雨をしのぶ夜に
傷口にもぐりこんだ羽虫を探り当てて
五匹集めたところで紙にくるみ
灰皿の上で
生きたまま喪にふした
おお、俺が燃える
濡れた景色にいち早く凍えながら
ここまで帰ってきたこの俺の皮膚が
もだえる、なんて似合わないほど
羽虫は跡形もなく
その羽ではいけない所まで飛んでいった
いくつかの灰に見送られながら
俺は罪を犯した、大量殺人犯だ
押し黙る声帯のふるえと同じリズムで明滅する蛍光灯
俺は手を血に染める幻を見ていた
それは自分の血、それは自分の血、それは
まごうことなき自分の血液で
炙られてもいないのに煮えたぎっていた
ホーレイ、そんな意味の判らない唄を歌いながら
砂を切らしたサンドマンが断りもなく上がりこみ
呆けた俺の傍らにどっかとあぐらをかく、どっかに行ってくれないかなと俺は思うが
こいつの機嫌を損ねると二度と眠らせてはもらえないかもしれない、なので黙って呆けているしかなかった(そのときはすでに呆けてはいなかったということだ、本当のところ)
冷えるね、サンドマンは古くからの知り合いに話しかけるみたいに馴れ馴れしくそう言った
そうだね、俺は返事を何も思いつかないので相槌だけ打って、(ああ、また相槌だけ打ってしまった)と後悔した
激しく胸揺さぶるほどの後悔ではなかったけれど
黒胡椒と白胡椒を間違えたときに比べれば
きっと微々たるぐらいのもんさ
それが重要な事柄かどうかは問題ではない、繰り返せば次第に慣れてくるものだ、という
そういう後悔をしたというだけの話で
そんなに薄いブランケットで眠って風邪を引いたりしないのか?やけにニヤニヤしながらサンドマンはそう言った
暑いとか寒いとかよく判らないんだ、いろいろと事情があってね、と
俺はとろんとした目を作って見せた
するとやつはおう、おう、と何度も頷きながら、近頃は若い輩じゃなくてもそういう愚かな真似をするもんなんだな、と
訳知り顔でそう嘆いた
俺はやつの言葉尻を奪いながら、今は若いやつは若いままで終わっちまう時代なんだよ、とそう言ってみた
「そいつはなんともみっともない時代だな」
やつはすこし気を害したようにそんなことを言った
「子供のときに砂蒔きをサボったやつがいるんでね、眠らないでいるうちに悪い遊びをどんどん覚えちまったんだよな」
俺はからかい半分にそう答えた、すると、があ、と叫びながらやつは砂が入っていたガザガザのでかい袋を俺に投げつけてきた
そいつは工事現場で使う土嚢みたいなタフな作りで、俺は避けきれず頬に切り傷を作った
袋を身体からどけるとサンドマンは俺に飛び掛ってくるところで…俺はとっさにライターを取り横に転がった
恵まれてたころに相当金をかけたオーディオ・システムにやつは突っ込んだ、その時点で、俺は
もう一生眠れなくなってもいいやと思った、やつが配線に絡まりもがいている隙に可燃性のスプレーを手に取り
オーディオ・システムに詫びながらライターに火をつけ、吹きつけた
ああ、よく燃える、馬鹿みたいによく燃えるもんだな―火がついてしまうとサンドマンだかサンタだか区別がつかなかった
やがてそいつは真っ黒になってファィティング・ポーズをとりながら死んだ、ハッハ!俺は気分がよくなって大声で笑い飛ばした、その瞬間
サンドマンのなれの果ては消え、激しく燃え上がるカーテン―俺はスプレーとライターを手に持って呆然とした
それはサンドマンではなく妹だった、幼いころからずっと俺を慕ってくれた妹
あ?
どうしてこんなことになってるんだ―カーテンの火は天井に燃え移り―助けを呼びたかったがもろもろのことがもう恐ろしく、俺はガラスを破り、外に飛び降りた、あれ…?
俺の部屋って七階だったっけ、二階だったのは―
そう、以前住んでいた所だったかな
何だよ、そうぼやこうとした瞬間ごわりという音とともに頭のどこかが砕けた…俺の目の前で可愛い女の子が腰を抜かしていた
ミニスカートで、光沢のある白いパンティーを穿いていた
自殺とかじゃないんだ、俺は火事のことを伝えようと自分の部屋の窓を指した、あれ…
燃えてねぇ
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