あてどない声を聴いていたんだろう、お前は
ひとつ手前の駅で降りるのが好きだったから
死んだ犬や
くたびれた猫の
視線を取り込みながら
どんな風にそこを彷徨えばいいか
いつでも考えていたんだ
さようならを言うのが下手だから
いつでもほんの少し遠くしてしまう
そしてその距離の分だけ
辛い思いをするのはいつも自分だ
傷だとか後悔だとか
くだらないことを気に病むのはやめなよ
誰も傷つけないで生きることなんか出来るわけがない
それは動かしようのない事実だ
過保護なこの世界じゃ、のどが渇いたと思うまえに
無数の自動販売機にありつくことが出来る
それを幸せだと呼ぶやつだって確かにいるのさ
お前が
その駅で降りればどうにかなると思っているようにね
早いか遅いかだけだって
お前にだってきっと判っているんだろうに
ふたつの選択肢だけで
正解など出るわけがない
お前はいつもそう言っていたよな
真実なんてしいて言うなら
一番不透明な部分にあるものだって
俺はそのときああともいやとも言わなかったけれど
今はお前がなにを言いたかったのかなんとなく判るような気がするんだ
お前はもしかしたら
どこにたどり着くのかずっと早くから気づいていたのかもしれないな
「70歳まで生きられないやつだって居る」、キース・リチャーズが昔そう言ってたけど
今となってはそれがどういうことなのかなんとなく判るような気がするんだ
さようならというのは傲慢なことだよな
それがとてつもないさようならだとなおさらだ
俺だって本当はその意味を確かに感じていたんだ
こんなところでこんな時間にこんなものを書いている以上
俺にだってそのことはとっくに判っていたはずなのさ
「いっぱいのごみ箱をさかさまにして」お前の声がこだまする
「散らばったごみをもう一度片付けるんだ」そう言って口をすくめた
ある日のグロリアジーンズでのお前
「しいて言うならそういうものさ」俺にはさっぱりわけが判らなかったよ
お前の頭がおかしくなったのかと思った、まぁ
誰の基準に照らし合わせてそう思ったのかは疑問だけど
あの日のお前は周囲にあるものなんか見ちゃいなかった…お前の眼の中に潜む
あまり反射しない光は
飲み干したカップの中の
クラッシュアイスみたいな透過具合だった
BGMが流れていたけど
それが誰が唄っているまやかしだったのか今となっては少しも思い出せない
フランク・シナトラは老いを唄うことが出来た、お前に言うことじゃないかもしれないけど
こういう日には太陽はやたらと眩しいものだ
誰かが何かをごまかそうとしているこんな日には
夕方になると寒くなるよ、風邪を引かないようにしなくては
少し前に保険証はなくしてしまったままだから
切符を買って地下鉄に乗ろう
お前のように奇妙な真似をしながら
座席の揺れに合わせて詩をひとつ仕上げよう
人身事故があったらしっかりと覗き込もう
きっと演者は見て欲しいのに違いないのだから
お祈りの代わりに拍手をしよう
きっとそいつはそれが欲しかったのに違いないのだから
そうしてキオスクで缶コーヒーを買って(のどなんか別に渇いていないのに)
ホームの端の
目立たないところにあるゴミ箱をひっくり返して
もう一度それを片付けるんだ
弔いとは模倣なのかもしれない
無性にそういうことを考えたくてしょうがないんだ
俺はまだ生きているが
ある日演者になりたくなるかもしれない
誰だってきっと張り詰めたラインがひとつあって、怖いのはそれが切れることじゃなくて
風を待つように突然だらりとたわむこと
長く弾かれなかったギターのゲージのように
風を待つように突然だらりとたわんでしまうこと
それはどんな音も出すことが出来ない
その無声が聞こえたとき、俺は演者になりたくなるかもしれない
でも今はそういうことは考えていない
きっとゴミ箱のことを考えるのに忙しいからだ
そのとき、電車が激しく揺れ
瞬きほどの時間停電した俺は眼を固く結んだ
…しばらくお待ちください、そんなアナウンスが聞こえた
何人かは見たがって(撮りたがって)いるやつが居て
何人かは陰鬱な表情をしていた
俺はどのあたりで起こったのか確かめたかったが
あいにくと車内には人が多すぎた、くそ
俺はひっそりと悪態をついた
どいつもこいつも―
どいつもこいつも喝采を浴びたくて仕方がないらしい
しけった火薬の暴発のようなあの音―あの音が
いつかこの耳でこだまする音なのかもしれない
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