夜という刀が俺の鼻面を切り裂いて
吹き上がる血液はだんだんと溜まり、いつかの夏の記憶の辺りまで
この心を
埋め尽くしていった
失ったものに名前なんか付けちゃいけない
存在してしまう
愛してしまう
忘れられなくなる
指折りながら
大切な日までを数えた、あんなたちまちは
どんな水溜りの中で
いまを跳ね返しているのだろう、それしかないと思った
それしかないと思えた、あの、ささやかなこもごも
全て数えた後の指の陰の中で、さら砂に変わっていた
誰かの面影を刻んだ宝物
懐かしい縁側に横たわる陰影に、描こうとしている言葉の全てがあったのだ
幼さや、純粋さや、浅はかさ
目を覆うような愚かさも時にはあったせいで
多少汚れてしまったことも哀しいとは思えないが
いまあの時ならなにをしただろうと、傷つけた人の最後の視線を思う
大人になど成れやしない
傷口をつくろうことも無く、言葉を物色している
詫びたいだけで名づけた篇も
確かに
幾つか在ったよ
俺は大人になんか成れやしない
弾かれた夢はもう見ない
怖いと、思えなくなったから
最後の距離を詰める虎のような明日の前で
畏怖するものなどもう何も無い
立ったまま果てた死骸になりたい
風に隠れるまでそのままにして欲しい
白紙の画用紙を泣声のような風にばら撒いて全てに名前をつける
そうすると
それらは
もう
半ば愛に変わってしまうのだ
最後の詩篇となると
卑怯なくらいに
見苦しいくらいに
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