そうしてトラディショナルから出て行けない俺は
ある朝連行され街を追い出された
連れて行かれたのは時代錯誤な建物の立ち並ぶ
その名も「ネクロフィリア・シティ」
トラディショナルにうつつを抜かす俺は
死体愛好家と同列だというわけさ
悔しいけれど少し笑っちまったよ
だって、なかなかイカしてるんだもの
それに、なかなか的を得てると言わざるを得ない
冷たい身体にイチモツをおったてることが
生への執着かどうかは判んないけどね
性への執着には違いないだろが
その街ではみんな古風な話し方をしていた
男は頑固で不器用だったが
身なりはきちんとして穏やかな話し方をした
女は口元に手を当てて笑い
下品な話には眉をしかめるか頬を染めるかした
ようこそ、と俺は言われた
今までどこに行ったって迎え入れられたことなどなかったのに
昼間っから街の酒場に案内され
上等のバーボンを振舞われた
俺は酒には弱かったが
誰にも強要されずにゆっくりと飲んだので楽しい酒だった
ポール・バタフィールド・ブルース・バンドの
最初のコンサートのチラシが貼られた壁のそばで
唇をひげで隠した男とボードレールの話をした
「言葉は奔流のようでなければならない」
そいつは大儀そうにそう言って微笑んだ
そんな語り口は久しぶりに聞いた
「だけどあらゆる芸術はジョークに過ぎない」
俺は演劇的に肩をすくめながら
もったいぶった調子でそう答えた
男が手を差し伸べてきたので
しっかりと握り返した
そんな話を聞きつけて
たくさんの連中が俺たちのテーブルに集まり
「ネクロフィリア・シティ」の酒場のテーブルは
ギラギラした活気に満ち溢れた
もしも詩が書けなくなったらどうする、と問われて
「命を絶つ」と答えた若い男がその夜の英雄だった
「いつもこうなのかい?」俺はひげの男に聞いた
「いつもこうさ」男はそう言って親指を突きたてた
実に楽しげに笑っていた
俺だって多分そうだったはずさ
店が閉まると俺はそいつに家まで案内された
俺のために割り当てられた家だそうだ
「困ったことがあったら言ってくれ」
街のみんなで新しい住人の家を用意するのが自然に生まれた決まりなんだそうだ
「めぼしい本はだいたい揃えてある」と男は言って帰っていった
男と入れ違いに娘がひとり入ってきて
「あなたが酒場で話していた詩の話をもう少し聞きたいの」と言った
「いいとも、何か飲む?…紅茶がいい?ミルクを少し落として?」
冗談だったが娘は驚いた顔をしてこくこくとうなずいた
「すごいわ」ぽかんとして何度もつぶやいた
そして俺たちは紅茶を飲みながら
さまざまな芸術について話した
彼女はまだ若かったけれど
解釈にはなかなかのものがあった
明け方同じベッドにもぐりこんで眠った
数時間も眠らないうちに、轟音で目が覚めた
起き上がって窓を見ると、街の向こうに凄い光が見えた
「あれはなんだ」隣で起きだした娘に尋ねた
ああ、と娘は髪をかきながら
「核実験よ」
「この街の隣には広大な実験場があるの」
―なるほどね
近いうち愛される側に回るってわけだ
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