昨日目覚めたときのどうしようもない霞みをロックンロールのグルーブで撹拌して、どうやらおれはこのたびも中途半端に生存者の岸に立っていられるようだ、サカリのついた野良猫のどうしようもないきんたまが二度鳴って午前二時だと気付き、一度眠ったほんの一時間くらいなら眠ることが出来たとなにか偉業でも成し遂げたよに誇らしげに一度つぶやき冷凍庫から氷を掬い上げてカップに落とし茶を一杯、また一杯、どうせ今夜はもう明け方まで眠れやしない、それはおれにしてみればあきらめなどではなくそういうサイクルを理解したというだけのことに他ならない、ただ眠れなくなったということがどうしてそんなにたいそうな問題なのか?おれは別に困ったりしちゃいないぜ、きちんと眠ったってこんな季節じゃ日中は脳を揺さぶられるみたいな目眩につきまとわれるのさ、きちんと眠ることが出来たってな、たいして気持ちのいい一日なんか送れるわけじゃないのさ、だから、眠れないことについてはそれはそれでかまわないんだ、かまいやしない、暇つぶしに詩のひとつでも書けば、時には気に入ってくれるもの好きにだって出会える、まとわりつくシャツを脱いで肌身を晒す、まだそこそこ厳しさを残してはいるが、少し怠けりゃすぐに弛んじまう、生きてるだけで鋼のような時を過ごしていられた、そんな時代はもうはるか昔だ、無意識でいられるうちはどんなことにも気付けやしない、現に俺はそのころより頑丈な肩と腕をしてるぜ、ある程度まではそうして築き上げることが出来るんだ、だらしなく弛み始めるトシになってもさ、あの、そう、あのバンドの、魚のような身体をしたフロントマンを例に上げるまでもなくな…なんだか今夜は無数の霊が蠢いているのを感じるぜ、そいつらはどうしようもなく寂しいポエジーを連れてくるから、おれは山羊の頭のスープをそいつらに向けてぶちまける、バシャー、ああ、煮えたぎった熱さにやつらのたうち回っていやがる、ダンシン・ダンシン…あれはそういうことだったのかい、おれはやつらがピクリとも動かなくなるまで坐って見ている、どうせ夜明けまでにはとてつもない時間がある、時間潰しは酔狂な方が間が持つのだ、彼らは悲鳴を上げない、ただ苦しげな顔でのたうち回っている、きっと声を出しかたを忘れちまったのさ、ぶちまけられたスープに彼らの体液が混ざりはじめる、それは異様な臭いと蒸気を部屋に充満させる、肉体もないくせに体液なんてな…!おれの視界は観念的にショッキングなグリーンで覆われる、風に煽られる潰れたカフェのテントみたいに亡霊たちの身体が床を叩く、カミン・ダウン・アゲイン、俺は歌いだす、クソみたいなグリーンを見ながら、のたうち回る亡霊を見ながら…ここ数日の不規則に侵食された細胞があちこちで痙攣する、まぶたが、頬が、二の腕の一部が、ハイ・スピードで開く花のムービーと同じ速度で何かを訴えている、シラネエヨ、オレニドウコウスルコトナンテデキネエンダ、とおれはそいつらに怒鳴る、亡霊たちがピクリとしてのたうつのを止める、彼らは爛れた身体でひどい苦労をして起き上がりおれのほうに歩いてくる、おれの顔を覗きこみ…かれらの眼下の奥にある小さい目は、それでもなにがしかの思いを語ろうとしている、でもおれはシラネエヨと言う、だって実際問題、すでに死んぢまってるやつらにどんなことを言ってやればいい?すでに死んだ者の為に気の利いた言葉なんか喋る気にはならないよ、シラネエヨとおれは言う、やつらの小さな目がもどかしさから来る怒りを語り…なにかを伝えようとするなら死ぬことなんか選んじゃいけないんだ、とおれは思う、だけどそれを口にすることはない、死んだ奴のために言葉はあってはいけないからだ、少なくともおれはそう思っている…亡霊たちは消えた、胞子が飛ぶように消えた、もうきっと咲くことはないだろう種なのに、どうして?おれは鼻を鳴らす、キニイラネエ、アアイウヤリカタハ…おれはもう一度氷をカップに落とし、茶を飲み、氷を齧る、見たくもないものも見たいと思いながらずっと書いてきたけれど、本当は見たくもないもののほうがこの世にはずっと多いのだ、それはおれを時々ひどく憂鬱な気分にさせる、だがその反面、だからこそ書こうという気にもさせるのさ、おれは真っ当な言葉を書きたい、それが綺麗か汚いかなんて考え込む前に、真っ当な言葉が消えてしまう前に全部を捕まえて残していきたいんだ、ハイ・スピードで開く花のムービーみたいな速度でさ、だけど、ねえ、おれの言いたいこと分かるだろう、あのムービーを作るには途方もない時間がかかるんだ、途方もない時間をかけたからこそあのスピードあるのさ、それは言葉を綴るスピードのことじゃない、そこに至るまでにどんなことがあったのかってことだ、つまりは、人生ってことさ、その中でどんな思考が頭の中を引っ掻き回してきたのかってことなんだ…頭の中を思考に引っ掻き回されたことがないやつには詩なんて書けやしない、したり顔で詩なんか書けるもんじゃないんだ、だからこそ詩はこの世で一番簡単なツールなんだ、そうは思わないかね…亡霊たちは死んだ、とおれは書く、おれは実際にそれを見たからなんだ、爛れて死んでいく亡霊たち、胞子のように消えてゆく亡霊たち、だけどそれはそうしたかたちをもって展開されたことではない、そういうかたちになるまでに今夜までの時間が必要だったってこそさ、だからこそ亡霊なんだ、だからこそ亡霊という存在でなければならなかったんだ、おれの言いたいこと分かるだろう、亡霊とはリアルタイムで描かれる過去の動きだ、ロックンロールのグルーブで撹拌される霞みだ、おれは小便して明りを消す、この詩を書いたことで少し眠るような素振りをしてみてもいいという気分になって来た、寝床に横になり、時計を見る、詩を掻き始めてからだいたい四十五分が過ぎている、その時間のあいだおれは真っ当だった、だからおれはほんの少し誇らしく横になったのだ。
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