不定形な文字が空を這う路地裏

不透明でなにもかもうれしい








深く


眠ってしまったそのうちに
きみの心は砕かれる
啼いた哀しい夜の鳥
流星ほどにあてもなく


木のうろに指を這わせて、きみはなにかをつぶやいた
聞き返そうと思ったけれど
そういうものだと思ってやめた


空に浮かんだ淫美な月は、叩けば割れるいのちのようだ
伸びた爪先靴の中
指に食い込む鈍い夜


混濁の曲線の具合、きみに伝えることにしたい
あまった涙で虚空を書いて
死と知りながら
知らない闇に踏み入ろう
枝々のざわめきは
エコーする足音
堆肥に沈むのは
生業なる罪状


ときが経つと、月は
飛行船みたいに
遠い高みへのぼり
ごらんよ
まるで完璧なランプだ
その色を
その丸みを
確かな夢のように呼んで嘲笑おう


真夜中のデイドリーム、崩れかけた螺旋を
森に潜む牙で噛み切ろう、おれたちはいつでも終焉を得意とした
死ならなにもかも塗り替えることができる
闇の極限は、眩しい光りを放つのさ

ごらん

まるでおだやかな花火だ
鱗粉のように空に散った星は


好きな名前で呼べばいい
誰も咎めなどしない
定義されているものなど
本当はどうでもいいものだ


甲虫が樹液をもとめている、握りつぶすと時計の針がひとつ進んだ
なにを数えている
なにを騙している…
定義されているものなど
本当はどうでもいいものなのだ
指でべとついた
奇妙な体液を舐めると
本当の甘さを知る
柔らかな身を持った
虫の死に様は素敵に過ぎるだろう


本当は

かたちのないものになりたかった
静かに潜んで
風に遊ばれるような
あるべきでない未来に
かすかな記憶の匂いがするのは
以前に死んだときの
最後のひといきの残響なのだろうか
かたちのない死臭
かすかに流れるもの
美しいとふるえたのは
いつでもそんなあいまいな気配


きみ、さっきの
まじないのような空気
聞こえなくていいから
もういちどつぶやいて
それはきみの本意ではないだろうが
おれはもしかしたら
その振動に乗ってあの月を目指すかもしれない
夢物語と嘲笑うがいい
本当のものはいつだってはるか遠くさ



いつか
百万光年のむこうで

あの木のうろに残った
きみの指紋に出会うかもしれない
おれは手をひらいて
きみの螺旋が描いた
その形状をたどるのだ
そのやわらかさと
そのあたたかさと
哀しみと
はかなさを


そしてとても穏やかな気持ちになる、それは



たぶん
成就と呼んで

さしつかえのないものだ

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