不定形な文字が空を這う路地裏

真夜中の肴





割と愚にもつかない夢を見たんだ、雨が降り止まない青ざめた四月の夜に
俺は小さな器にずっと絵を描こうとしていた、その器は出来たばかりなのに古びていて外側は何箇所か剥げていた
何を描こうとしているのか判らないまま筆を動かしているとやたらと塗り潰されて何を描いたのかすら見止める事が出来なくなって

俺は布を持って染料をすべて拭き取った、もちろんすべてきちんと拭き取れるわけも無く器は犯されたように汚れた
ああ俺はいったいどうしてこんなこと始めちまったんだろう、今夜はぼんやりと本でも開いているつもりだったのに
イライラしたが止めるわけにはいかなかった、仕方がないので今度は上手く描こうと
じっくりと筆を動かして狐を描いたんだ、ところが今度は尻尾が気に入らなくて
また拭き取ったのさ、もちろん前よりいっそう汚れた

仕方がないので塗り潰したんだ、白い染料を使ってまんべんなくきっちりと
そしたら乾くまで待つしかなくってさ、驚いたことに何も手につかないんだ
俺、何やってんだろう、うろたえて筆入れに話しかけた
「そんなことは自分で決めればいいだろう」
そいつこう言ったよ、生意気だね、筆入れの癖に
俺、しょうがないから乾くのを待っていた―そこで、目が覚めてさ

気付くと月が出ていたんだ、それはもう綺麗な下弦だったよ
俺は指先を空に伸ばしてその輪郭をなぞった、すると爪に鮮やかな檸檬色が
ほんの一瞬、重なったんだな
月を描いたんだ、俺

雨上がりの月を
無性に嬉しいなんて言ったら、ねえ、笑われるかね、でもさ


それ、ちょっとしたもんだったんだぜ
妙に



いい気分だった

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