する流れの中で生まれてくるものだから
それはひとつの宿命が完全に終わったところですっと消えてなくなる
だから一度すべてが埋もれてなにも見えなくなったとしてもお終いだと思わずに待っていなければならない
雪が積もり過ぎれば雪崩が起きるのと同じようなことが起こるわけさ
俺は精神の構造の窓辺にもたれたままそんな循環を何度も経験してきたんだ
いま思っていることにもいま願っていることにもいま抱えていることにもそんな大した意味などないんだと書き連ねられた死体は語るだろう
それはしいて言うなら流動的な墓石であり墓地なのだ
そしてそこに刻まれている名前は必ずたったひとつで
それは人生で一番目にしてきた連なりであるはずだよ
書き連ねて出来る限り書き連ねてそれがいつかひとつの形を成したかのように思えるとき
そのときもしかしたら常世の音がひとつだけ響くのかもしれない

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